約1年前からベルギー留学を始めたが、日本にいたときは女性同士の集まりに顔を出すと、婚活や出産の話で持ち切りだったことは記憶に新しい。
当時はもちろん私も、結婚の話などに花を咲かせていたものの、ふと「自分たちの意思よりも社会にせかされているような感じ」に違和感を抱くこともあった。
しかしベルギーに来たいま、ベルギー人やアジア圏以外の留学生らと話していると、日本とは明らかな違いを感じることが多い。それは、自分が社会から遅れてしまっているのではないかという焦りを、彼らからはほとんど感じないことだ。
なぜ私たち日本人は、ここまで結婚や子育てについて他人と比べてしまうのか?
今回の記事では、ベルギーの生活で見えてきた、結婚や子育てに関する「考え方の違い」を紹介したい。
「親になったから」という呪い
ベルギー人の友人夫婦には、1歳と4歳の子どもがいる。お祝い事が大好きで、誰かの誕生日や年末年始にはすぐにイベントを企画する。
家で飲むこともあれば、「21時からレーシングカート」「23時からバーで朝まで」といったものまである。当然、夜のイベントには子どもはついてこない。
彼女の親が家に来ることもあるが、毎回そうではなさそうだ。カメラをつけた部屋に子どもを寝かせ、外出中は時折スマホから接続して様子を見ているが、その確認の様子は慣れたものだった。特にハロウィンパーティーの時はすごかった。夫婦で本気の仮装をし、深夜のクラブに繰り出していった。
もちろん、彼らの子供に対する愛情は深い。しかし、それとこれとは別だ。彼らはまだ30代前半で、子育ては「自分の人生を楽しまない理由にはならない」という姿勢が一貫している。
ベルギーではフランスなどと同様に、赤ちゃんのころから子どもを1人で寝かせることが一般的だ。彼らに「日本では、子どもが小さいときには、親子同室で眠る家庭が多いと思う」といったら、その友人夫婦からは「ありえない!」と叫ばれた。
子どもがいてもいなくても、カップルの時間は非常に大切なものだと考えられているし、子どもにとっても自立していることは重要なのだ。
日本でよく聞いた「◯◯歳までには結婚したい」
以前の記事でも紹介したが、ベルギーには「法的同居(Cohabitation)」という制度があり、性別などに関係なく、申請することができる。
いわゆる事実婚に近い制度で、役所で比較的簡単に手続きができる。家の共同契約書などいくつかの書類を役所に出すだけだ。
さらに、婚姻と比較しても制度上の差別はないことから、最近はこちらを選ぶ人が増えている(解消したら、役所で取り消せる)。
日本の入籍や離婚も、本来は同じように紙を出すだけなのでシンプルなはずだが、その背景に絡む手続きや「重み」を考えると、ベルギーとはノリが全然違う。ベルギーではルームメイトを探す程度の感覚なのだ。2013年から2023年にかけて、法的同居の数は、子どものいる未婚カップルでは38.5%増加し41万9507人、子どものいないカップルでは32.5%増加し50万8209人だった。
ベルギーでは結婚をしてもしなくても、子どもが先でも後でも、子どもがいなくても、カップルの性別だって自由だ。カップルが好きなタイミングで決めるから周囲の「空気を読む」必要はないし、そもそも誰も気にしない。
マッチングアプリやパーティに出かけてパートナーを探している友人もいれば、「私はパートナーはいらない」と言い切る友人もいる。誰もが自分のペースでその過程を楽しんでいるので、結婚が前提ということはもちろんないし、焦っている人もいない。「一緒にいたいからいるだけ」というシンプルさを、私は心地よく感じている。
「子どもが欲しいから何歳までに結婚はしたい」という声は、ベルギーではいまのところ聞いたことがない。それぞれの人生にそれぞれのタイミングがあるし、そこに年齢は関係ないというスタンスだ。
日本の友人たちからは「楽観的すぎる」と言われるかもしれないが、ベルギー人のような考え方のほうがストレスが少ないように私は感じる。
「適当」でも誰も気にしない
家事などの日常生活に目を向けても、いい意味で力が入っていない。
