日本では未婚率が上昇し続け、「おひとりさま」が増加中です。一見しがらみがない「おひとりさま」ですが、相続問題となるとそう単純にはいかないかもしれません。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、詳しく見ていきましょう。
配偶者も子もいないおひとりさまの相続
相続というと、子供や孫に財産を承継することが基本でした。ところが最近は生涯独身でいる、または夫婦でも子供がいない、あるいは自分たちの意思として持たない人たちが増えています。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)によると国内総世帯数5,178万5千世帯のうち、単身者世帯(調査では「単独世帯」)は1,490万7千世帯、全体に占める割合は28.8%になっています。
これは夫婦と未婚の子供がいる世帯数1,471万8千世帯を上回る数です。これまで長い間、夫婦と未婚の子供2人というのが標準世帯とされてきましたが、今や主流はまさに「おひとりさま」なのです。
おひとりさまというと、若い独身男女と考えるのは昭和・平成時代の常識からみた誤った考えです。実に単身者世帯の約半数、736万9千世帯が、65歳以上が世帯主である所謂「高齢単身者世帯」です。これは全世帯数の14.2%にあたります。日本中の家をノックすると、7軒に1軒はおひとりさま高齢者がどれどれ、といって顔を出す状態にあるのです。
約30年前である1989年、高齢単身者世帯数は159万2千世帯にすぎませんでした。30年間でその数はおよそ4.6倍に膨れ上がっています。
高齢単身者世帯の多くでこれから相続が発生していくことは自明です。そして今後問題となっていくのが、この高齢単身者世帯で起こる相続のうちかなりのケースで、子供がいない相続が発生しそうだということです。
相続する子供がいない「おひとりさま相続」が喫緊の課題に
2020年に行われた国勢調査による、15歳以上を対象とした配偶関係別人口をみると、未婚者数は男女あわせて3,279万人、なんと対象人口の29.5%がおひとりさまであることがわかります。もちろん15歳から20歳代までは結婚をしない人が大半です。
これを年齢別で30歳以上の未婚率を見てみましょう。[図表1][図表2]は男女の年齢別(5歳刻み)にみた未婚率の推移です。
[図表1]日本人男性未婚率推移
[図表2]日本人女性未婚率推移
40歳代でみると男性の3割、女性の2割が未婚です。しかしもっと注目されるのが30歳から34歳で、男性は約半数、女性でも4割近くが未婚であることです。約40年前に遡った1980年では同年齢層で男性の未婚率は21.5%、女性は9.1%。男性はもちろん女性が結婚しなくなっていることは数値上からも明らかです。
この40年間で一方的な右肩上がりになっている未婚率の上昇は、今後さらにおひとりさま相続が増えていくことを示しています。
さらに現代では結婚しても子供ができない、あるいは子供を持たない夫婦も多くなっています。こうした世帯でも今後、夫婦のうちの片方が亡くなると二次相続の段階でおひとりさま相続が発生することになります。
世の中に出ている相続関係の本はそのほとんどが子供、あるいは孫に相続することを前提にしていますが、これから喫緊の課題となるのが、相続する子供がいない「おひとりさま相続」なのです。
「おひとりさま」の相続人は誰?
おひとりさま相続の対象となる人は、独身で子供がいない方、そして結婚はしたものの子供がいない夫婦で死別や離別などによって単身者になっている方です。
自分は独身で、相続する相手もいないのだし、気楽に過ごしてお金は使い果たし、自分の住んでいるマンションも、死んだら国か自治体のものになるのだろう、くらいにしか考えていない方が多いようですが、まず真剣に、本当に自分の財産を相続する人がいないのかどうかを考えてみましょう。
子供がいない場合の相続を考えます。まず親が健在であれば親が法定相続人になります。親が他界していても、あまりないケースですが祖父母が存命ならば祖父母が対象となります。親にとっては子供が自分よりも先に亡くなるのはつらいことですが、法律上では子供の財産を相続することになります。
父母も祖父母も亡くなっていても、兄弟姉妹がいれば彼らが法定相続人となります。兄弟姉妹であれば、何人いても相続対象となるのです。また兄弟姉妹のうちだれかがすでに亡くなっていても、その子供、つまり甥や姪がいれば、今度は彼ら彼女らが相続対象となります。さてややこしいことになってきました。
おひとりさまだからといっても相続問題から離れられないのです。まだあまりこうした相続形態が世の中の主流にはなっていませんが、その予備軍が大量に控えているのが、令和時代の相続です。
特に年齢を重ねてくると兄弟姉妹との交流も少なくなりがちです。甥や姪とは会ったことがないという場合もあります。あらかじめ、自身の財産の相続権が誰にあるのかについてはよく認識しておくことが求められます。
最近では結婚していなくても、同居しているパートナーがいるケースも多いです。なんだか疎遠になった兄弟姉妹に財産が引き継がれるくらいなら、パートナーに財産をすべて相続させたいという人もいるでしょう。しかし法律上は、どんなに長期間にわたってパートナー関係を築いていても、パートナーが相続する権利はありません。
したがって長年連れ添ったパートナーが相続発生後に相手の財産を相続したい場合には、家庭裁判所に申請して特別縁故者に認定してもらう必要があります。
特別縁故者に認定されるには、事実上配偶者として考えられるような、長年にわたる内縁関係がある、介護や看護で特別な貢献をしていた、などといった事実が認められることが必要です。
また家庭裁判所への請求は、相続人が不在であることが確定してから3か月以内、被相続人が亡くなってから1年以内という制約があります。
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