独身研究家の荒川氏の未婚化状況の紹介です。
未婚化の問題では、よく若者の価値観にその要因を求めようとする人もいます。「若者の草食化」などがそのひとつですが、これもまた未婚と非婚の混同による誤解が生じます。非婚者の中には、「恋人などパートナーがいても、結婚する必要性を感じない」人もいます。
つまり、「結婚はしないが恋愛はする」場合もあるわけです。同じ独身者であってもつねに恋愛している層もいれば、生まれてから一度も恋愛したことのない層もいます。
「いずれ結婚するつもり」と回答する割合が直近でも9割近辺であることから「結婚したいが9割もいる」とメディアでは喧伝されていますが、これも正確ではありません。実質結婚に前向きなのは、男4割、女5割でそれは40年前から変わりません。結婚意欲が最近の若者の価値観の変化によるものではない証拠です。
それでも、細かく見ていくと「一生結婚しない」という割合が近年上昇していることも事実です。前述した「9割が結婚したい」という数字は、対象が18~34歳ですが、49歳までに拡大して「一生結婚しない」選択的非婚割合推移をみてみると、2015年時点の調査で、男19%、女16%に達しています。
別の調査なので本来推移として同一化してはいけないのですが、参考値として2018年調査の内閣府「少子化対策に関する意識調査」で20~49歳を対象として「結婚するつもりはない」割合を見ると、男28%、女24%にまで上昇しています。もはや「一生結婚しないという選択的非婚3割」の時代に突入してきたといえるでしょう。
興味深いのは、20~40代の選択的非婚率と生涯未婚率の推移を比較したときに、男性は2015年までは生涯未婚率より非婚率のほうが少なく、女性の場合は逆であるということです。
これは、男性の場合は、「結婚したかったのにできなかった」不本意未婚が多く、女性の場合は「自ら選択した独身」である選択的非婚が多いということになります。そうなると、現在の未婚化・非婚化とは「結婚できない男」と「結婚しない女」という構造が作り出したものなのでしょうか。
若年層では、2000年代以降、結婚したい人口は男女逆転し、いわゆる「女余り」状態になっています。単純な未婚人口比較では300万人以上も男が余っているのに、婚活の現場では女余りになってしまうことの表れでもあります。
34歳までの年齢は、男女とも婚姻数が最も多い年齢層であり、そのボリュームゾーンでは「結婚したい女性が結婚できない」現象が起きています。一方で、中年層では、圧倒的に「男余り」状態です。
つまり、年代別結婚したい人口の推移から見ると、「結婚できない男」と「結婚しない女」という単純な構造ではなく、「結婚できない若い女」と「結婚できない中年男」という構造が見えてきます。
続いて、これら年代別の「結婚したい人口」が、その後の5年間でどれだけ初婚をしたかという「結婚希望達成率」を算出します。初婚数は5歳階級別の初婚数を人口動態調査より当てはめています。
これによれば、中年男女は、達成率そのものは低いですが、結婚したいという希望者に対する達成率は、男女とも若干下降基調であるものの1990年以降それほど変わりません。
注目したいのは、若年層の推移です。1990~1994年では、男性でも達成率80%超、女性に至っては、ほぼ100%です。これは、結婚を希望する20~34歳の独身女性は1990年代前半まではほぼ全員が結婚できたということになります。その後、2005年にかけて大きく減少し、男女ともに6割を切っています。要するに、「結婚したいのにできない」未婚が34歳までに4割も残されていることになります。
つまり、これは「結婚できない若者」問題ということになるのです。
「結婚したくない」や「結婚する必要性を感じない」独身男女が生涯未婚を貫いたとしてもそれこそ「選択的非婚」であり、その個人の決断は尊重されるべきものだと思います。が、「結婚したいのにできない」人口が年々増えてきていること、しかも、それが若者に集中していることは憂慮すべき問題です。
そもそも「選択的非婚」割合は、男女とも40歳以上を機に増加します。20代の頃からずっと非婚だった人ももちろんいるでしょうが、40歳までは「結婚したい人口」の一員だったかもしれません。
そこまでの過程で、今後も「結婚する相手が見つからない」「結婚できる経済的余裕がない」あるいは「染みついた生活習慣により、もう結婚する必要性を感じなくなった」ことで、「選択的非婚」への鞍替えをした人もいるでしょう。
中には、本音ベースでは「結婚したい」のに「結婚できない」という現実に対する認知不協和から、心を安心させるための理屈づけとして「私は結婚なんてしたくないのだ・不要なのだ」と思い込もうとしている人もいるかもしれません。「選択的非婚」が増えている背景には、若いうちに結婚したいのにできなかった大勢の「不本意未婚」が隠れています。
「男女とも年齢を重ねれば重ねるほどハードモードになるのだから、本当に結婚したいなら、若いうちに結婚しておけ」と言うは易く、行うは難しです。
今の高齢既婚者が恩恵を受けていたお見合いや職場のお膳立てもなくなり、30年間全然あがらない給料という経済環境の中で、さらにはコロナ禍の行動制限などによって、そもそも出会いの機会すら剥奪されてしまった若者たちにとっては、本人のやる気や努力の問題ではないと言いたくもなるでしょう。
単に、平均初婚年齢推移だけを見て「晩婚化」などと断じるのは適当ではありません。「選択的晩婚」ではなく、「結果的晩婚」である場合も多いからです。
少子化の問題は、基本的には婚姻数減少の問題です。子育て支援の充実それ自体は否定しませんが、現在の少子化対策で婚姻数が回復できるとは思いません。
結婚したいと願っている若者が、若者であるうちに結婚できない。そんな「結婚したいのにできない若者が4割」も存在する状況こそもっと真剣に向き合うべき問題ではないでしょうか。
もともとあった若者の希望を、若者自身が打ち消して「最初から希望なんてしなかったことにしよう」と無理やり納得させなきゃいけない世の中はどうなんだろう、と思います。
<東洋経済 ONLINE>
「不本意未婚」結婚したいのにできない若者の真実