生涯未婚率の上昇とともに結婚せず働き続ける人や、結婚・出産を経て仕事を辞めずに続ける人は着実に増えているが、地方ではそういった価値観を理解できない人から向けられる容赦ない目線に生きづらさを感じる場面も。AERA 2025年2月3日号より。
「独身は、地方で生きづらい。転勤してからというもの、それを実感する日々です」
こう話すのは、大手メーカーに会社員として勤める女性(54)だ。東京での会社員生活を経て昨年、企業合併に伴う転勤の関係で、関西の地方都市に引っ越した。地方とはいえ、人口約150万人近い県庁所在地で、アクセスも良く便利だ。ゆえに東京に住んでいた時と、そこまで環境が変わらないイメージを持っていた。だが転勤して間もなく、違和感が拭えない場面に対峙することになる。
「えっ、勤続30年……? そんな人、他にいるの?」
発端は、職場の面談だった。女性の勤続年数を知り、向かい合った50代の男性は、悪びれもせず、こう驚いた。それは「女性でそんなに長く働いている人って他にもいるの?(結婚もせずに、同じ会社で長く働いている女性って、東京では他にもいるの?)」という質問の真意が透けて見えた一言で、“女性は結婚や出産を機に仕事を辞めるもの”という固定観念が滲んだ問いだった。女性が「普通にいますよ」と答えると、男性は「へぇ~」と腑に落ちないような表情で答え、別の話題に移ったという。
「彼にとっては、女性が独身のまま、同じ会社で30年近く働いてるってことが衝撃だったんでしょうね。東京の私の職場では、結婚や出産を経ても、仕事を辞めずに続けている女性も普通にいた。でもここではどうやら“珍獣扱い”されるレベルでいないんだって悟りました」
ふと職場を見回せば、圧倒的に男性が多く、女性は年下ばかり。その多くが派遣社員で、「事務仕事は、女性の使い捨てで良いという会社の考え方が表れていると思った」。電話やコピーを取るのは女性の仕事という暗黙のルールが職場に存在することも、すぐに悟った。
独身で地元に戻れない
「いまだに地方はこうなんだって驚きました。それが当たり前の環境にいたら仕方ないかもしれないけど、地域格差を目の当たりにした感じ。地方が嫌というより、旧態依然とした考えが固定化している職場が嫌です。この環境で働くのは、正直しんどいと思いました」
多くの人が集い、価値観の多様化が進む大都市に比べ、地方では往々にして、古い価値観が残りがちとされるのは、よく語られる話ではある。独身に対するレッテルやイメージも然り。未婚率の上昇とともに単身世帯が増加する現在ではあるが、特に地方では「なぜ結婚しないのか」という目を不躾に向けられる瞬間があると、女性たちは証言する。
「30歳を超えて独身でいることの肩身の狭さを、地元に帰ると強く感じます。独身のままでは、地元に戻りづらい」
こう吐露するのは、九州地方出身で、現在東京で働く会社員の女性(34)。仕事中心の多忙な日々を送る中、「いつかは地元に戻って、もう少しゆとりある生活を送りたい」との気持ちもある。交際している相手はおらず、結婚の予定もないが、独身で地元に戻るのは、「精神的なハードルがあまりに高い」とこぼす。
“早く子どもを”の圧
「この正月もそうでしたが、地元に帰るたびに“結婚はまだか、早く子どもを”と祖母や母親から急かされて、うんざりしてます。地元にいる友達はみんな20代で結婚して子どもがいるし、今の自分とは環境が違いすぎて、話が合う人がいない。独身のままUターンでもしたら、“行き遅れた子が、行き場がなくて戻ってきた”とか言われそうだし、そんな価値観が根付いた土地で、この年で誰かと出会うのも難しそうだなって……」