独身男性マンション購入

毎年のようにいろんな雑誌で特集が組まれながら、論争の着地点が一向に見えない「賃貸と持ち家、どっちがお得?」問題。僕も長年、いつか家を買いたいという憧れを抱きつつ、なかなか踏ん切りがつかず、ずっと賃貸生活をしていました。

が、40歳を迎えて、ついに中古マンションを購入。築50年超のヴィンテージマンションをフルリノベーションし、晴れて一国一城の主となりました。

とはいえ、ここに至るまでの道のりはひたすら暗中模索。こういう家の話ってなかなかデリケートで、身近に相談できる人がいなかったり、ネットで調べても境遇が似ている人がいなくて参考にならなかったりで、情報というのがあるようでないんですよね。

きっとミモレ読者の中にもマンション購入を検討しているけれど、不明なことが多すぎて踏ん切りがつかない方もいるはず。そこで今回からしばらくの間、僕のマンション購入記をお届けしたいと思います。

ただし、これはあくまで40歳、シングル、フリーランスという僕の一事例。無闇にマンション購入を推奨する気はないですし、自分のケースがベストプラクティスだともまったく思いません。ただ、「中古マンションって実際どうなの?」「リノベーションっていくらかかるの?」と迷っている方のお役に立てるよう、自分が体験したことを、失敗や後悔も含め、できる限りリアルにお伝えできたらと思っています。どうぞお付き合いの程、よろしくお願いいたします!

ということで、初回はなぜ僕が中古マンションを買おうと思ったかについて。僕自身、「賃貸と持ち家、どっちがお得?」問題は最後の最後まで悩みました。なぜなら、どちらも一長一短で、どっちがお得なんて簡単に言い切れるものではないから。実際、ある局面ごとに比較しても、それぞれいい点と悪い点が浮かび上がってきます。

まずは住居費について考えてみましょう。当時の僕の家賃は管理費込みで10万5000円。東京・恵比寿駅から徒歩12分で広さ30㎡という条件を鑑みればリーズナブルなほうではあります。それでも、毎月10万円もの金額がただの借り物の部屋に消えているかと思うと、もったいなさは否めず、だったら同じくらいの金額でローンを組んでマンションを買ったほうが資産にもなるし、有益ではと思わなくもありません。

しかし、建物というのは当然老朽化します。長く住めば住むほど、あちこちガタも出るでしょう。そのとき、フットワークが軽いのは断然賃貸。傷みはじめた部屋を都度都度手入れしながら暮らすより、新しい部屋に住み替えたほうが快適指数は高い。家は資産になるけれど、負の資産になることもあるよなあと考えると、住居費だけでは単純にどちらがいいかは決めがたいのが正直なところです。

ならば、ハード面ではどうでしょう。同じ10万円の住居費をあてれば、持ち家の方が俄然グレードの高い部屋に住めます。当時、僕が借りていた部屋は入居前にリフォームされたばかりで内装は悪くありませんでしたが、浴室は未修繕のままだったので昭和風のタイル張り。日当たりも悪く、1日ベランダに干しても厚手のフーディーなんかは乾かなかった。この点では、持ち家に軍配が上がります。

ただその一方で、今この年齢であれば毎月10万円のローン返済もさほど負担ではないけれど、その状況がこの先ずっと続くかはわかりません。特にフリーランスなんて1年後どころか3ヶ月後の仕事の見通しさえつかない身。いずれ仕事が立ち行かなくなって青息吐息になっている将来もめちゃくちゃリアルに想像できる。自分の収入に応じて家賃をサイズダウンできる賃貸のほうが、浮草稼業の僕には合ってそうです。

将来的な安心も大事な項目です。独居老人になると、なかなか部屋を借りられないというのは、よく聞く話。年をとってから住まいの心配をするのは、さすがに辛い。ちゃんと雨露をしのげる場所があるのは安心という砦にもなります。

けれど、いくらローンを完済したところで、毎月の管理費や修繕積立金はかかる。特に修繕積立金なんて築年数が増すほど上がっていくだろうし、固定資産税や都市計画税といった出費も地味に痛い。家を買えば安泰というわけでもなさそうです。

比べれば比べるほど、どちらもメリット・デメリットがあって、決め手に欠ける。結局、賃貸にするか持ち家にするかは、単なる損得では選べないというのが、僕の結論でした。

じゃあ、どうしてマンションを買おうと決めたのか。答えはすごく簡単で。自分の人生に何か事件がほしかったからです。

30代も半ばに差しかかったあたりから、自分の人生にまるで事件が起きていないことを自覚しはじめていました。もちろん日々細々と何かしらの出来事はある。だけど、友人と酒を酌み交わすとき、「最近どう?」と聞かれても取り立てて報告する近況がない。年末に1年を振り返ってみても「忙しかった」「仕事ばっかりしていた」で終了。

周りは「結婚した」「子どもが産まれた」「息子が来年の春で小学生になる」など、着々と人生ゲームのコマを進めているのに、自分は同じエリアを延々と堂々巡りしている気分。家族を持つと子どもの成長が自然と年表を埋めてくれるのだろうけど、シングルでいるとどうしたってそのへんがアバウトになる。

会社員でもない僕は、昇進とか異動とか、外的要因によって環境が変わることもないので、ますます変化に乏しい。このまま似たような毎日を送っていたら、どっかで頭がおかしくなりそうな危機感があった。その前に、これぞというデカい事件を起こしたかったのです。マンションを買うことは、スカスカの自分史に碑を建てる行為でした。

もう一つ理由を付け足すとするならば、たぶん何かを残したかったんだと思います。自分はこれだけのことをやり遂げたのだという成果を、物理的な意味でも精神的な意味でも残したかった。

僕の生業である記事を書くという仕事は、どんなに心を尽くしたところで、おおむねその場限りで読み捨てられていくものがほとんど。何年も前の記事を何度も何度も読み返してくださる方がいることはもちろんよくわかっていますが、それでも何かを残せたと思えるほどの達成感を味わえることは稀です。

瞬間風速的に消費されていくものではなく、厳然と残るものをつくりたい。そして、それを10年、20年と末永く慈しんでいきたい。たぶんこれからの僕自身が目指す働き方/生き方というのがそれで。マンションを買うことは、自分がこれからどんなふうに生きたいかを確認・実践する行為でもありました。

そんな心境に後押しされ、マンション購入へ舵を切ったのですが、それは思った以上に長く険しい旅路の始まりもでもあり……。一体、どんな荒波が待っていたのか。続きは、また次回。

<mi-mollet>
40代独身・フリーランスの僕が「賃貸と持ち家、どっちが得か」問題を悩み抜き、それでもマンション購入を決めたワケ

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