独身女性の価値観

ここ30年で日本における女性の未婚率は上昇している。国勢調査によれば、女性の生涯未婚率は1985年から2020年で4.3%から14.9%にアップした。そして、古今東西、独身を貫いて社会的成功を収めた女性は少なくない。

「公爵夫人はたくさんいるけれど、ココ・シャネルは私ひとりしかいないから」

イギリス公爵からのプロポーズをこう断ったのは、ココ・シャネルことガブリエル・ボヌール・シャネル(享年87、1971年逝去)。世界的なファッションデザイナーとして活躍した彼女は生涯独身のまま働き通し、女性の体と心を解放する洋服づくりに人生を捧げた。

戦場の病院で献身的な看護を続けたフローレンス・ナイチンゲール(享年90、1910年逝去)も結婚はしなかった。26才のときにある男性から求婚されたが、「私にはやるべきことがある。神の道に進まなければならない」と言って断ったとの逸話が残る。

『サザエさん』の作者として知られる長谷川町子さん(享年72、1992年逝去)も、結婚して当然とされた昭和の日本を伴侶なしでひょうひょうと生ききった。彼女は未婚であることを問われると、「毎日が楽しいせいか、結婚なんて考えたことがない」と答えたという。

こうした偉人の生き様から学べることも多いはずだが、独身研究家の荒川和久さんは、独身で成功した女性にこだわるのはよくないと指摘する。

「シャネルやナイチンゲールの功績ばかり強調すると、社会的な意義や使命を背負っていないと、女性は独身でいてはいけないとの話になりかねません。そうした話題自体が、『一部の有能な女性でなければ、結婚することが当たり前』という偏見を生み出します。

独身だろうが、結婚していようが、子供を産んでいようがいなかろうが、それだけがその人の価値を決めるものではありません。名もなき市井の独身女性でも、輝いている人はたくさんいるのです」(荒川さん・以下同)

そもそも日本で結婚することが当たり前とされるようになってから、まだ約100年しか経っていない。荒川さんが続ける。

「日本人がみんな結婚するようになったのは、明治民法が1898年に施行されてから。それ以前の江戸期は未婚も多く、夫婦別財でしたが、明治民法は庶民にも家父長制を取り入れ、妻の財産権を剥奪して経済的自由を奪い、妻を家に縛りつけました。これにより、女性は結婚しないと生きていけない社会になったのです。

戦後もそうした思想が連綿と続き、夫は外で稼いで妻が家を守るという夫婦関係が確立しました。そして1980年代まで、生涯未婚率が男女そろって5%未満という皆婚社会が実現したのです」

だが時代の変遷とともに100年続いた「結婚の呪縛」が徐々に解けていく。

「今日より明日が豊かになると信じることができた高度成長期が終わると家庭の経済的基盤が揺らぎ、専業主婦が成立しなくなりました。一方で女性の社会進出も進み、稼げる女性は結婚に魅力を感じなくなった。また、自分を大切にする考え方が浸透して、『結婚しない自由』や『離婚する自由』が否定されない世の中になりました。単身女性が増加する現在は、まるで夫婦が対等だった江戸時代が再来したかのようです」

今を生きる人にとっては江戸時代にの価値観に戻ること自体はあまり興味がないとは思いますが、人間の価値観というのはこうやって繰り返すし変化していくものなのだなと思いました。
ひょっとしたら独身であることの方がスタンダードになって、結婚=種の保存という感覚はどんどん古くなっていくのかもしれません。

<NEWSポストセブン>
時代の変遷とともに解けていく「結婚の呪縛」 夫婦が対等だった江戸時代の再来か

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