海外在住57歳独身女性

海外で働いている独身女性が、ストレスで体調が優れないことから日本に帰国しようと考えています。早期リタイアするにはいくら必要なのでしょうか。FP深野康彦さんに聞きました。

海外在住の57歳独身女性「帰国してリタイアしたい」ではいくら必要?

「帰国後は仕事をせずに完全リタイアして、旅行・趣味などを楽しみたいのですが、老後を考えると帰国後も週に2~3回は働いた方がいいのでしょうか。それとも仕事を完全リタイアしても大丈夫なのでしょうか」

今回、このようにご相談いただいた木村さん(仮名、57歳女性、独身)は海外在住のため、メール等でやりとりしたのですが、いただいた相談文には資産額の記載はあったものの、帰国されてからの生活費などの記載はありませんでした。このため、家計収支の試算などは推測を交えて回答したことをご承知いただきたいと思います。

資産は合計8500万円、海外の持ち家を売却すれば1億1000万円

木村さんは相談時に57歳でしたので、帰国は1年後の58歳とし、帰国されてからは木村さんが希望されている完全フルリタイアで家計収支を試算していきました。

帰国後はマンションを購入するか、賃貸住宅で暮らすのかについても迷われていると相談文の記載があったため、購入のケース、賃貸のケース共に試算していきました。

まずマンション購入のケースからです。

木村さんが帰国されてからどこに住むのか、どのくらいの間取りにされるかなどによって購入価格は大きく変わります。ただ、木村さんが独身であることから家族で住むような広めのマンションを購入する可能性は低いと思われたため、マンション購入費用は諸費用込みで4000万円としました。

木村さんは現金1000万円のほか、企業年金の積立額を含めた投資商品が7500万円、合計8500万円を保有していました。海外での住まいは持ち家なので、売却すればさらに資産を積み増せると相談文に書かれていることから帰国を機に売却するとしました。帰国後は働かない完全リタイアを希望されているため、少しでも金融資産を増やしておく方が良いと考えたからです。

持ち家であるマンションは経費を差し引き後で約4000万円での売却可能と相談文に書かれていましたが、売却に際しての税金などを考慮していない可能性があることから手取額は木村さんが考えている約4000万円から1割減額して3600万円としました。金融資産8500万円に持ち家の売却代金3600万円を加えると1億1000万円が木村さんの金融資産額になります。

8100万円の金融資産は67歳の年金支給開始までにどれだけ減るか

1億2100万円から帰国後のマンション購入代金4000万円を差し引くと8100万円となり、この8100万円が木村さんの帰国後の生活資金になります。

日本の公的年金の受給額の予定の記載が相談文にない反面、海外で年金に加入されており67歳から毎月20万円の受給予定と書かれていました。このため58歳で帰国、海外の年金受給が始まる67歳までの9年間の家計収支をまずは試算することにしました。

帰国後は旅行、趣味などを楽しみたいと書かれていることから、購入したマンションの共益費や修繕積立金など、水道光熱費を含めて毎月の支出は35万円、年間420万円としました。35万円の根拠は生命保険文化センターの調査の「ゆとりある老後資金」を参考にしています。2人以上世帯の金額ですが、木村さんの希望を叶えるため同調査の金額にしています。

木村さん希望の完全リタイアとすれば収入は0円で、年間支出の420万円を海外の年金の受給が始まるまで金融資産から取り崩すことになります。取り崩し期間は9年間なので、年間支出420万円×9年間で3780万円が保有する8100万円から取り崩されることになります。

8100万円から3780万円を差し引くと残りは4320万円になります。ただ、家電の購入や買い替え、トイレや給湯器の入れ替えなどの費用が発生するのでその資金を将来分も含めて500万円としておくと、4320万円から500万円を差し引いた3820万円が木村さんが67歳時点での金融資産額になります。

マンションを購入した場合、100歳まで残りの3820万円で間に合うか

木村さんが67歳になると月20万円、年間240万円の年金受給が始まります。手取額を200万円とする一方、毎月の支出額は35万円と変わらない420万円とすれば年間の赤字額は220万円になります。