ベルギーでは、外食は日本よりはるかに高いので、基本的には家で自炊をすることが多い。しかし、朝はコーンフレーク、昼はサンドイッチ、夜は一品料理などシンプルだ。一番手がかかりそうな夕食に至っては、買ってきた肉を焼いてゆでたポテトと一緒に食べたり、パスタを食べたりしている。30分程度で作り終えることがほとんどだ。
また、女性と男性で家事や育児に大きな偏りがあるようには感じない。実際にOECDの統計データをみると、ベルギーでは家事に費やす時間は男性のほうが長く、圧倒的に女性が多く家事をしている日本とは状況が異なる。
年齢に関係なく男性も当然のように料理をするし、別の家庭でのホームパーティーでも、ワインをついだり食事の配膳と忙しく立ち回っていた。
ある30代のベルギー人男性は、朝は職場で食べるサンドイッチを自分でつくり、帰宅後はパートナーと一緒に夕食をつくる。休日はフロアごとに担当を分けて掃除をしている。
もちろん様々な考え方があるとは思うが、「自分のことは自分でやる」「一緒にやるべきことは、当然分担する」という精神が根付いていると感じることが多い。
圧倒的に安い教育
またベルギーで生活して感じるのは、日本との「子ども」への姿勢の違いだ。私は、東京よりも子どもに優しいように感じている。
私が通っている大学は、小さな街全体にキャンパスが散っているが、学校の中のカフェに、赤ん坊を連れてきているカップルがいた。途中で赤ん坊が泣き出し、正直少しうるさかったのだが、にらみ付けたり、文句をいったりする人はいなかった。ピリピリした空気になりにくいこと、それはちょっとしたことだが非常に重要だろう。
教育費に対する補助もユニークだ。ベルギー全土の義務教育年齢は6歳から18歳である。義務教育は初等教育(6~12歳)と中等教育(12~18歳)に分かれている。義務教育前の2歳半以上の子どもには、無料の就学前教育施設もある。2歳半までの保育料は、私立か公立かによって異なる。
公立保育施設では、所得に応じて変動するが、平均的なフランス語圏の公的保育料は、1日あたり2.68ユーロ(約420円)から37.87ユーロ(約5900円)の間となっている。
義務教育は無料で、日本と比べて大学も安い。例えば、私が通っている大学の費用は、ベルギー人学生なら基本的には年間たった835ユーロ(約14万円)である。
また、ベルギーでは子ども1人に対して18歳(地域や状況によっては25歳)まで手当てが出る。地域によって違うが、例えば私の住むワロン地域(フランス語圏)だと基本料金として、2020年1月1日生まれ以降の子は1人あたり毎月164.49ユーロ(約2万5800円)となっている。これは基礎額で、状況によって増加する。加えて「就学手当」などもあり、例えば18〜24歳はなんと年間90.09ユーロ(約1万4000円)の加算があるという(支給額は条件によって異なる)。
日本でも「子ども手当」があるが、世帯で最も収入が高い人の年収額が960万円未満の場合、毎月0~2歳は1万5000円、3歳~小学生は1万円(第三子以降は1万5000円)、中学生は1万円だ。
もちろん、ベルギーでは平均所得税は40%で、日本の平均25%に比べてはるかに高い。消費税も、軽減税率を除き21%と日本の2倍だ。
ただそれでも、塾や習い事などでさらに教育費がかかる日本と比較すると、ベルギーの方が「かなりお得」だろう。
日本で少子化は「当然の結果」?
日本の2022年の合計特殊出生率は過去最低の1.26だった。岸田首相は「こども未来戦略方針」で児童手当を拡充すると表明した。所得制限を撤廃し、給付を高校生まで延長するという。しかし、お金だけで解決するほど簡単な課題ではないと感じている。
日本よりも子育てがしやすそうなベルギーでも、2022年の合計特殊出生率は1.53にとどまるから、少子化がいかに難しい課題かが分かる。
少なくとも私は日本で生活していた時、子育てに関心を持ったことがなかった。金銭的にも、時間的にも、自分の人生が犠牲になる気がしていたからだ。
しかし、ベルギーで過ごすうちに「ここならありかもしれない」と感じるようになっている。
社会から急かされるのではなく、とにかく自分の人生を楽しむことを諦めない──。
そんな考えに自然と触れるこの国で、私の考え方も少しずつ変わりつつあるのかもしれない。
<BUSINESS INSIDER>
ベルギーでは「婚活」が話題にならない。結婚も子育ても自由な国と日本の違い