年金が少ない

「現役時代が高年収だし、老後も悠々自適の生活を送れるはず……」そう安心して年金に無関心でいると、いざセカンドライフを迎えたときにライフプランが崩れてしまう可能性も……。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、年金制度の注意点について解説します。

公的年金は2階建てで計算される

公的年金は別名2階建て年金ともいわれています。1階部分は日本に住所のある20歳から60歳の人が加入する国民年金。2階部分は会社員や公務員などの人のみに上乗せ部分である厚生年金保険。後者に加入すると年金額は手厚くなっています。

国民年金部分の計算は原則、加入期間で計算するため、年金額は定額です。厚生年金保険は、加入期間と収入(給与や賞与)が関係してきます。つまり、収入が多い人ほど、年金額は高くなるのです。

しかし、これには注意すべき点があって……。

年収1,100万円で定年を迎えたが…

Mさんは、都内で生活する独身男性。大手IT企業に勤めています。仕事はそつなくこなしながら、プライベートは気ままなおひとりさま生活を楽しんできました。Mさんの会社は60歳定年ですが、継続雇用で65歳、スキルによっては70歳までは働けそうな雰囲気です。

Mさんはいまの生活水準をキープしたいので、最低65歳までは働こうと考えています。50歳ごろから自身のスキルが認められ、収入は1,000万円超えの高収入を推移してきました。

収入が高いから老後も余裕で暮らせるだろうと、年金にも興味がなかったMさん。それでも定年間近になると、そわそわとセカンドライフについて気になってきます。

いままで毎年誕生日月に届いていた「ねんきん定期便」は開きもせずに、書類の山の中もしくはごみ箱へ。しかし、Mさんも今年で60歳。今年こそはと落ち着いて開けてみるとことに。しばらく熟読しましたが、年金見込額に愕然とします。

「なんでこんなに少ないんだ?」

Mさんの60歳時の年金見込は次のとおりです。

国民年金(老齢基礎年金)795,000円 ×400月÷480月=66万2,500円 ―①
厚生年金保険(老齢厚生年金の報酬比例部分)2003(平成15)年4月以降の計算式
62万円(平均標準報酬額)×5.481/1000×400月=1,359,288円―②
経過的加算 1,657円×400月−662,500円=300円―③

①+②+③=2,022,088円/年(月額168,507円)―④
※2023年度金額で計算

Mさんの年金は「減額」されていた

Mさんは大学卒業後、現在勤めているIT企業を新卒採用枠で受けましたが、残念ながら落ちてしまいました。結局、このタイミングでは、中小規模のIT企業に就職します。しかし、今後の給料や、受注先のレベル、扱う案件の規模に限界を感じて3年で退職しました。

経験を積んだMさんは今度こそいけるかもしれないと、一度落ちた企業に再チャレンジします。すると今度は、正社員としての採用は叶いませんでしたが、個人事業主として3年半、いまの会社で業務委託契約として働くことが認められたのです。その後、スキルを認められ社員として働き始めたのです。

さらに、社員として採用された際の雇用契約も、月々決まった金額が保障され、報酬額は月70万円。その後、昇給を続け報酬額は月90万円超になり、いわば勝ち組サラリーマンとなりました。

報酬額が高いのなら、さぞかし年金額も高いのだろうと思い込んでいたMさん。しかし、その考えとは裏腹に、ねんきん定期便の見込額は想像していた金額より少なく、月額約17万円と、現役時代の約5分の1程度ということがわかります。

では、いったいなぜこんなに少ないのでしょうか。

年金減額の理由

年金額が低くなった大きな理由は2つあります。

ひとつは、学生時代と個人事業主のあいだの年金納付です。本来は、学生時代と個人事業主のあいだ、国民年金第1号被保険者として保険料を納付しなければいけませんが、Mさんは無関心だったため、未納のままにしていました。

もうひとつは、厚生年金保険の計算は、月々の給与も賞与も上限額があることです。月々の報酬の上限は65万円、賞与が支給されたとしても1回につき150万円までとなります。つまり、月収が65万円であっても90万円であっても標準報酬月額は65万円、標準賞与額は月間の支払が150万円であっても500万円であっても1回の上限は150万円で計算されるのです。

「そんな……年金が減額されていたなんて……」ショックのあまり意気消沈してしまったMさん。しかし、Mさんの低い年金見込額は、年金にまったく関心のなかったMさんが招いた結果なのです。

60歳以降、年金額を増やすには

このままでは、気ままなセカンドライフはおろか、老後破産もありうる金額だと悟ったMさんに救いの手はあるのでしょうか?

定年後も再雇用として働き引き続き厚生年金保険に加入すると、年金額を増やすことができます。国民年金保険料が未納だった期間も厚生年金保険の差額加算(経過的加算)で国民年金(老齢基礎年金)相当額を480月になるまで増やすことができます。

経過的加算額は、「定額部分に相当する額−厚生年金保険に加入していた期間について受け取れる老齢基礎年金の額」で計算します。定額部分の方が老齢基礎年金より高額のため、差額分を補う加算です。

特に国民年金の加入期間が480月に満たない人が、20歳未満や60歳以上に厚生年金保険に加入する働き方をした場合、厚生年金保険の経過的加算額で国民年金(老齢基礎年金)相当額分を補うことができます。

仮にMさんが高収入のまま60歳~65歳まで厚生年金保険に加入した場合、増える金額は次のとおりです。

経過的加算 1,657円×460月−66万2,500円=9万9,720円(③含む)―⑤
報酬比例額 65万円×5.481/1000×60月=21万3,759円 -⑥

①+②+⑤+⑥=233万5,267円/年(月額19万4,606円)
※2023年度額

65歳まで、標準報酬月額65万円で働くことができれば、年額約30万円、月額2万6,000円プラスとなります。

長く働くメリットは給与を得ることだけじゃない

厚生年金保険は70歳になるまで加入できるので、年金を少しでも増やしたいのであれば長く働くことをお勧めします。さらに、給与で日々の生活が賄うことができる場合、「繰下げ受給」という選択肢もあるでしょう。

ただし、給与が高いと、在職老齢年金制度により、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給停止される可能性があるので注意が必要です。働けるうちはなるべく長く働いて年金は働けなくなったときの備えとして考えてみてはいかがでしょうか。

また、日常生活の収支を見直し、貯蓄にまわす金額を増やすようにしましょう。資産形成の方法を一度専門家に相談してみてもいいかもしれませんね。

<THE GOLD ONLINE>
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