拡大するシングル市場

シングルはもはや市場の中心になりつつある新しい存在だ。消費支出の報告書によれば、シングルの人たちは結婚している人たちより、衣類、食品、外食、レジャー、娯楽に多くの支出をしている。シングル市場への進出を考える各国の企業は、次々とシングル向けの製品やサービスの提供を始めている。
30カ国を超える国のデータに基づいてシングル研究を行ったイスラエルの社会学者のエルヤキム・キスレフ博士は、その代表として食品、旅行、不動産・都市開発、広告・マーケティング業界を挙げている。
キスレフ博士の最新刊『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』を一部抜粋・再構成してお届けします。

独身の「食」のニーズに目ざとく対応

シングルの増加という人口統計の変化にめざましく適応しているセクターは、外食・食品業界だ。この業界は、次の3つの方法でソロ消費者に適応している。

第一に、イギリスの研究によれば、単身世帯は「台所忌避者」のカテゴリーに多く分布している。これまでの数十年間、料理に割く時間を減らす傾向が一般的にもみられた。労働時間の増加や、そのほかの時間的なプレッシャーが原因だ。シングルの人たちは、この動きの先頭に立ってきた。そもそも、ひとり分の料理をすることは効率が悪いからだ。

したがって、シングルは、ほかのどの人口統計グループと比べても、インスタント食品産業に引き寄せられがちだ。その結果、これらの食品はますます入手しやすくなっている。ひとり用、あるいはふたり用の量の調理済み食品の需要はますます伸びていくだろう。それにつれて、こうした商品の値段は下がり、さらに手に入りやすくなっていくことが予測される。

第二に、シングルの人たちは、たとえ、忙しなくしていたとしても、食べ物の好みにうるさい。だから、個人のニーズに合わせた食品はシングルの人たちに、なかでも特に若い人たちに向いている。彼らは、新しい味を試したい、本物志向の食品を口にしたいと望んでいるからだ。

第三に、食品市場は、特にシングルの人たちに向けた、より健康的な、持ち帰り用食品を提供するようになっている。シングルの人たちのグループは食習慣についての意識が高いだけでなく、質の高い食品にもっとお金を出す傾向があるからだ。私の分析からも、野菜、果物などの健康的な食品をとる習慣は、結婚している人たちよりも、シングルの人たちのあいだで、特に一度も結婚したことのない人たちのあいだで広がっていることがわかっている。

このように、シングルの人たちは健康的で栄養価のすぐれた食品を求める層として、市場をリードしていくものと期待されている。

「おひとりさま料金」を廃止した旅行会社も

シングルに適応していくと期待されるもうひとつの業界は、旅行業界だ。シングルの人は、冒険と自己実現を求める手段としての旅に特に興味をもつ可能性が高い。だが、旅行の道づれとなる人がいないということは、気後れすることであり、旅の費用が高くつくことにもなる。

若い人たちにとっては、グループで旅したり、友人たちと旅したりすることは当たり前のことだが、人々が結婚し、パートナーや家族と旅することを好むようになる年齢を過ぎると、旅の道づれを見つけるのはだんだん難しくなる。

そこで、旅行会社は中高年のシングルのニーズに合わせた商品を提供し始めた。シングルの人たちのために、ツアー旅行への参加を促し、コストを最低限にするとともに、安全さと安心感を提供するものだ。これらの旅行会社は、自由と柔軟さを好むと同時に、パッケージ化され、スケジュール化された休暇を好むソロ旅行者のニーズにも応えている。

企業のなかには、ひとり部屋追加料金を値下げしたり、廃止したりするところもある。ソロ旅行者向けの募集は今後も多様化し、数が増えるものと思われる。

注目すべき「シングルが暮らしやすい街」ランキング

これまで、シングルのための「一番住みやすい都市」リストでは、デートする際の経済状況や、パートナーの見つけやすさが重視されていた。だが、新しいリストのなかには、友情や娯楽を重視するものも出てきた。「フォーブス」はその一例で、自ら望んでシングルでいる人たちと、パートナーを見つけたい人たちの両方を対象にしている。最新版のリストのなかには、ナイトライフの選択肢や、シングル人口の割合、外出のコストなどの要素も含めて、もっと詳しく都市をランク付けしているものもある。

