政府の「少子化対策」はそのことごとくが的外れであると、当連載においても繰り返し述べてきたことですが、的外れな対策の繰り返しで、ついに2023年人口動態調査の概数値では、出生数が前年比▲5.6%の72万7277人まで低下、合計特殊出生率も1.20という戦後最低レベルにまで低下してきました。
先ごろ発表された2024年人口動態速報値(1~5月累計)でもその基調は変わらず、出生数は前年同期間比▲4.9%であり、仮にこのままの推移でいけば、2024年の年間出生数は69万人と70万人を割ることになるでしょう。
子育て支援の拡充で出生数は増えない
政府の少子化対策が効果をあげられないのは、それが子育て支援一辺倒であるからです。子育て支援は否定しませんが、それをどれだけ拡充させても出生数の増加には寄与しません。
一部では「今いる夫婦が3人目を産めば少子化は解決する」などという論を展開する者もいますが、それはまったくの間違いです。
出生数が激減しているのは、結婚した夫婦がたくさんの子どもを産まないからではなく、一人目が生まれてこない問題だからです。その中には、結婚した夫婦の無子割合が増えているということももちろんありますが、それも本質ではありません。一人目が生まれてこない問題というのは、イコール婚姻数が増えていない問題です。
出生順位別の合計特殊出生率の長期推移をみれば、現状の出生数の減少が「一人目が産まれてこない問題」であることが明らかになります。
基本的には第一子出生率よりも第二子以降出生率のほうが上回っています。つまり、第一子を産めば、少なくともそれと同等以上の第二子以降が誕生しているわけです。
ただし、第二子以降出生率が大きく下がった時期がいくつかあります。ひとつは、1974年以降で、第一子の低下よりも先に第二子以降が減っています。これは、当時、政府が「子どもは2人まで」政策というのを掲げ、むしろ多産を抑制する方向に舵を切ったことが大きく影響しています。
第一子の出生率の回復こそが出生数や出生率を改善する
さらに、バブル崩壊後の1990年代初頭から就職氷河期にあたる2005年にかけて、第一子出生率はほぼ変わらないのに、第二子以降出生率だけが激減しています。
確かに、この時期においては、「少子化とは第二子や第三子が生まれない問題」であったでしょう。この時期においては、子育て支援の拡充などで夫婦の子どもの数を増やすという方向は間違ってはいません。しかし、その中でも、第二子以降の出生率が第一子出生率を下回ったことは一度もありません。
2006年以降から2015年にかけては、第一子出生率の回復とともにやや遅れて第二子以降出生率も上昇に転じています。勘違いしてはいけないのは、これは別に政府の少子化対策が奏功したわけではありません、1970年代初頭に第二次ベビーブームで生まれた人口の多い団塊ジュニア世代がちょうど30代後半を迎える頃で、ある意味駆け込み的に結婚・出産をした時期と重なるためです。
全体的に言えることは、基本的に第一子の出生率の回復こそが出生数や出生率を改善する大きなポイントであることがわかります。
よくよく考えれば当たり前の話です。第一子が生まれなければ第二子も第三子もないわけで、2015年以降つるべ落とし的に全体の出生率が減少続きで、2022年には第一子出生率が0.59にまで低下。これは1970年代以降どころか、明治以降の統計史上でも最低記録です。まさに少子化のその原因は「第一子が産まれてこなくなったから」に尽きるのです。
この第一子出生率の減少は、婚姻数の減少とリンクするものですが、より詳細に年齢別に見れば、「20代での婚姻と出生が減った」ことと完全に一致します。
20代での婚姻と出生はどれほど減っているのか
大きく減少しているのは、29歳以下の初婚数であり、2000年対比65%減です。同様に、29歳以下の第一子出生数も60%減であり、初婚の減少がそのまま第一子の出生減と結びついています。
一方で、30~39歳の初婚や第一子出生数は2000年から2015年にかけてはやや増加しましたが、2015年から2022年にかけてはこちらも減少しています。初婚数と第一子出生数の増減が完全にリンクしているという点では29歳以下と同様です。
ちなみに、30代での第二子以降出生率が突出して高いように見えますが、これを実現するのも20代での初婚、第一子出生をした層が存在する前提のうえの話です。
まとめれば、出生数が減っているのは、20代までの第一子の出生数が減っているからであり、20代までの第一子出生数が減っているのは、20代までの初婚数が減っているからであるということになります。
29歳までの初婚数の減少が約33万組、第一子出生減が、約24万人、第二子以降の出生減が約15万人。30代以上の減少が抑えられても、また、40代以上はすべてプラスだったとしても、それで29歳までの減少幅をカバーできるレベルではないし、第一子の減少(つまりは、初婚の減少)こそが、現在の出生数減少の根源であることがわかります。
逆にいえば、出生数の減少を本気で抑えたいのであれば、この20代での初婚数の減少幅を小さくしないとほぼ意味がないということです。
晩婚化や晩産化の問題ではない
また、少子化の要因として晩婚化や晩産化をあげる人がいますが、これらのデータからわかることは、起きているのは晩婚化や晩産化ではないことです。2015年までは晩婚化や晩産化があったかもしれませんが、それ以降2022年にかけては、晩婚化や晩産化という後ろ倒しではなく、20代で初婚や出生をしなかった層は、そのまま30代でもしないままという状況に変わっています。40歳以降の初婚や出生数は増えていますが、全体から見れば微々たるものです。
特に、20代女性が結婚に踏み切るには、夫となる相手の経済力を気にしないわけにはいきません。かつて夫年上婚が多かった時代では、その経済力は年の差でカバーできていたかもしれませんが、昨今夫年上婚は激減しています。
婚姻数の多かった1970年には8割を占めた夫年上婚は、2020年には5割台に低下。絶対数でも62万組から16万組へ減少、年間当たり46万組も減少しています。この46万組減少はほぼ全体の婚姻数の減少数と同等であり、つまり、婚姻数の減少はほぼ夫年上婚の減少によるものです。
年齢が同じくらいの中から相手を探すといっても、20代のうちにある程度の経済力のある層は限られていて、婚活をしても結局「希望する相手がいない」まま20代を通り過ぎ、気付いたときには「無理に年収の低い人と結婚しなくても独身のままでいいかな」というモードに入ってしまう場合も多いでしょう。
「マッチングアプリ」で婚活支援は的外れ
そんな中、東京都が独自の「マッチングアプリ」の開発を進めるという話や、政府も少子化対策の一環として、「若者のライフデザインや出会いの支援」、いわゆる婚活支援に乗り出す方針であることなどが報道されていましたが、これもまた的外れと言わざるを得ません。
少子化の問題は婚姻数の減少であるという事実認識と若い人の婚姻を支援する必要があるという課題の抽出までは間違っていませんが、大事なのは「婚活支援」ではなく「若者が若者のうちに結婚して家族を持てると思える環境支援」のほうです。
そして、その環境のもっとも比重の大きい部分は経済環境です。経済環境が芳しくないがゆえに、若者は現在や将来に対する漠然とした不安を抱えるわけで、その不安があるためになるべくリスクを冒さないようにしようという行動萎縮の心理が働きます。
実際、従業員1000人以上規模の大企業や公務員の未婚率は高くありません。将来の不安もなく、経済的にゆとりのある若者は結婚も出産もできている。そうした現状を正確にとらえ、表面的な「支援をやってる感」の対策ではなく、実質可処分所得をあげて、中間層の若者の心の余裕を整えることこそ必要だと思います。
<東洋経済ONLINE>
日本の少子化問題が解決できない「本当の理由」