今回の相談は、一般企業でフルタイム勤務をしているAさんからです。Aさんは、会社の経営や人間関係が悪化し、メンタル面の不調に陥ってしまったようです。
Aさんは持病があるほか、仕事環境が精神的につらいため、できれば会社を早期退職したいと考えています。
退職後は「週3回ほどのパート収入で細々と生きていきたい」とのことですが、実際の家計収支はどの程度が望ましいのか、お悩みです。
【家族構成と家族の年齢】
Aさん:51歳(女性・独身)
【年収】
470万円(コロナ禍の影響で、現在は記載額から100万円減少中)
【資産】
3000万円(両親は他界しており、相続の予定はなし)
【具体的なお悩み】
私は現在、一般企業でフルタイム勤務をしているのですが、会社の経営が悪化しています。人間関係も良くない状況です。私は持病があるほか、こうした仕事環境が精神的につらいため、メンタル面の不調に陥ってしまいました。できれば会社を早期退職したいと考えております。
今後は週3回ほどのパート程度の収入で、細々と生きていきたいです。
そうした働き方に切り替える上で、これからの人生において、月の収入・支出額はどの程度が望ましいでしょうか。試算をお願いいたします。
「すぐ退職、1年休む」前提で試算
体調を最優先させることを考えれば、我慢せずに早期に退職して、ゆっくり休んでからパート勤務を始める方が良いでしょう。今まで頑張って貯めてきた3000万円の金融資産があるからです。それに加えて、失業給付を受けられることも、休養をお勧めする理由の一つです。
休んでいる1年間の収入は0円、支出は264万円ですが、Aさんには失業給付があります。ご年齢を考えれば150日分の失業給付金を受け取れるはずです。
給付金額が定かではないため、試算では失業給付金を100万円と仮定します。その場合、年間の収支は164万円(100万円-264万円)の赤字になります。
また、退職後もAさんには国民健康保険・国民年金の支払いが発生することを忘れてはいけません。その金額を年間25万円とすれば、赤字額は189万円に増えます。保有している金融資産額は3000万円あるため、189万円を取り崩すと2811万円になります。
52歳からは週3でパート勤務が始まります。Aさんが1日何時間働くことを希望されているのか分からず、「細々と生きていきたい」というご要望には少々多いかもしれませんが、当面の年収は年間100万円とします。
年間収入100万円、年間支出289万円ですから、年間の赤字額は189万円です。失業給付金での収入分が、仕事での稼ぎにちょうど置き換わっただけで、赤字額は変わりません。
パート開始後は毎年、この189万円が金融資産額(2811万円)から取り崩されていきます。
年間189万円の赤字…パート開始後の家計はどうなる?
国民年金の支払いは60歳までなので、このペースでの出費は52歳から60歳までの9年間続きます。
60歳になったAさんが、最後の国民年金を払い終えた時点で、累計で1701万円(189万円×9年間)を金融資産2811万円から取り崩しています。なので、60歳時点の金融資産額は1110万円(2811万円-1701万円)です。
週3回のパートは、年金の受け取りが始まる65歳まで続けるとします。ただし、61歳から65歳までの5年間、年間収入は100万円で変わりませんが、国民年金の支払いがなくなるので、年間支出は270万円に減ります(国民健康保険の支払いは続きます)。
そのため、年間赤字額は170万円(100万円-270万円)に減少し、5年間で累計850万円(170万円×5年間)を残りの金融資産(1110万円)から取り崩します。65歳時点での金融資産額は260万円(1110万円-850万円)になっているでしょう。
65歳からは年金の受給が始まります。見込み額の記載がありませんが、51歳まで厚生年金に加入していることを考えれば、年金受給額は月間10万円(年間120万円)程度になると思われます。
一方、年間支出額が270万円で変わらなければ、年間の赤字額は150万円です。65歳時点の金融資産額は260万円なので、わずか1年半ほどで金融資産が底を突いてしまいます。
今回の試算では、正社員として働いている時から支出額を抑えない限り、再就職後の生活がままならないという結果が出てしまいました。
では、こうした事態を防ぐにはどうするべきでしょうか。相談文にも「月の収入・支出額はどの程度が望ましいでしょうか」と書かれているので、ここからは家計の「見直し案」を考えてみます。
ただし、ゆっくり休むことを優先し、すぐに退職するというプランは変えません。1年間は働かず、失業給付と金融資産だけで過ごすとします。これまでのご褒美として、この1年間は支出も見直さないことにします。
その上で、52歳でパートで働き始める段階からの、望ましい家計収支を考えていきます。
パートの職種をAさんがどう考えているのか定かではありませんが、老後の年金支給額が増えるため、できれば社会保険、厚生年金加入の形で働きましょう。
人生100年時代に備えるには「3つのポイント」を押さえるべし
シフトに入る日は長めの勤務が必要になるので、体調やメンタルの状況次第ですが、収入は月間15万円、年間180万円(手取り額は年間150万円)を目指すと安心です。
一方、支出を現在から約2割減らし、月間18万円、年間216万円に抑えるのはどうでしょうか。この場合、年間赤字額は66万円まで減少します。
52歳から65歳までパートで働くとして試算しているので、年間66万円の赤字は14年間続きます。この間の累計赤字額は924万円(66万円×14年間)です。
前述した52歳時点の金融資産額(2811万円)から、この累計赤字額を取り崩した場合、65歳時点の金融資産額は1887万円です。
また、厚生年金に加入する形でパートに出た場合、65歳から受給できる年金額が増加するのは先ほど述べた通りです。増加額を月2万円とすれば、毎月の年金額は12万円(10万円+2万円)、年間144万円です。年間支出額は216万円のまま変わらないとすれば、年間赤字額は72万円です。65歳時点の金融資産額は1887万円であることから、金融資産は約26年強、つまりAさんが91歳まで持ちます。
先ほどの試算よりは安心できる結果になりましたが、人生100年時代を考えると、まだ心もとないのは否めません。そのため、65歳以降の支出をもう少し見直してみます。
実は、高齢単身世帯の毎月の平均支出額は約15万円(年間180万円)です。Aさんが支出額を前述の18万円から3万円減らし、この水準に合わせることができれば、年間赤字額は72万円から36万円まで半減します。
65歳時点の金融資産額は1887万円なので、毎年36万円ずつ取り崩していくと、約52年間にわたって金融資産は持ちます(Aさんが117歳まで)。
もし仮に、Aさんが月間支出額を15万円まで落とすのが難しく、16万円で手を打ったとしましょう。その場合の年間赤字額は48万円で、あと39年ほど持つことになります(Aさんが104歳まで)。これなら人生100年時代にも備えられるはずです。
まとめ
・52~65歳は、月間15万円(年間180万円/額面)程度の収入を目指す。
・パートの勤務先は、社会保険と厚生年金に入れる企業を選ぶ。
・65歳以降の支出は、月間15万~16万円(年間180万~192万円)程度に抑える。
この3つのポイントを押さえると、老後の家計は安心です。
不明な数字があったので試算は推測を交える形になりましたが、早期退職に当たってAさんの参考になれば幸いです。なお、退職金への言及がなかったため、退職金はないものとして試算しました。
<DIAMOND ONLINE>
50代独身女性が「週3パートで細々生きる」は可能か?メンタル不調で退職を希望