中国の未婚化

1――止まらない少子化、人口減少

2024年1月17日、中国の国家統計局は2023年の総人口、出生数が前年に続き減少していることを発表した。2023年の総人口は14億967万人で、2022年から208万人減少し、2年連続の減少となった。また、2023年の出生数は902万人と、こちらも2022年から54万人減少している。

それに反して急増しているのが死亡数である。2023年の死亡数は1,110万人で、2022年より69万人増加している。人口減少となると、生まれてくる子どもの数(出生数)が急減している点に注目が集まりがちであるが、それを上回る勢いで死亡数が増加している点にも留意が必要である。当然のことながら、死亡数が出生数より多いため人口減少は起きているからだ。

中国における出生数の減少1について、中国国家統計局はその要因を挙げている2。それは、(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇、(3)養育や教育費用の高騰による若年層の子育てに対する意欲の低下や考え方の変化、(4)新型コロナウイルスの感染拡大による出産控えである。

(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇は一人っ子政策による政策的要因が大きく影響し、(3)養育や教育費用の高騰による子育てに対する意欲の低下や考え方の変化は一人っ子政策の影響に加えて経済的・社会的要因による定性的な要因の影響が大きいと考えられる。

なお、(4)新型コロナウイルスによる出産控えについては2022年に改善に向かっている点がうかがえる。2022年の第1子、第3子の出生率は2021年と比較して上昇している3。その背景としては、2021年の出生率がコロナ禍などによってそれまでのトレンド以上に減少しており、2022年はその反動から上昇したと推測されるからである(ただし、出生数の実数は2021年を下回っている)。

なお、(3)養育や教育費用の高騰による若年層の子育てに対する意欲の低下や考え方の変化などの定性的な要因についてはこれまで多く報道、論述されている。よって、本稿では出生率について政策的要因である、(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇に注目し、その様相を概観したい。

1 2021年5月に公表された第7回の人口センサスでは、長年論争が絶えなかった合計特殊出生率が1.3と発表された。以降、2021年は1.15、2022年は1.09となっている。李(2021)によると、2010年の第6回の人口センサスでは合計特殊出生率が1.18とされ、2015年の1%サンプル調査では1.05まで下がったが、政府の公式統計では1.6前後とされたため、それが国連など国際機関の統計に用いられた点を指摘している。(出典)李蓮花(2021)「中国 近づく人口減少社会と社会保障」『世界』、岩波書店、第947(8月)号、pp.121-129。
2 人民網「統計局:我国人口総量未来一段時期将保持在14億人以上」、2022年1月17日、http://m2.people.cn/news/default.html?s=MV8zXzE1Mzk5Mzc0XzEyNV8xNjQyNDAyMzEz、2024年2月19日取得。
3 片山ゆき「中国の出生率の動向‐第3子出産容認の効果」、基礎研レター、ニッセイ基礎研究所、2024年1月15日。

2――出産適齢期の女性人口の減少、特に出生率の高い20代の女性人口が大幅に減少。

1949年の中国建国以降、戦争が終結し、社会の混乱が沈静化し、公衆衛生の普及などによって中国の人口は爆発的に増加した。政府は経済成長を促進するために、人口の増加を政策的にコントロールする必要に迫られ、計画出産政策が開始された。1970年代の初めには「晩・稀・少」政策として、「初産の年齢を遅らせ、出産間隔をあけ、少なく出産すること」が目指された。

一方、1979年に一人っ子政策が開始した後も労働力4として、また伝統的な‘孝’の概念によって男児の出産優先の伝統は残り続けた。澤田(2018)は、とりわけ農村部では人民公社が解体されて以降、家庭ごとの生産責任制が実施されたことから、強制的な産児制限に対する抵抗が強かったと指摘している。生産責任制のもとでは、農地の請負面積は世帯の労働力に比例して配分されたので、家族の人数が多いほど広い土地を持つことができる。

これで経済単位としての「家」が重要となったことから、後継ぎになる男子の価値が上昇し、女児の中絶や遺棄が増大したとした。一人っ子政策によって人口はある程度コントロールされ経済成長も果たしたが、人口性比の均衡が崩れ、その結果として将来母となる女性の数がアンバランスに減少するという事態を招いてしまったのだ。

国連の人口推計によると、生産年齢人口(15-64歳)が減少し始めた2011年に、その足並みを揃えるように女性の出産年齢にあたる15-49歳の人口も減少している(図表1)。また、15-49歳の男性も同様に減少しているが人口性比をみると2011年時点で女性100に対して男性が106.4、2021年では109.7と広がっている。女性人口が男性人口と比べて大幅に少なく、アンバランスな状態にあることが分かる。

