ひとり老後の収支

3月31日に少子化対策のたたき台が公表されましたが、最近は少子高齢化、労働人口減少の問題をニュースで目にする機会がますます多くなりました。

子育て支援の具体的な政策や、労働人口減少に起因する物流業界の2024年問題など、いよいよ差し迫った問題となりつつあるようです。

少子化とセットとなっている高齢化も重大な社会課題として、長らく論じられてきました。中でも少子化の要因となっている独身世帯の増加も看過できない事象です。

今後あらたな社会課題となりうる高齢独身世帯を、ひとり老後の観点から、収入と支出をテーマに検証してみました。

60歳代「ひとり老後」の平均的な収支

60歳代の生活を考える上で欠かせないのは、定期収入となる年金と貯蓄です。
平均的な支出をモデルとして、60歳代の「ひとり老後」の生活を可能な範囲で検証してみました。

厚生年金の受給額

老後生活の基本的な定期収入は年金です。まずは、厚生年金の受給額を確認してみましょう。
厚生労働省が発表した令和3年度の年金受給額(65歳以上)は以下のとおりです。

出所:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
出所:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

男性:16万9006円
女性:10万9261円
※国民年金を含む

単身と家族世帯の分類はされておらず、全世帯の平均受給金額です。

世帯によっては他の定期収入があるケースや、自営業などで国民年金しかなく収入が少ないケース等も考えられますが、ここでは平均的な厚生年金を軸として考えてみます。

平均貯蓄額と平均支出

総務省統計の2019年全国家計構造調査によると、単身60歳代の平均貯蓄残高は、以下のとおりです。

出所:総務省「2019年全国家計構造調査 所得に関する結果及び家計資産・負債に関する結果 結果の概要」

男性:1791万2000円
女性:1423万3000円
こちらの調査資料には、中央値は掲載されていませんでした。実際は大きなばらつきがあるものと見られます。

また総務省統計局の「家計調査(家計収支編)」2022年版によると、65歳以上世代の平均消費支出額は、14万9208円です。
物価高の影響もあって、前年の13万7210円を上回りました。

平均収入と平均消費支出の差

男性:16万9006円-14万9208円=1万9798円
女性:10万9261円-14万9208円=▲3万9947円

女性年金受給額は、賃金の低さや加入期間の短さが影響し、男性よりも低い傾向にあります。
そのため、単純に平均値を用いた収支ではこのような数値となりました。
消費支出にはローンの支払いや介護費用が含まれていないため、世帯によって実際の支出はもう少し多くなると考えられます。

貯蓄を切り崩して老後生活を送る可能性

総務省統計局の統計結果では、あくまでも平均値を用いているため、個人ごとの詳細の検証はできません。
しかし、概算で見ても「いざという時のために貯蓄を使わずに年金だけで生活する」という老後生活を望むには、家賃や住宅ローンの支払いがない、節約した生活を送ることが前提条件となるとわかります。

基本的には、資産を少しずつ切り崩すか、労働、もしくは不動産や配当などの定期収入でカバーすることになるでしょう。
また最近では働くシニアが増加傾向にあります。健康でいる限り、働くという選択肢を常に考えるかもしれません。

老後生活の住まいはどうする?

一生賃貸か持ち家がいいのか?というテーマが長らく論じられています。

状況にもよりますが、独身で高齢になると賃貸契約を結ぶことが難しくなるケースも考えられるため、できればマンション購入などを視野に入れておいたほうが良いでしょう。

持ち家のメリットは、コスパだけでは計れません。
マンション購入は、老後生活が始まるまでに支払いを完了してしまうと、住居費の負担を軽減できます。
資産価値のあるマンションであれば、売却して高齢者住宅の資金にすることも可能です。

一方で、何らかの事情で住み続けることができなくなったり、近隣トラブルに見舞われたりするなど、気軽な転居ができないデメリットもあります。

メリットとデメリットを考えてみて、賃貸契約が締結しにくくなるデメリットが上回る場合、持ち家を検討したほうが良いかもしれません。

老後に向けた資産形成

伸びる健康寿命と変容する年金制度を鑑みると、これからの老後生活は、全く新しいものとなるでしょう。
ここまで検証してきた現行の老後生活の収支は、社会背景の違いから、参考にできないかもしれません。

個々の状況によって老後の生活スタイルは大きく異なるため、お手本となるモデルを提示することは難しいですが、ある程度の資産を持つほうが良いことに変わりはないでしょう。

老後の資産形成に向けて、代表的な2つの運用方法を紹介します。

iDeCo

iDeCoとは、個人型確定拠出年金の通称で、自分で自分の年金を作り上げるための制度です。以前のような年金の給付が難しくなり始めた頃から、政府が推奨し始めました。

毎月自分で決めた掛け金をiDeCo口座へ積み立てつつ、定期預金や債権、投資信託を組み合わせて運用します。

iDeCoの掛け金は所得控除の対象にもなるため、住民税と所得税の節税にもなります。
基本的に60歳まで引き出すことはできませんが、老後の資産形成という目的であれば特にデメリットとはならないでしょう。

NISA

NISAとは、NISA口座の運用で獲得した収益を非課税にする制度です。
最近では、投資のことを調べるとまっさきに出てくるワードになっているため、概要を知っている人も多いのではないでしょうか。

一般NISAとつみたてNISAのどちらかを選ぶことができ、一般NISAは、非課税投資枠が年間120万円まで、非課税期間は5年間です。

つみたてNISAは、非課税投資枠は年間40万円までで非課税期間は20年間となっています。

iDeCoのように60歳まで引き出せない、という決まりはありませんので、お金に余裕がある時に集中的に投資するなど、柔軟な資産運用を考えている人に向いています。

ただし2024年に新NISAが始まるため、制度は大きく変わる予定です。

老後に向けた資産形成を

将来のお金の計算ばかりしていて、今の生活が充実せずに心配事ばかり先立ってしまうのは本末転倒です。
しかし、どのような生活が待っているのか、おおよそでも予想できていれば、多少の準備や心構えもできます。

新しい時代が到来しても、ある程度の資産を持っておくと心強いものです。
出来得る限りの資産形成は、できるだけ早い時期から取り掛かってみてはいかがでしょうか。

<LIMO>
60歳代「ひとりの老後」収入と支出の目安や有効な老後対策は

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