生涯未婚率は14.9%に増え、80才以上の単身社は2025年までに223万人に上る見込み。生涯未婚、離婚、夫と死別など状況はさまざまだが、女性のおひとりさまが激増する時代、自立した幸福な老後のために身につけておきたいこととは?「プロの独身」としてひとり暮らしを満喫するエッセイストの小笠原洋子さん(72才)、インターネットを武器に「コンピューターおばあちゃん」とも称される溝井喜久子さん(87才)の生き方にヒントが。
令和の日本は「おひとりさま」だらけの国になる。国勢調査によれば、男性の生涯未婚率は1985年から2020年で、3.9%から25.7%にアップ。女性の生涯未婚率も4.3%から14.9%に増加した。35年前と比べて、男性6.5倍、女性3.5倍と激増になる。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2025年の単身世帯は2015年より8.4%増えて1996万世帯に達するとみられている。特に80才以上の単身女性は2025年までに34%増加して223万人になり、全年齢階層の中で最も多くの単身世帯を抱えると見込まれる。
時代の変遷とともに「結婚」への価値観も変わり、『結婚しない自由』や『離婚する自由』が否定されない世の中になった。そんな時代に女性はひとりでどう生きればいいのか。
独身研究家の荒川和久さん
経済的自立だけが自立ではないと説く。
「経済的に自立して、誰の力も借りずに生きることは『プロの独身』ではなく、ただの『孤立』です。自立するとは誰にも頼らないことではなく、自分の判断で誰かを頼れること。“私は独身だから、何でもひとりでいい”と意地を張るのではなく、周囲を頼ることが大切です」
ウーマンライフパートナー代表の中村真佐子さん
「何らかの事情で、老後の資金準備ができなくても大丈夫」と話す。
「老後は年金での生活が基本。足りないときは生活保護など、さまざまな福祉制度があります。従って現役時代に保険料を払うこと、年金を少しでも増やす働き方をすることが大事です。
その上で、女性がひとりで生きるためにお金より大事なのは、健康面や経済面、自分の置かれている立場などを理解して、自分をマネジメントする力をつけることです。
日本は社会保障制度が充実していますが、援助や手当などをもらうためには申請が必要です。そうした情報を収集して、実際に制度を使いこなす能力も求められます。ただし、何でもひとりでやる必要はありません。困りごとや不安なことがあったとき、誰かに『相談する力』が最初の一歩としてとても大事です」
エッセイストの小笠原洋子さん(72才)
「プロの独身」と呼べる女性のひとり。小笠原さんは大学卒業後に学生時代の友人と結婚したが、30代で離婚した。
「大家族に生まれ育ち、子供の頃から愛情の圧迫を感じて、ひとりになりたいという願望が強かったのです。成り行きで結婚してからも何かに縛られているという感触がつきまとい、離婚して、“やっとひとりになれた”と思いました」(小笠原さん・以下同)
離婚後は画廊や美術館の学芸員として働いた。住まいは実家の土地を売ったお金で分譲の団地を買ったが、65才で手放して賃貸の団地住まいに切り替えた。現在は東京郊外の緑豊かな地域で、月約3万円の年金暮らしを満喫する。
「月10万円前後の生活費は1日1000円をめどとして、あとは貯蓄を取り崩しています。節約が欠かせずお金の不安はありますが、あまり窮屈にならないよう心がけています。
私はもともと人間づきあいが苦手なので、ひとり暮らしは苦になりません。老後の仕事は生活を楽しむことだと思っています。毎日一度は緑の中を散歩して自然と触れ合い、いまの季節に森や草花の中にいると、本当にエメラルドの宝石に囲まれた感じがします。朝起きるときに、今日は何を食べよう、何を着ようと考えることも楽しんでいます」
若かった頃は、海外に一人旅にも出かけた。いまは質素な暮らしが心地いいと語る小笠原さんは、気分転換に団地や自治体が開催する無料の講座やイベントに参加して地域住民と触れ合う。ひとりを楽しむ術を彼女はよく知っている。
生涯独身や離婚した女性はもちろんだが、たとえ結婚していても、女性の老後は夫の死によってひとり残されるケースが多い。いざ、ひとりになったときのために「シミュレーション」をしておくことが大切と小笠原さんは言う。
「老後にひとりになった女性が寂しい思いをしないように、家族がいるうちにひとりになったときのシミュレーションをしておくべきです。老婆心ながら、一人旅をしておけばいいと思います。
また、わが家は台風がきたときや自分が倒れたとき、事故に遭ったときなどの緊急連絡先を押し入れの壁に貼ってあります。緊急時に何をすればいいかのメモも手製の危機管理ボックスに入れてある。何か起きた際、そこを探せば慌てずにすみますから」
やはり大切なのは事前の備えのようだ。
埼玉県在住の溝井喜久子さん(87才)
75才でTwitterを始め、いまも盛んにSNSを更新していることから「コンピューターおばあちゃん」と呼ばれる溝井さんは、50年以上連れ添った夫の秀昌さんを2015年に亡くした。
「夫の死でひとりになりましたが、困ったことはありませんでした」
そう語る彼女が大きな武器とするのがインターネットだ。
「高齢のひとり暮らしにはインターネットが欠かせません。年を取ると買い物にも出にくくなるので、インターネット通販を利用します。お肉やお刺身、お菓子から、メダカや金魚まで何でもAmazonで買っています。コロナ禍で人混みの中に行きたくないから、通販は助かります。『インターネットは苦手』という高齢者も多いけれど、何も怖くないし失敗することもない。本当に便利だから、使わないと損です」(溝井さん・以下同)
買い物以外でもネットを重宝する溝井さんはiPadを4台所有し、食卓やリビング、寝室など、自分の行き先に設置している。
「わざわざ持ち歩かなくても、動いた先にiPadがあるから便利です。いまは何でも検索すればすぐわかるから、情報収集には困りません。インターネットを利用することで頭の運動にもなるし、時代に取り残されることもない。離れて住む子供たちともメールや動画でやりとりしています」
彼女がすごいのは、他者とのコミュニケーションを欠かさないことだ。SNSを使いこなし、コロナ禍ではZoomのやり方もマスターした。
「高齢のひとり暮らしだと、人に会わないと、やっぱり寂しい。私はインターネットを通じて若い人たちと知り合いになって、メールやツイッターでやりとりをしています。Zoomでお茶会をしたり、大学時代の懇親会をすることもあります。いくつになっても、持つべきものは友達なので、インターネットを最大限に利用してコミュニケーションを楽しんでいます」