「おひとりさま」という言葉が定着している一方で、やはり人は「あの人、いつもひとりぼっちだね」と言われるのをわざわざ好んだりはしないようだ。
体調を崩して「家事を主に担っている娘」はどういう存在か
新卒で大企業に勤めたものの、5年後に心身ともに不調となり会社を辞めたアカネさん(36歳)。以来、今にいたるまで時折アルバイトをし、通常は家事のほとんどを担っている。ひとりっ子のアカネさんの両親は今も現役で働いているからだ。
「30代になってからは私が主婦ですね。でも周りには『家事手伝いの未婚の娘がいる』と思われている。結婚していないと主婦としても認められないんだなあ、と。ネットで知り合った友だちはいますが、家の周りではいつもひとりで行動しているので、『家族仲もよくない家庭で、娘はひとりぼっちのひきこもり』的な扱いです」
会社を辞めた当初は心身ともに疲弊して病院通いもしていたが、今は体調はほぼ戻った。ただ、両親の年齢もあって、アカネさんが家事をこなすのが一番適当だったために、こういう生活になっただけだ。
「結婚しないと決めているわけではありません。婚活もたまにしていますが、婚活より先に仕事をしたい」
とはいえ、家にいる時間が長いため、近所や親戚からは「今、流行の子ども部屋おばさんになりつつあるんじゃない?」と冗談交じりに言われることもあった。
「人の人生にあれこれ言うなという思いもありますが、他人から見ればそう見えるのも事実なんだろうなと冷静に受け止めてはいます。でも、人はそんなに外に出なくちゃいけないものなのか、いつでも誰かとつるんでいないといけないのか。正直言うと、よくわからないんですよね」
30代後半の女性には、友だちが何人いるのが妥当なのだろうか。そして彼女のように会社勤めをせずに実家にいると、「こどおば」なのだろうか。
看護要員でも「こどおば」と言われてしまう
ひとり暮らしで、ひとりでどこへでも行く女性は「おひとりさま」として、ある意味、クールでかっこいいイメージをもたれている。だが実家にいるというだけで、「こどおば」と称されてしまうのは釈然としない。
「私は今、調子の悪い両親を看護しています。ちょうど会社が倒産した時期に父が事故にあい、母が体調を崩したので、ふたりを放ってはおけなかった。仕事を探したいし、たまには外に遊びにも行きたいけど、今はそれができる状況ではありません」
そう言うのはアヤカさん(35歳)だ。コロナ禍で会社が倒産したころ、父が交通事故にあった。そのショックで母が持病を悪化させたので、親子3人でいたわり合うように暮らしてきた。
「親戚からは、3人で家にこもって何をやってるんだと言われました。状況も知らずによく言えると憤ったものです。コロナ禍ということもあって、本当に自由がきかなかった。最近、ようやく父のケガもよくなってきてリハビリも進んでいます。母も落ち着いている。私も職探しに出かけられるようになりました」
学生時代の友だちにも数年ぶりに会ったが、その中のひとりが「働かないで生活できるなんて羨ましい。でも他人と話をしないでひとりぼっちでいると早くボケそう」と配慮のない発言をした。その言葉に、アヤカさんはいたくショックを受けたという。
「表面的なことしか見ずに、そういうことを言うのかと落ち込みました。むろん、他の友人はみんな同情してくれたし、職探しするならうちの会社、聞いてみようかと言ってくれる人もいたけど、“ぼっちのこどおば”だとどこか下に見ている人がいることも確かなんだろうなとよくわかりました」
どこでも口さがない人はいるものだが、それが自分を知っている友人となると悲しみも深くなる。冗談だとすませられる類いのものではない。
「人が他人の生き方を事情も知らずに揶揄するものではないと、本気で思います。でもそう思う人、言う人を止められないのも事実だから、誰が何を言っても強く生きなければいけないんでしょうけどね……」
家庭の事情、個人の事情。アヤカさんの言うように、その人の人生や事情は他人には計り知れないもの。そこへの想像力を失ったとき、人は人を簡単に傷つけてしまうのかもしれない。
<All About>
実家暮らしの36歳“おひとりさま”が憤る、世間からの「ぼっちのひきこもり」扱い