独居老女の家じまい

不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの

「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「2050年までの都道府県別世帯数の将来推計」によると、2050年には、東京をはじめとする5都府県で65歳以上の「高齢単身者」が全体の3割を超える予想なのだという。

危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、高齢単身者の生活についてこう話す。

「高齢者が1人暮らしをするリスクはいろいろ指摘されています。突然の病気や事故のときに発見されないリスクや、人生の最後を迎えたときの『家じまい』などをしてくれる人がいないリスクなどなど。

元気なうちにできるだけ終活を進めておく、と口で言うのは簡単ですが、実際にはなかなか行動が伴わず、後になって疎遠になっていた親戚が駆り出されるケースもあると聞きます。

生涯未婚の人も増えている昨今、先々のことまで計画しておくことは、自分のためだけではなく、周囲の人のためにもなりそうです」


今回、身内の「家じまい」に関するトラブルを取材していくなかで、伯母の家の片付けをほとんど1人で担うことになってしまい大変苦労した、という30代の女性に話を聞くことができた。

「伯母の家を片付けなければいけないが、担い手がいない…と父から電話があったのは、一昨年の年末のことでした」

こう話すのは、現在36歳の武上桜子さん(仮名)。首都圏の某都市で1人暮らしをしている会社員だ。

「伯母は東京都内の古いマンションで長らく1人暮らしをしていましたが、3年ほど前に亡くなりました。コロナということもあり、参列者が少ない寂しい葬儀でしたね」

伯母は、桜子さんの父親の長姉。父親は4人きょうだいの末子で、現在70代中盤だそう。

「伯母は私の知る限り一度も結婚したことがありません。たしか、父もそう言っていたと思う」

桜子さんは子供の頃、亡くなった伯母にたいへん可愛がられたという。

「私が小学生の当時、伯母は50代だったと思いますが、会社の休みには1人でよく海外旅行に出かけていました。お土産をたくさん貰いましたし、土産話を聞くことも大好きでしたね」

ヨーロッパやアメリカ、東南アジアにアフリカなど、1人で海外へ自由に出かける伯母に憧れの眼差しを向けていたという少女時代の桜子さん。

「子供心に『かっこいいな』と尊敬していました。若いうちにマンションを買ったとのことで、それも素敵でした…ええ、今回私が片付けを手伝ったマンションです」

伯母の生き方を見ていた桜子さんの母も「女も経済的に自立しなきゃダメよ。それがないと自由が手に入らないわ」と、よく言っていた。その後、桜子さんが将来について考える時には、いつも頭の片隅に伯母の生き方があったという。

「伯母の影響は強いと感じます。私には長くつき合っている彼氏がいるのですが、なかなか結婚に踏み切れません。籍を入れたら対等な関係が崩れそうな気がするし、自由がなくなるんじゃないか…って不安になるので」

しかし伯母が亡くなってしばらく経ったある日、父から「伯母さんのマンションの片付けをやれる人がいない。お前、ちょっと小遣いやるから頼まれてくれないか」との連絡が入り、家じまいの中心人物となることで、桜子さんの「人生観」は大きく揺れ動くことになる。

「末子の父もきょうだいたちも、もうかなり高齢です。亡くなった伯母は独身だったので、確かにマンションを片付ける人はいませんよね」

今どきよく耳にする「業者」に家じまいを丸投げしてはどうか、と父に聞くと…

「ある程度のところまで片付いたら業者を雇っていいが、処分すべき物を取捨選択してくれ、と。家具なども高級なものが多いらしいので、業者に騙されて高く転売されたりするのがイヤだ、と父は言うんです。処分業者の悪い口コミを見てビビったみたいですね」

伯母が暮らしていた街の最寄り駅まで乗り換えなしで行けることもあり、「それなら一度見に行ってくる」と返事をした桜子さん。だが、結局そこから半年ほど、伯母のマンションに通い詰めることになった。

「めちゃくちゃ久しぶりに伯母のマンションへ行ってみると、『自分のためだけに稼いで、自分のためだけに生きてきた人の住まいだな』と感じました」

惜しみなく自分に投資して、さまざまな経験を重ねる豊かな「独身ライフ」。そんなイメージだった伯母の暮らしも、亡くなったあとを覗いてみれば、「自分のためだけにお金を使った『わがまま御殿』のように見えた、と桜子さんは言う。

「一時期バリ島に心酔していた伯母は、現地から伝統的な家具などを高い船賃を払って取り寄せていたことを思い出しました。でも、持ち主を失って生気がなくなった部屋は、なんというか、とても虚しいものでした」

重厚なリゾート調の家具が所狭しと並んだマンションは、桜子さんの目に「異国の宮殿の廃墟」のように映った。

「感傷に浸っている間もなく、コツコツ通って必要そうな物と処分する物を仕分けしていきました。大きな家具が邪魔すぎたので、買い取り業者に見積もりに来てもらうと、古いマンションの9階からの搬出ということもあり、買い取り価格はつかず、むしろ高額な処分費が出てしまうと言われて…」

確認のため、別の「処分業者」にも連絡を取ってみると…

「マンションの9階という点もさることながら、伯母の住んでいたマンションは狭い路地にあってトラックが侵入できないので、費用が余計にかかると言われてしまいました。ついでに衣類や細かい物なども持っていってほしかったですが、全部頼むと40万円以上はかかると」

亡くなる少し前まで買い続けていたらしく、衣類も想像をはるかに超えて大量にあった、と桜子さん。

「伯母は現役の会社員の頃は高給取りだったと聞いています。でも、リタイア後も金遣いの荒さが直らず、死後、親族で預貯金について調べたら、現金は200万円ほどしか持っていなかったとのことです。そこから処分費をたくさん出すのはイヤだと、父は言うんですね」

しかし、業者に依頼する以外、巨大な民族調家具を処分する方法が見つからず、結局は桜子さんが立て替えて、あとでお金を受け取ることになったという。

「業者さんは、『こんな重たい家具は初めてだ』と言っていました。太い竹とか野太い銘木を組み合わせたようなリビングセットやキャビネット、ドレッサーなどがありました。ベッドには天蓋まで付いていたんです」

自分のためだけに生きた、と言っているようなその部屋を見て、何とも言えない感情を覚えた桜子さん。

「正直、羨ましいともかっこいいとも思えなかったです。迷惑なだけ。人生観が変わりましたね」

と語った。多様な生き方が受け入れられる社会ではあるべきだが、後に残された人に責任や面倒を押しつけることは、できれば避けたいものである。

※この記事は取材に基づいていますが、取材対象者保護の観点から必要に応じて編集を加えておりますことをご理解ください。

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