リストが明らかにするのは、シングルにとって、より低予算で気軽に外出し、人と知りあい、(デートするだけではなく)生活できる場所、多くのシングルの人たちが暮らす場所、そして将来的にコミュニティーが発展する可能性がある場所はどこか、ということだ。

これらのリストと、それによって引き起こされる人の往来は、こんにちのシングルの人たちがよりポジティブなライフスタイルを求めていること、また、どこに住むかを決定する際には、コミュニティーに関する要因に影響を受ける可能性があることを示唆している。

シングルの人たちは、友人、コミュニティー、雇用、そして恋愛の相手を見つけるチャンスを求めて、都市に移動してくることが多い。このようなシングルの人たちはたいてい、ひとり暮らしを好むので、彼らに適した公共のスペース、適切な住居の不足が課題になっている。

今後、特に都会のコミュニティーで、シングル人口が増え続ければ、このような変化に対応するための革新的な解決策がますます求められるようになるだろう。すでにシングルの人たちのニーズに着目して、既存のスペースや建物、住居を、より小さなアパートメントやワンルーム住宅に転換しているものもある。

工夫されたデザインと、省スペース技術を使えば、500平方フィート(約46平方メートル)よりずっと狭い場所に、住みやすく、おしゃれで、居心地のよい家を作ることもできる。とはいえ、これを実現するには、行政による調整が必要になってくる。多くの都市が賃貸用の家の最小サイズを規制しているからだ。たとえば、ニューヨークでは最近まで、最小サイズは400平方フィート(約37平方メートル)だったので、極小の賃貸用物件を作ろうにも、違法になってしまっていた。

バレンダインデーの広告ターゲットは?

広告やマーケティングの世界も、シングルの人たちのニーズに適応しつつある。これまでのマーケティング戦略は、シングルの人たちの不安、恐れ、ネガティブなステレオタイプにつけこもうとするものであり、シングルの人たちに汚名(スティグマ)を押しつけてきた。だが今では、アプローチを変えて、シングルのマーケットに参入しようとする動きもある。

マーケティング担当者たちは、ネガティブさを排除したうえで、シングルをターゲットにした広告を展開するにはどうしたらいいか、特別なコンサルタントからのアドバイスを求めるようになっている。アドバイスの内容には、便利さの提供、タイムリーなプロモーションの実施、不必要なレッテル貼りや、対象をシングルに特化し過ぎた結果として起こるステレオタイプ化の回避などが含まれている。

マーケティング戦略立案者のなかには、さらに進んだ考え方をする人たちもおり、アメリカ・マーケティング協会は企業に対して、カップルを対象にした主流のマーケティングにニッチ市場を形成するべく、バレンタインデーに直接、シングルをターゲットにしたマーケティングをおこなうことを推奨している。

もちろん、このようなマーケティング戦略は、利益を上げることを目的としているが、同時に、ネガティブなステレオタイプはよくないという意識の高まりをあらわすものでもある。

その結果、自信に満ちた結婚していない人物たちが、待望のマーケット広告に登場するようになり、シングルの人たちが、もっと明るい光を浴びた姿であらわれることになる。そうなれば、未来のシングルの人たちが差別を経験したり、ステレオタイプを押しつけられたりすることも減り、社会的にもきちんと認められるようになることだろう。

シングルの中でも異なる「消費習慣」

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当然のことながら、結婚しているかどうかの違いと消費習慣との関係は、シングルの人たちのなかでも、それぞれのグループによって異なる。たとえば、個人主義的で、楽しみを求める傾向が強いと考えられている、自らの選択でシングルでいる人たち、つまり、「ニューシングル」の場合は、ほかの人たちより多く、娯楽やレジャーにお金を使うかもしれない。

一方、なりゆきの結果でシングルでいる人たち、特に離婚や、配偶者との死別によってシングルになった人たちの場合は、経済的な制約のせいで、それほど自由にお金を使えないかもしれない。

とはいえ、その違いはこれまでほとんど調査されてこなかった。今こそ、その研究をすべきときがきたといえるかもしれない。そのような研究がおこなわれれば、企業にとっても、社会全体にとっても、シングル人口のなかの多様なグループを、より包括的に理解する助けになるだろう。

<東洋経済ONLINE>
世界の企業が注目する「拡大するシングル市場」

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