67歳時点の金融資産額は3820万円、年金の受給が始まる67歳以降は年間220万円を金融資産額から取り崩して行くことになるため、3820万円÷220万円=17.36年となり、そのままでは100歳までの資金を賄うことはできません。

ただ、毎月の支出が一生涯変わらないことはありません。通常は歳を重ねる程支出額は減少して行くことになるため、67歳以降から76歳までの10年間は毎月の支出を5万円減の30万円、77歳以降はさらに5万円減額して25万円とします。

「10万円も減額するの?」と思われるかもしれませんが、総務省が公表する家計調査報告によれば高齢無職世帯の単身世帯の1ヵ月あたりの平均支出額は約14万4800円ですから、月25万円でも10万円も高い水準になっているのです。

減額した毎月の支出を基に試算を再び続けると、67歳からの10年間の赤字額は年間160万円に減少し10年間では1600万円になります。67歳時点の金融資産は3820万円から1600万円を差し引くと2220万円が木村さん77歳時点の金融資産額になります。

77歳以降は毎月の支出額はさらに月5万円減額となることから、毎年の赤字額もさらに減額となり年間100万円になります。木村さんが77歳時点の金融資産額は2220万円から毎年100万円を取り崩して行くと22年になり、そうすると人生100年時代に概ね対応できると思われます。

賃貸ケースでは67歳時の金融資産額は6940万円に

では木村さんがマンションを購入せずに賃貸に住んだケースを試算してみましょう。賃料は月12万円、年間144万円とします。2年に1回更新料が家賃の1ヵ月分かかるケースが多いため、月割りに直すと家賃が5000円アップすることになり、月12万5000円、年間150万円の住居費が発生することになります。

帰国後の生活費は月35万円、年間420万円としましたが、支出には購入したマンションの共益費や修繕積立金を含んでいる一方、賃貸ではその費用は発生しません。このため賃貸にしたケースの毎月の支出額は家賃をそのままプラスするのではなく、共益費や修繕積立金と考えた月2万5000円を差し引いた月10万円を加えた45万円、年間540万円を木村さんの支出額としました。

58歳の帰国時点の金融資産額・1億2100万円から年金受給が始まる9年間で、540万円×9年間=4860万円が金融資産額から取り崩されることになります。すると67歳時点では、7240万円の金融資産額が残ることになります。

ただ、家電の購入や買い替えなどは賃貸でも発生するのでその費用は持ち家のケースの6割、300万円とします。7240万円から300万円を差し引くと、6940万円が木村さんが67歳時点の金融資産額になります。

賃貸ケースでは人生100年時代を乗り切れないことに…

マンション購入ケースと同じく、67歳以降は毎月の支出が5万円減額となり月30万円、家賃の上乗せ分は変わらないとすれば毎月の支出額は40万円、年間480万円になります。

ただ、67歳以降は年金収入が年間200万円あるため、67歳からの10年間は毎年280万円の赤字額になります。10年間では赤字額が2800万円になるため、木村さんの67歳時点の金融資産額6940万円から2800万円を差し引くと4140万円になります。

77歳以降の家計収支は、毎月の支出額はさらに5万円減額となり月25万円、家賃を加えると35万円となり年間では420万円になります。木村さんの手取りの年金収入は200万円ですから、年間の赤字額は220万円になります。木村さんの77歳時点での金融資産額は4140万円から毎年220万円を取り崩して行くと4140万円÷220万円=18.81年になり、人生100年時代をやや賄えないことになります。

ただ、賃貸のケースでは引っ越しを行うなどして家賃を引き下げることが可能ですから、やり繰りをしっかり行えば木村さんが希望されている完全リタイアされても、老後も迎えた後でも過度に心配する必要はないと木村さんにお伝えしました。

木村さんの相談文には「私は独身で、今のところ遺産を受け継ぐ人はいません。他の人に迷惑がかからない程度の資産を残しておけば十分です」と記載がありました。順不同になりますが、賃貸のケースは意識して一定額を残す必要があると思われますが、マンション購入のケースでは購入したマンションを売却してその資金を賄えば問題ないと思われます。毎月の支出額をコントロールできれば、マンション購入されても木村さんが希望する完全リタイアは可能といえるでしょう。

<MINKABU>
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