また、15-49歳の女性人口は2011年から2021年の10年間で、4,500万人も減少している(男性は4,000万人減)。政府が懸念している「出産適齢期の女性人口の減少」であるが、政府が出産に最も適齢と考える20-34歳の女性人口は10年間で1,777万人減少している。特に出生率の高い20代の女性人口の大幅な減少の影響は大きい。出生率の最も高い25-29歳(後述)は10年間で877万人減、次いで20-24歳は2,149万人減と大幅に減少している。一方、近年、第2子の出産など出生率が上昇傾向にある30-34歳については1,249万人増加となっている(図表2)。

国家統計局は「特に2021年は15-49歳の女性の人口は前年より500万人も減少し、そのうち、出産が最も適齢とされる21-35歳の女性人口が300万人減少するなど大きなダメージとなっている」とした。人口のステージが少産少死(多産ではない)にある現在の中国において、母となる女性の数そのものが大幅に減少すれば生まれて来る子どもも同様に減少してしまうのは当然の帰着と考えられよう。

4 澤田ゆかり(2018)「第9章 人口と社会保障」、梶谷懐・藤井大輔編著『シリーズ・現代の世界経済 第2巻 現代中国経済論〔第2版〕』、ミネルヴァ書房、p.186。

3――20代の未婚率の上昇が顕著。30代前半も上昇。

人口学では、ある社会の出生率を決める直接要因は有配偶率、有配偶者の出生力、および非嫡出子の比率であるとしている5。また、日本や中国など東アジアでは非嫡出子の比率がきわめて少ないため、出生率は有配偶率と有配偶者の出生数によってほぼ決まるとしている。

有配偶率(婚姻率)については、片山(2022)6で、中国では婚姻率が急速に低下する一方、離婚率が緩やかに上昇している点、また、初婚年齢の上昇7に加えて主体的に結婚しないことを選択する非婚化に向けた状況も出現し始めている点を指摘した。では、有配偶率の低下、つまり未婚率の上昇の状況についてはどうであろうか。

図表3、図表4は5歳年齢区分別の人口に対してその未婚者数の割合(未婚率)の推移(男女別)を示したものである。この20年間をみると、男性、女性とも20代の未婚率の上昇が顕著で、30代前半においても上昇している。

特に、男女とも20代の上昇が顕著となっており、例えば男性・20-24歳が15.8ポイント上昇の94.0%、25-29歳が32.0ポイント上昇の58.4%となっている。女性は20-24歳が29.0ポイント上昇の86.9%、25-29歳は22.2ポイント上昇の38.0%に上昇している。20-24歳の女性については、2019年の新型コロナ禍以降、未婚率が急激に上昇しているのも1つの特徴であろう。

20代の未婚率の上昇の背景にはまず、近年、政府の強力な後押しによる大学・大学院進学率の向上があろう。20代の大半を学生として過ごす若年層が増加していると考えられる。また、この20年間の経済の高度成長、都市化の進展によって働き方や生き方が多様化している点も挙げられる。

それと同時に、16-24歳の若年層の失業率は統計が開始された2018年1月時点では11.2%であったが、2023年6月には最高の21.3%を記録している8。当局は2023年7月以降、調査方法を見直すとして発表を停止したが、若年層の失業率の上昇が所得の不安定化、将来の生活への見通しに影を落とし、それが未婚率の上昇、更には出生率の低下につながる可能性もある。

その一方で、40代、50代については未婚率の上昇は見られない。日本では50歳時の未婚率である生涯未婚率(45-49歳と50-54歳の未婚率の平均値)が急激に高まっている点が取り上げられることが多いが、中国において生涯未婚率の対象となる45-49歳、50-54歳の未婚率は男女とも低い状態を維持している。今後、日本とは異なり生涯未婚率は上昇しないままなのか、あるいは晩婚化の進展とともにこれから上昇していくのかについては少子化の進行に大きな影響を与えることが考えられ、その動向に留意する必要がある。

5 李蓮花・張継元(2022)「中国の少子化対策―日韓との比較を踏まえて」『社会保障研究』第 6 巻第4号、国立社会保障・人口問 題研究所、pp.439-453。
6 片山ゆき「人口減少社会の到来(中国)」、保険・年金フォーカス、ニッセイ基礎研究所、2022年10月18日。
7 2020年の初婚の平均年齢は28.67歳(男性が29.38歳、女性が27.95歳)、10年前と比較して4歳ほど上昇している(2010年時点で初婚の平均年齢は24.89歳、男性が25.7歳、女性が24.0歳となっている)。
8 中国国家統計局は2024年1月17日、16-24歳の失業率の発表を再開、2023年12月時点での失業率は14.9%とした。新たに発表された失業率には仕事を探している学生を除いて算出されている。

