老後の依存と自立

近年、親子の同居は単なる家族の選択肢にとどまらず、老後の生活や経済、精神的な支えとしても注目されています。とくに高齢の親が単身世帯となる場合、子どもとの同居は安心感を得る一方で、気づかぬうちに「依存」が生まれることも。やがて訪れる同居解消のタイミングで、残された親の孤独と喪失感が、より色濃く浮かび上がります。

息子の再婚、そして突然の「別居通告」

東京都内の団地に住む田島芳江さん(仮名・79歳)は、3年前まで息子夫婦と同居していました。

「夫を亡くしてから、一人暮らしは寂しくてね。息子が“同居しよう”って言ってくれたときは、本当に嬉しかったんです。お嫁さんも気の利く子で、文句のひとつも言わず受け入れてくれて…」

芳江さんの年金は月11万円程度。家賃や医療費を差し引くと、生活はぎりぎりでした。そんな中、息子は毎月20万円を生活費として家計に入れてくれていたといいます。

「私の生活は、あの子のおかげで成り立っていたんです」

そんな穏やかな日々に転機が訪れたのは、息子が離婚してから1年後のこと。

「“再婚することになった。相手には小さい子どももいて、一緒に住みたい”って。つまり、“母さんと一緒には暮らせない”ってことですよね。…正直、ショックでした」

息子は新たな家庭を築くため、引っ越しを決断。芳江さんには今の団地に一人で暮らし続けるよう伝えました。

「“お金のことは心配しなくていい”って言ってくれました。でも、あの子がいなくなってから、心にぽっかり穴が空いたようで…」

再び一人になった芳江さん。以前のように不安や寂しさが募る中、自分の生活の多くが息子に依存していたことに気づいたといいます。

「20万円という金額だけじゃなく、あの子がいる安心感にすっかり甘えていたのかもしれません。気づかないうちに、一人で生きる力を失っていたんです」

今では、地域のサロンに通い始めたり、近所のスーパーでパートをするなど、少しずつ生活を立て直している芳江さん。

「お金だけじゃない。人に頼りきらない暮らし方を、もう一度見直さなきゃいけないんだなと思っています」

「頼れる制度」を知ることも、老後の自立につながる

親子の同居は、老後の安心材料のひとつかもしれません。しかし、それに過度に依存すると、同居の解消や家族関係の変化によって、孤独感や生活不安に直面するリスクもあります。

現在、高齢者を支える制度や支援は多岐にわたっています。たとえば、住まいの確保に関しては『高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)』に基づき、「サービス付き高齢者向け住宅」などの選択肢が整備されつつあります。また、経済的困窮に直面した際には、『生活困窮者自立支援制度』により、家計相談や就労支援、住居確保給付金などの支援を受けられる可能性があります。

さらに、介護が必要になった場合には、『介護保険制度』によって、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどのサービスを公的負担で利用することもできます。

「家族がいれば大丈夫」という価値観にとらわれず、公的制度を積極的に活用しながら、老後の生活を自立的にデザインすることが、これからの時代にはより一層求められるのではないでしょうか。

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「生活費に20万円入れてくれていた」息子が再婚し同居解消…孤独になった79歳母が気づいた「依存と喪失」

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