架空の統計の踊らさせる女性

女性たちは「架空の統計」に晒されている
好きな英語表現がある。

“Don’t be a statistic.”

“Be a statistic” は、主に病気や事故で亡くなった人々のことを表す時に使われる表現。

”Don’t be a statistic.” (統計の数字の一つになるな)と言うと、不幸な運命の被害者にならないで!という意味になる。

アメリカのどのティーン・ドラマで観たか覚えていないが、登場人物の10代の女性が大人たちに男とセックスして妊娠しないように注意される。その時に使われたフレーズが”Don’t be a statistic”。要するに「10代の妊娠率を上げる数字にならないで」。

この表現には、人間が個人としてではなく数字でカウントされる存在(”a” statistic)になる、つまり、人生の敗者の側、メインストリームから外れた存在になってしまう、という意味が込められている。

女性の私は、無意識にでも「a statisticにならないように」気をつけていた。だって、女性に関して、がっかりする統計が山ほどある。男女の賃金格差、性暴力、云々。

とはいえ、私たちは、ちゃんと「女性に関する統計の含意」を勉強しているだろうか?

「この年齢までに結婚しないと」
「この年齢までに子供を産まないと」
「35歳の私がまだ独身なのはおかしい」

私たち女性は、無意識に「架空」の統計に晒されている。

一つの例を挙げよう。

私は色んな意味で「a statistic」なのだろう。私は平均的な35歳の女性ではない。在住しているイギリスの初婚年齢と第1子出産年齢の平均を見れば、私はすでに子供も旦那さんもいるはず。一方で、もし私がイギリスの平均的な働く女性だったら、今の給料の半分しか稼いでいない。

平均にはずるい魅力がある。

気にはしていない、と思いつつ、私はなんだかんだ不安だった。いつかは結婚したいよね? いつかは一生のパートナーを見つけたいよね?

そんな時、アメリカの歴史家、ステファニー・クーンツの著書「Marriage, a History」を読んだ。クーンツが主張するのは、欧州の社会において結婚という社会的制度は、家庭を結び、混乱のない形で財産を引き継ぐという社会の必要性に起源を持っている。現代はそういう必要性はもうなくなっている。その代わり、結婚は「ゴール」で社会的地位のシンボルになっていて、上流階級の結婚率は下層階級より高い。下層階級の人は結婚して二人の富を合わせた方がベネフィットは大きいのに。

こういうことはぼんやりとわかっていたが、それをはっきりと解説するクーンツの本を読んでびっくりした。要するに、ある程度お金があれば、私にとってはむしろ結婚しないという選択の方が合理的だ。

この気づきから、私は他の統計を調べて少しずつ「自分が本当に望んでいること」と「社会が私に望んでいると思われていること」のもつれを解いている。

統計によると、10人に4人のイギリス人は一度も結婚したことがない。30―34歳の女性を見ると、半分は独身。その割合は年ごとに増えている。私はこの統計の数字の一つだ!

数字を見れば、多くの女性の頭の中にある「あるべき人生」が絶滅していることがわかる。数字を見れば、自分を恥ずかしく感じる必要がなくなるし、自分がどれほど固定概念にとらわれていたかがわかる。そして、自分の思うがままの人生計画をより描きやすくなる。

女性が人生計画を考える上で、統計はよくネガティブな意味で使われている。高齢出産という事例を挙げよう。ググってみれば、リスクを語る記事ばかりが出てくる。リスクはもちろんあるが、35歳以上で出産している女性が確実に増えている。そうなら、もっとポジティブに考えよう!この選択をする女性と彼女たちの子供の人生をより明るくて、幸せにするサービスやコンテンツを考えよう!

独身率の増加もそう。「出生率がまた下がって社会がダメになる」「寂しい一人家庭が増える」とか、そういうネガティブな解釈をやめよう。女性も男性も一人で子供を育てられる。独身だからといって一人で住んでいるわけではない(私はシェアメイトがいる)。いろんな生活の形、カップルの形がある。「ペア」でジムの会員になれるなら、私は女友達とペア会員にしてほしい。でも経営者も、やっぱり古い統計しか見ていない。

統計は嘘をつかない。

人々の生き方の形はどんどん変わっている。社会の下部構造が変われば働き方も変わるし、人と人の結びつき方、関わり方も変わる。人は「社会的存在」だから、どんな社会でも人は人と関わり合って生きている。その関わり方、人生の紡ぎ方にはいろんな選択肢がある。社会の側が社会の都合で生き方の標準形を慣習や制度にするけど、そもそも社会のありようが変わっていけば人々の人生の紡ぎ方も変わる。

ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ。現実を直視する――統計を見ることで、私たちは私たちを束縛している価値観から自由になれる。

<幻冬舎plus>
「35歳の私が独身なのはおかしい?」いいえ、“あるべき人生はすでに絶滅”と教えてくれた統計の力

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