43歳のアシュリー・マレロさんは、医療機器メーカーの営業として患者と接する仕事に深いやりがいを感じている。仕事だけではない。ニューヨーク市内の自宅のほか、ニュージャージー州の海辺の街に別荘を持ち、旅行に頻繁に出かけるなど、高収入で子供のいない独身女性であることに伴うライフスタイルと経済的自由を楽しんでいる。
「自分の人生に満足しており、とても充実している」と話すマレロさんは、「私は子供が大好きで、友人の子供たちもかわいいと思う。でも、子供のいる生活が気に入るかどうかは分からない」と語る。ただ、将来の選択肢を残すため2018年に卵子を凍結保存したという。
マレロさんのように、出産を先送りするか、完全に放棄する女性が増えている。その結果、多くの人が前の世代よりもキャリアを伸ばし、富の新たな領域に足を踏み入れている。セントルイス連銀の最新調査によると、子供のいない独身女性の平均資産は2019年時点で6万5000ドル(約912万円)と、子供のいない独身男性の5万7000ドルを上回った。一方、シングルマザーの平均資産はわずか7000ドルだった。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前から、子供を持つ魅力は薄れつつあった。コロナ禍がもたらした厳しい状況により、そうしたトレンドが加速したようだ。ピュー・リサーチ・センターの昨年の調査では、子供がいない18-49歳の米国民の44%が、いずれ子供を持つ可能性はそれほど高くないか全くないと回答。この比率は18年から7ポイント上昇した。
米国の出生率は過去30年にわたって低下が続いている。晩婚化が進み、高齢出産が増えたためだ。国勢調査局の分析によると、1990年時点で、15-44歳の女性1000人当たりの年間出生数は約71人。2019年までにこの数字は約58人に減少した。それと同時に、子供がいない25-34歳の女性の比率が18年に過去最高に達したことも、1976年にさかのぼるこのデータの最新の数字が示している。
多くの専門家は米国民が子供の数を少数にとどめるか、全く持たないことを決める重要な要因として、家族を養うコストの増大を挙げている。ブルッキングズ研究所によると、2015年に生まれた子供を17歳まで養育するのにかかる費用は推定31万605ドルで、インフレ調整のための政府の計算を適用すれば、さらに約2万6000ドルが加算される。この予測には大学教育の費用は含まれていない。
他にも考慮に入れるべきコストがある。働く女性は妊娠中や出産後に「母親ペナルティー」にさらされることが幾つかの調査で示されている。シンクタンクのセンチュリー財団で女性の経済的正義担当ディレクターを務めるジュリー・カシェン氏はコロナ禍前の調査で、母親が被る不利益は5歳未満の子供1人につき年収の15%に相当すると分析。黒人やラテン系の母親は、白人よりも負担が大きくなると指摘していた。
メリーランド大学のメリッサ・カーニー教授(経済学)は、文化的変化も女性の出産高齢化や産まない選択を後押ししていると主張。1990年代から2000年代初頭にかけて、米国の若い世代は子育てや女性の社会進出を巡るさまざまな規範の中で成長した。アスペン・エコノミック・ストラテジー・グループのディレクターを務め、3 人の子供の母親でもあるカーニー教授は、「人々の優先順位が変わったようだ」と述べた。
4年間の結婚生活を経て2008年に離婚したマレロさんは、誰もがうらやむような経済的自立を享受している。19年に約90万ドルで購入し、その後改修を施したウエストビレッジのアパートに住み、今年6月にはニュージャージー州のロングビーチアイランドにある別荘の契約を結んだ。別荘を共同で購入した数歳年上の姉クリスティーナさんも独身で子供がいない。旅行もこの1年に10回行った。そのほとんどが独身で子供がいない25人程度のグループの誰かと一緒だった。
マレロさんらが選んだ人生にはマイナス面もある。独身で子供がいなければより高い税金を支払わなければならない。特に住宅価格と家賃が記録的な高水準にあり、住宅ローン金利も上昇する中、1人の収入で住宅を取得するのは2人の場合よりもはるかに厳しい。子供がいない人にとっては、老後の生活も心配の種だ。
マレロさんは気が変わったときのために、卵子を冷凍保存する費用をまだ支払い続けている。しかし、子供を産まなくても、自分が何かを失ったとは思わない自信があるという。「子供がいないのはその人の選択かもしれないし、そうでないかもしれない。でも、それはその人の幸せとは何の関係もないはずだ。その道を選んでも幸せになることはできる」とマレロさんは語った。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:US Women Who Stay Single and Don’t Have Kids Are Getting Richer(抜粋)
<Bloomberg>
独身・子供なしの米女性、経済的自由を掴む-少子化に拍車か