独身女性の親の介護

多くの人がいつか直面する親の介護問題。生活設計が狂い、経済的困窮やキャリアの断絶、さらには家族関係の破綻へとつながるケースは後を絶ちません。介護地獄に陥った、ある女性のケースをみていきましょう。

親の介護負担に限界…

都内の企業で契約社員として働く、田中由美さん(46歳・独身・仮名)。手取りは月25万円ほどだといいますが、生活に余裕はありません。3年前、南東北の実家でひとり暮らしをしていた母親(当時75歳)が脳梗塞で倒れたのです。幸い一命は取り留めたものの、母親には右半身の麻痺が残り、要介護2の認定を受けました。

「最初は、私が仕事を辞めて実家に戻るか、母を東京に呼び寄せるか、本当に悩みました。でも、地元で新しい仕事を探すのは、ちょっと現実的ではなく、東京で母と2人で暮らす経済的余裕もありませんでした」

由美さんには実家と同じ県に住む兄(50歳・既婚)がいますが、早々に「仕事が忙しい」「嫁が難色を示している」と、介護の分担には消極的な姿勢を見せました。また母親が「住み慣れた家がいい」と希望したこともあり、在宅介護を選択。由美さんが週末ごとに実家に帰り、平日のケアは介護サービスを利用するという生活が始まりました。

しかし、事態は由美さんが想定した以上に過酷なものとなっていきます。母親は次第に「他人に世話をされるのは屈辱だ」と介護サービスを拒否するようになったといいます。

「平日は仕事でクタクタになり、金曜の夜に新幹線で実家へ向かい、日曜の夜に東京へ戻る。週末は溜まった家事と母の世話に追われ、自分の時間も休養もありません。母は『なんで助けてくれないんだ』『あの嫁(兄の妻)は冷たい』と私に愚痴をこぼしますが、兄に電話しても『お前に任せるよ』としか言わない。板挟みです」

由美さんの負担は、精神面だけでなく経済面にも重くのしかかります。介護サービス費用の自己負担分、往復の交通費、実家の光熱費の補填。それらが手取り25万円の肩に重くのしかかり、貯金は目に見えて減っていきました。

そして先日、ついに由美さんが限界を超える出来事が起こります。

「その日も、母がデイサービスを『行きたくない』と拒否して、ケアマネジャーさんを困らせていました。私が仕事の疲れもあって『お願いだから、ちゃんとして』と強めに言うと、『あんたは私を施設に捨てたいんだろう』『この冷たい娘め』と突っかかってきて」

その瞬間、張り詰めていた糸がプチっと切れたといいます。

「カッとなって、『こっちは身を削ってあんたの世話をしてるんだ! もう、お母さんの顔も見たくない!』と叫んでしまいました。母は大泣きし、私もその場に座り込んでしまいました。もう、どうしていいか分かりません」

介護は「誰かひとりで頑張る」と破綻する

厚生労働省『雇用動向調査』によると、2023年に「介護・看護」を理由に仕事を辞めた人は約7.3万人。そのうち女性が77%(修正点)を占め、介護負担に格差があることがわかります。また年代別にみると、50代が最も多くなっています。

【介護・看護を理由とした離職者】
19歳以下:0.2千人
20代:6.0千人
30代:6.9千人
40代:8.8千人
50代前半:20.8千人
50代後半:13.5千人
60代前半:10.1千人
65歳以上:6.9千人

由美さんのような40代、50代の働き盛りの女性が、仕事と介護の両立に悩み、結果として経済的困窮やキャリアの断絶に追い込まれるケースが後を絶ちません。

このような事態に陥らないためのポイントは大きく2つ。

まずは「介護はひとりだけで抱え込まないこと」。 介護が始まったとき、多くの人が「家族(自分)が面倒を見るべきだ」と考えがちです。しかし、介護は専門的な知識と体力、そして何より「終わりが見えない」という精神的負担を伴います。

介護保険サービスは、要介護者のためだけではなく、介護する家族の負担を軽減するためにも存在します。ケアマネジャーや地域包括支援センターは、家族の状況も含めてケアプランを作成する専門家です。

「お金がかかるから」「他人に任せるのは不安」といった理由で利用をためらうことが、結果として共倒れを招きます。現状を包み隠さず相談し、利用できるサービスは最大限利用することが、介護を継続させるためのポイントになります。

もうひとつが、「役割と費用負担を明確にすること」。 「長男だから」「独身だから」「近くに住んでいるから」。こうした曖昧な役割期待が、介護負担の偏りを生み、家族間に深刻な不和をもたらします。

親が元気なうち、あるいは介護が必要になった初期段階で、必ず家族全員で「誰が(どの程度)物理的なケアを担うのか」、「費用負担の割合はどうするのか」、「介護サービスをどこまで利用するのか」、「将来的に施設入所も検討するのか」など、具体的に話し合うべきなのです。

親の介護は、いつか必ず訪れる問題。「家族崩壊」という最悪のシナリオを避けるためには、公的サポートを賢く利用し、家族全員で自分ごととして課題に向き合う姿勢が不可欠です。

「母と大喧嘩したあと、兄のところにいきました。そこでも私は号泣してしまって、話にならなかったです。でもそれでやっと兄も状況がわかってきたようで……少しは母の介護に目を向けてくれるようになりました」

[参考資料]
厚生労働省『雇用動向調査』

<資産形成ゴールドオンライン>
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