世界で増加する多様なシングル

多様性の時代と言われる現代においても、社会に根強く残る「差別」がある。それは「結婚していない人」に対する独身差別だ。「まだ結婚しないの?」「いい歳して、結婚してないなんてどこか問題があるんじゃない?」──シングルの人たちがそのような社会的プレッシャーにさらされるのは世界共通。

それにもかかわらず、世界中でシングルの数はますます増加している。いったいそれはなぜなのか? 30カ国を超える国のデータに基づいてシングル研究を行ったイスラエルの社会学者のエルヤキム・キスレフ博士は、シングル増加の要因として、人口統計上の変化・経済状況・文化的変化などがあると指摘する。
キスレフ博士の最新刊『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』を一部抜粋・再構成してお届けします。

世界でますます存在感を増すシングルたち

現代の中国で11月11日といえば何の日か、ご存じだろうか。漢数字の「一」は、「独り者」の例えになっている。その数字が並ぶこの日は「光棍節(こうこんせつ)」と呼ばれる「独身であることを祝う日」だ。その起源は、1993年、中国の大都市の1つ、南京の各大学で、恋人のいない者どうしが集まってパーティーをしたことだった。

その後、世界中で大規模なオンライン・ショッピングのイベントに発展し、現代の中国社会の文化指標ともなっている。インターネット小売業の巨大企業アリババグループは、2017年の「独身の日」に、250億ドルを超える取扱高を記録した。これは同じ年の、アメリカのオンライン・ショッピングで最大のイベントである「サイバー・マンデー」(11月の第4木曜日の次の月曜日)の約4倍の金額だ。

アメリカでは、1950年には成人の22%がシングルだったが、今ではその数字は50%を超えており、アメリカで生まれる赤ん坊の4人に1人は一生結婚しないと予想される。

ヨーロッパでは、ミュンヘン、フランクフルト、パリなどの主要都市の50%を超える世帯がシングルだ。シングル増加の流れは、中東の保守的な社会において見られる。2014年、アラブ首長国連邦では30歳以上の女性のうち、独身者は60%を超えていた。 離婚率は40%で、ほんの20年前と比べて20%も高くなっていた。

このように世界のいたるところで、結婚の時期を遅らせ、1人で生活し、シングルでいることを選ぶ人が増えている。この現象の背後にはいったいどのようなメカニズムがあるのだろうか?

まず注目すべきは、人口統計上の変化だ。中でも大きな変化として、世界中の出生率の大幅な低下がある。経済協力開発機構(OECD)のデータベースによれば、出生率が目に見えて低下している国の一例はメキシコだ。女性1人あたりの出生率は1970年には6.6だったが、2016年には2.2まで下がっている。また、ほとんどの欧米諸国で、出生率は1970~80年代に人口の維持に必要な出生率を大きく下回るようになった。

出生率の低下は、シングルの人数をさらに増加させるさまざまなプロセスを引き起こす。

まず、子どもの人数が減れば、結婚の時期を遅くすることが可能になる。出産可能年齢を考えるときに、1人目、あるいは2人目の子どもを産む時期までを考えれば十分なので、最初に子どもを産み始める時期も遅くできるようになる。加えて、出生率低下の影響は新しい世代に受け継がれていく。少人数の家庭に育った人たちは将来、同じように少人数の家庭を作る場合が多い。こうして、このプロセスはどんどん受け継がれていく。

もう1つの人口統計上の変化は、平均余命の延長だ。現代医学の奇跡が平均寿命を大幅に延ばしている。経済協力開発機構(OECD)の2017年の統計によると、加盟国の出生時の平均寿命はすでに約80歳となっている。私たちの生きる年月が長くなったということは、離婚した後や、配偶者に先立たれた後に1人で生きる年月も長くなるということだ。こうした「シングルシニア」たちの台頭がシングル人口の増加の一因となっていく。

経済的に困難でも安定してもシングルは増える

経済状況がシングル増加に与える影響も大きい。多くの社会で、財政的安定は結婚の前提条件だと考えられている。だから、経済危機の時代や、雇用のチャンスが不足している時代に生きる若い人たちは、そうではない時代に比べて、人生の長い時期を独身で過ごすことになる。

2008年の金融危機以後、ヨーロッパのなかでも、スペインやイタリアのような国々では、若い人たちが金融危機そのものに加えて、高騰する住居費にも苦しんでいる。ヨーロッパでは、住居費が可処分所得のかなりの部分を奪ってしまうこともあるので、多くの若者が結婚のタイミングを遅らせ、恋愛に最も適した年月をお金を稼ぐことに費やしている。

一方、政府が若者の経済的困難を軽減しようと努力しても、独身の人たちは急いで結婚しようとはしない。ここでは、別の論理が働いている。誰かと一緒に暮らすことによる金銭的なメリットが少なくなっているために、若い人たちはあえて結婚を選ばないのだ。

たとえば、進んだ福祉国家であるスウェーデンでは、多くの人たちが高校卒業後、個々にアパートメントに入居して、少なくとも財政的には、独立して暮らせるようになっている。このことは若者がシングルのままでいる理由の1つになっている。ストックホルムの単身世帯の割合が60%と、世界でも最もその割合が高い都市なのも不思議なことではない。

また、経済発展の状況がシングルの増加を促進している場合もある。その好例はインドだ。インドは今でも伝統的な国だが、経済発展によって、若い人たちが経済的に独立できるようになってきている。若者の購買力が上昇したことで、多くの独身のインド人が親元を離れ、雇用のチャンスの多い大都市に移動している。また、こんにちのグローバル化された世界では、機動性と地理的な柔軟性を必要とする職業もある。この場合、多くの若いプロフェッショナルたちにとって、結婚はキャリアの発展の障害となってしまう。

メディアの中の「魅力的なシングルたち」

メディアが人々の結婚観に与える影響も大きい。たとえば、テレビ評論家たちは、独身女性たちの友情や文化を高く評価する『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998〜2004)における女性の描き方を革新ととらえた。このドラマは、女性にもなんの義務ももたない性的快楽を楽しむ権利があると前向きに主張していた。『となりのサインフェルド』(1989〜1998)『フレンズ』(1994-2004)『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』(2007-2019)などの番組のなかでは、シングルの人たちは社交的で、笑いにあふれた生活をし、たくさんの友人に囲まれている。

これらの作品は、シングルが社会的、また文化的に注目を集める存在になったことを反映し、前向きにとらえてもいる。このプロセスは、若い視聴者が安心してシングルのライフスタイルを選べるようになるという意味で、さらに進んでいくことになる。

こうしたドラマと似たような人物像は欧米以外でも登場した。ブラジルでおこなわれたある調査によれば、メロドラマ番組のネットワーク「グローボ」を視聴できるようになってから、パートナーと別れたり、離婚したりする女性の割合が急上昇した。

その影響は、それまでリベラルな価値観に親しんでいなかった小さな地方自治体に住む人たちのほうが大きかった。同様に多くの社会が、深く根付いた伝統的な家族単位とは矛盾するライフスタイルの影響にさらされるようになったことも、シングル増加の一因となっていると言えるだろう。

人に結婚を強要したり、結婚を急がせたりしたのでは、「喜びにあふれた結婚生活」になるはずがない。人々は、今まで見てきたような数々の要因の中で、結婚よりシングルの生き方を選んでいる。これからは、政策立案者も社会全体もその事実を受け入れ、結婚するかしないかにかかわらず、どうしたら1人ひとりが幸福に生きられるかを真剣に考えていくべきなのではないだろうか。

<東洋経済ONLINE>
「多様なシングル」世界で増える3つのメカニズム

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