かつて、モテる男性の条件といえば、「3高(高学歴・高身長・高収入)」などと言われましたが、最近は特に「コミュニケーション力」が重視されているようです。
この傾向は実は海外でも顕著で、つい最近も、ネット上で大きな話題になりました。
日本のあるマッチングアプリ会社が女性ユーザーに行った「ハイスペック男性の定義」についてのアンケート調査によれば、1位は「高年収」、2位は「コミュニケーション能力が高い」、3位は「マナーが良い」という結果でした。
「結婚したい男性像」を尋ねた別の調査では、1位は「育児や家事をしてくれる人」、2位は「浮気と無縁で自分だけに優しい人」、3位は「仕事を頑張る人」、4位は「会話が面白い人」、5位は「節約が得意で家計に優しい人」という結果に。
「高収入」は7位、「背が高い人」は13位、「高学歴な人」は16位で、まさに「高学歴・高身長・高収入」というかつての「3高」はすっかり「時代遅れ」となりました。
ではなぜ、恋愛や結婚で、男性の「コミュ力」が必須要件となったのかについて、まずは掘り下げていきましょう。
「コミュ力」が求められる3つの理由
なぜ、今の時代、「コミュ力」がそれほどに求められるのでしょうか。次の3つの理由が考えられます。
【理由①】「コミュ力=稼ぐ力そのもの」だから
農林漁業などの第1次産業、工場などでの製造などの第2次産業に従事する人の割合は、戦後すぐの時点では日本の就業人口の7割、50年ほど前まで5割を占めていました。
そうした仕事では、多少、口下手でも、黙々と働いて稼ぐことで評価を上げることができました。今、その割合は3割程度まで減り、実に約7割の人がサービス産業に従事しています。
多くの仕事において、何らかの形で、人と対峙し、やりとりをしながら、仕事を進めなければなりません。
「書く」「読む」「話す」「ほめる」「叱る」「指示する」「説明する」「対話する」「説得する」など、常に何らかの「コミュ力」が求められ、その巧拙が仕事の成否に大きく影響を与えます。
コミュ力が収入に直結しやすいというわけです。
【理由②】女性の社会進出に伴う価値観の変化
家庭を犠牲にしてまで仕事をする人より、妻と協力し、コミュニケーションをとり、子育てや家事をしっかりと手伝う人を求める人が増えています。
子育てには「高いコミュ力」が必要です。子どもとのやりとり、学校や他の保護者との付き合いなど、人と上手に付き合い、助けを借りることのできる人ほど、子育てはしやすいのは事実で、そういう男性を女性は求めている、ということです。
【理由③】「結婚相手に求める基準」そのものが高くなっている
かつて、結婚がデフォルトであった時代には、結婚相手に多くを求めることは難しい側面がありました。
万が一、結婚相手が「期待外れの人」であっても、親兄弟や親戚、近所の人など、サポートしてくれる人がおり、配偶者にそれほどの役割を期待せずともやっていけたわけです。
しかし、核家族化が進み、人間関係が希薄化する現在では、結婚相手に、「たんなる稼ぎ手」や「妻」「夫」としてだけでなく、「友人」「仲間」「親代わり」など、多くの役割を期待しがちになり、「相手に求める条件」は非常に厳しくなっているのです。
男性がどんどん孤独化している
社会的な重圧も少なくなり、いまや、結婚はもはや選択肢のひとつでしかなく、「妥協をしてまでする必要のないもの」となりました。
特に女性が結婚相手、デートの相手として男性に求める水準が上がっているのは、世界でも見られる傾向です。
その結果として、「男性がどんどんと孤独化している」という記事が最近、アメリカのある心理学誌で発表され、ネット上で、議論を巻き起こしました。
それが、「Psychology Today」という心理学誌のサイトに2022年8月9日に掲載された、心理学者グレッグ・マトス氏の「The Rise of Lonely, Single Men」(「寂しい、シングル男性の増加」)という記事です。
瞬く間にネット上で注目を集め、テレビや新聞など多くのメディアが取り上げるなど、話題となっています。
長年、カップルのカウンセリングや恋愛などの相談にのってきたマトス氏曰く、
【1】マッチングアプリの広がり
【2】女性の求める水準が厳しくなっていること
【3】関係性を維持するために必要な男性側のスキルが不足していること
などが、「孤独なシングル男性の増加」につながっていると指摘しています。
マッチングアプリは、男性のほうが不利?
マッチングアプリでは、アメリカでは平均で約62%、日本でも平均して約6割程度を男性が占めるなど、「必然的に男性のほうが不利で、その競争は熾烈を極める」とマトス氏。
さらに、女性側が、「同じ価値観を共有し、優れたコミュニケーションスキルを持ち、共感をしてくれる男性としかデートをしなくなっている」と指摘しました。
マッチョなカルチャーも残るアメリカでは、「『アルファメール』(alpha male)と言われる『肉食系男子』こそが男の中の男であり、モテるのだ」という考え方も根強くあります。
記事に対し、女性側からは多くの賛同の声が上がった一方、一部の男性からは怒りの声も上がり、マトス氏の元には、大量のヘイトメールが押し寄せる事態となったのです。
もちろん、恋愛や結婚はあくまでも選択肢のひとつでありますが、女性の場合、未婚や子どもがいなくても幸福度が高い一方で、男性の場合、パートナーがいない人のほうが、幸福度が低いという結果が出ています。
男性のスキル不足について、マトス氏は、「低いコミュ力が許容されにくくなり、関係性を保つスキルがなければ、恋人を見つけることは難しい。男性が、コミュニケーションスキルをアップデートしていく必要があるが、そういったノウハウが家庭でしっかりと教えられる機会はあまりない」と記しています。
「恋活・婚活」の前に、まず「コミュ活」が必要
「コミュニケーション教育」の盛んなアメリカでこういった事態であるのですから、「話し方」などがまったく教えられることのない日本の状況は推して知るべしと言えるかもしれません。
残念ながら、人間関係構築に必要な「コミュ力」を学ぶ機会が日本にはあまりに少なく、男女問わず、多くの日本人が、人間関係に悩みを抱えています。
20代男性の4割が「デートの経験がない」、また7割が「配偶者、恋人がいない」という、6月に発表された内閣府の白書に衝撃が広がりました。
恋活、婚活の前にまずは「コミュ活」が必要です。
「少子化対策が必要だ」というのであれば、まずは健全な人間関係を築いていくための「コミュニケーションの基本ルール」である「話し方」を学ぶ機会を、もっと増やしていくべきなのではないでしょうか。
<東洋経済ONLINE>
「寂しい独身男性が急増」世界中で問題の深い背景