国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集」によると、2020(令和2)年の「50歳時の未婚率」は男性が28.3%、女性が17.8%で、年々増加傾向が見られます。今後も結婚を希望する人が増えなければ、ミドルシニアの未婚者はさらに増え、単身世帯が増えることが予想されます。
※本稿は、藤井泰輔『正直すぎる保険の話 いる保険・いらない保険』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
株式会社日本総合研究所では、国内の45歳から64歳、正規雇用(定年を迎えた人においては、契約社員・嘱託社員含む)として就業している未婚者(今までに婚姻したことのない人)を対象に、キャリア(結婚や働き方等)に関する意識について、ウェブアンケート調査(以下、「日本総合研究所の調査」))を実施しました。本稿ではその調査結果等踏まえながら、ひとりという生き方を充実させるためのヒントを述べます。
ミドルシニアが結婚しなかった「本当の理由」
日本総合研究所の調査 のなかで、ミドルシニア未婚者に対して、若い頃、結婚や子どもを持つことへの希望をもっていたか尋ねたところ、全体としては「結婚もしたくなく子どもも欲しくなかった」(33.2%)が最も多く、「どちらともいえない」(29.1%)、「結婚をして子どもを持ちたかった」(28.2%)と続いています。
結婚や子どもを持つことを希望していた人と希望していなかった人、どちらともいえない人がおおよそ3分の1ずつ存在している状況なのです。
今まで結婚をしなかった理由を尋ねたところ、全体としては、「結婚したいと思える相手に出会えなかった」(42.8%)が最も多く、「一人の生活が好きだった」(25.3%)、「自分のための自由な時間が欲しかった(17.5%)と続いており、男女別でみてもこの傾向は変わりません。
ただし、住まい別に比べてみると、「一人の生活が好きだった」という回答は、(東京圏以外の)他地域在住が2割程度であるのに対して、東京圏在住は約3割とやや多くなっています。結婚していない理由としては良い出会いがなかったという回答が多いものの、東京圏を中心に、一人の生活や自由な時間への優先度が高いが故に、結婚をしなかった人も少なくないことがわかります。
自由意見のなかでも、結婚に対して、「少子化の問題があり、結婚しないといけない風潮が昔からあるが、個人の自由や希望がそれぞれ違うため、独身であることを社会的に認めてほしい」、「個人の自由意志に任せるのが一番だと思う」など、価値観の多様性を認めてほしい、押し付けないでほしいといった意見が多く寄せられています。個人の価値観が多様化している現在、社会としての寛容さを求めている人は少なくありません。
「友人が少ない」ミドルシニアの人間関係
先に述べた調査によれば、ミドルシニア未婚者が突然の病気など一人では対処できない状況が発生したときに頼れる相手として、「家族・親族」(57.5%)が最も多い一方、「頼れる人はいない」と回答した人も約3割存在しています。また、ミドルシニア未婚者の友人の数は多くはないこともわかっています。
過去に当社が就業をしているミドルシニアの男女(既婚・未婚含む)に調査を実施した際、男性においては、「自分よりも年齢が10歳以上若い友人の数」が0人の男性は49.2%、女性48.4%、「悩み事を相談できる友人の数」が0人の男性は40.3%、女性は25.8%となっていました。
住まいや年齢層等も調査対象が完全には同じではありませんが、未婚の方の方が友人の数が少ない方が多いのではないかと推察します。
希薄化する地域の人との人間関係
また、さまざまな相手と「共食(共に食事をすること)」する頻度を尋ねた設問では、「家族」について「毎日」を選択した人が最も多く約3割です。逆にどのような相手とは全く食事をする機会がないのか、その回答を見てみると、「仕事の知り合い(職場の人除く)」と全く食事機会がない人が約6割、「学生時代の友人」、「社会人になってからの友人」では約5割、「地域の人」では約9割に上ることが明らかとなりました。
全体の傾向として、周囲の方との日ごろからの関係性を構築できているほうが少数であることが伺えており、特に、地域の人と食事をする人は非常に少ないことがわかります。
男女別に比べると、「学生時代の友人」、「社会人になってからの友人」については、女性の方が男性よりも、「共食」をする相手がおり、頻度もやや高めである状況が窺えます。
自発的な人間関係づくりが必須
これらのことから、ミドルシニア未婚者は、悩み事を話せる友人がいない方が多く、地域の方とのかかわりもほとんどない方が多いことがわかります。
調査の対象者は、皆仕事をしていますが、働いていても人間関係が希薄であり、退職した後(あるいはその前から)、自発的に人間関係づくりをしておかなければ、孤独・孤立の問題に直面する方が増えることが懸念されます。
しかし、氷河期世代である筆者の世代で周囲を見渡したときに、そのような問題意識を持ち始めた未婚の方々のなかには、東京に住んでいながら、仕事などを含めて親しくなった方々との人間関係づくりに積極的に取り組まれる方々もいます。
そのような方々を見ていると、1対1での人間関係を大切にすることだけではなく、関心ごとなどを中心にゆるやかに人が集まる場を中心となって提供し、人と人をつなぐことで豊かな地域コミュニティを形成しています。
とある人は、趣味である創作活動をきっかけに地域の人たちが集まるフリーマーケットを開催するなどし、ゆるやかなつながりを形成していました。一個人と長く丁寧に付き合いながらも、人と人をつなぎ広くしていくことは、コミュニティ形成の1つの在り方であり、孤独・孤立から回避する方法につながるのではないでしょうか。
生きがいを生む「協同労働」という新しい働き方
一方で、働き続けるということも地域コミュニティ形成につながります。先の調査のなかでは、定年を問わず、できるだけ長く働き続けたいと考えている人が約半数弱に上ることもわかっています。こうした働きたいという想いと地域コミュニティの形成を両立させたいという方におススメなのが、協同労働という働き方です。
協同労働とは、働く人や市民が自ら出資し、事業の主体となって話し合いながら地域に必要な仕事を作り出したり、地域のお困りごと解決に取り組むという働き方です。組合員が平等な立場で経営に参画し、一方で、労働者としての権利も守られるのが特徴で、やりがいを持ちながら、のびのびと働くことのできる制度となっています。
2022年10月には、労働者協同組合法も施行されました。3人以上の仲間を集めれば、だれでも組合を作ることができ、すでに定年後のシニアの方々が集まって労働者協同組合を作っている事例も出てきています。
地域のために活躍し続けたいという志を持った仲間が集う場となっており、そこでは地域課題の解決のために働くことが、人生を豊かにするつながりを生んでいます。
元気なミドル~シニア世代が自ら仕事をつくり出し、地域の担い手となろうとする姿が注目されている労働者協同組合うえだで活躍されている北澤代表とお話をしていて心に残っているのは、活動をしているのは“自分のため”であるという言葉です。
現在の活動を通じて、生きがいや働き甲斐を感じられる場でるということだけではなく、元気なうちは、地域のために働くことが、今後もその地域に住み続ける自分のためになるということなのです。
ミドルシニアの未婚者に限らずですが、人や地域社会とのつながりを作っておくことが、高齢になった個人同士の支え合いとなり、人生を全うする上での準備につながるのではないでしょうか。