4――出生率の低下―特に新型コロナ以降、20代前半の出生率が急速に低下。

未婚化、晩婚化が進展する中で、晩産化の状況はどうであろうか。年齢別の出生率の推移からその状況を確認してみたい。図表5は、15-49歳の年齢別の出生率について、2001年、2011年、2021年の10年ごとに比較したものである。それによると、中国はこの20年ほどで出生率が低下し、次いで晩産化が進行しつつある点をうかがうことができる。

2001年時点では出産のピークは概ね20代前半で、出生率が最も高いのは25歳であった(図表5)。次の10年間(2002-2011年)では、出産のピークの年齢層は2001年から大きな変化はないものの、出生率がおよそ半分にまで低下している。この時点ではまだ晩産化に向けた大きな変化は見られない。

一方、直近の10年(2012-2021年)では出産年齢のピークが20代後半に移っており、出生率が最も高いのは28歳であった。また、20代後半の出生率が20代前半の出生率を上回っている。更にこの20年間における年代別の出生率の変化をみると、20代の出産が減少し、それに替わって30代前半の出産が増加している点にある。つまり晩産化は、政策的に出産への緩和が徐々に開始された時期に進んでいることがうかがえる。

中国政府は一人っ子政策を堅持しながらも、2000年代には緩和の動きも見せている。各地域が状況を鑑みた上である程度の緩和措置をとることが可能となり、例えば少数民族、夫婦とも一人っ子、農村部で第1子が女児の場合などについては第2子の出産を認めた。2013年には夫婦のどちらかが一人っ子の場合、第2子までの出産が正式に容認されている。加えて、2015年には第2子まで(適用は2016年から)、2021年には第3子までの出産が容認された。

このような緩和策の効果は、20代後半、30代前半の出生率の上昇に現れている(図表5、図表6)。図表6から2016年、2017年の出生率の上昇は第2子出産容認による効果と推察されるが、特に25‐29歳、30‐34歳の出生率が急上昇しており、当該年齢層による貢献が大きいと考えられる。20‐24歳も上昇しているが25‐29歳、30‐34歳ほどではなく、加えて、2019年以降出生率が急降下している。

この点からも昨今の出生数の急減については、特に20‐24歳の出生率の急減が大きな影響を与えたと推察することができる。2019年以降、新型コロナウイルス禍、中国と米国間の貿易摩擦や世界的な情勢から経済の低成長が続き、特に20代前半については就職難、失業率の上昇、所得の不安定化と社会情勢や経済状況の影響を最も受けやすい世代とも言える。20代前半の失業率の上昇、未婚率の上昇、それが出生率の低下につながっている点をうかがうことができる。

また、第2子の出産について年齢別で出生率を確認すると、2021年は2011年と比較しても大幅に上昇している。第2子出産の年齢のピークは27歳から32歳の間となっている(図表7)。2011年時点でのピークの年齢は28歳及び29歳であった点から考えると、第2子の出産容認が30代前半の出生率上昇に奏功していると推察できる。

5――新型コロナ禍、その後の経済・社会情勢が20代を直撃。女性人口の減少、未婚化、出生率の低下が浮上。

本稿では政府が指摘する出生数減少の要因について、出産適齢期の女性人口の減少、結婚や出産年齢などの上昇に注目し、その様相を概観した。出産適齢期の女性人口の減少の背景には、男児優先などの伝統的な孝の概念が残る中で、また、男子を労働力とする農地の請負政策が実施される中で一人っ子政策が実施されたため、女性人口が男性人口よりも大幅に少ないという人口性比のアンバランスを引き寄せてしまった点を指摘した。

つまり、一人っ子政策を実施したことで、結果的に将来母となる女性人口そのものを減少させてしまうといった事態となった。また、出生率の高い20代の女性人口が大幅に減少する中で、未婚率についても同様に20代で上昇しており、特に20代前半の上昇が顕著となっている。20代前半の未婚化の進展は出生率の低下を同時に引き寄せている。

更に、留意すべきは新型コロナ以降、20代前半(20-24歳)の出生率の低下が25-29歳、30-34歳と比較しても大きい状態にある点にある。20代、特に20代前半をとりまく環境は、新型コロナウイルス禍や世界情勢による経済成長減速の影響を強く受けており、就職難、失業率の上昇、雇用の流動化、所得の不安定化と多くの問題を内包している。

一方、30代前半については全体として出生率は低下傾向にあるものの、2020年、2021年は20-24歳を凌いでいる。晩産化に加えて、第2子出産容認による効果もわずからながら見られそうである。2020年以降、出産はそれまでの25-29歳、20-24歳を中心とした状況から、25-29歳、30-34歳を中心とした状況に移行してきている。冒頭の中国国家統計局が挙げた出生数減少の理由に経済的理由や所得の低下は見られなかったが、昨今の経済・社会情勢を考えると、今後は20代など若年層を中心に新たな理由として浮上する可能性もある。

<ニッセイ基礎研究所>
中国、20代の未婚化、出生率低下が顕著

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です