結婚・子供はいらない

深刻な少子化の背景には、出会いや結婚、働く環境など、現代のライフスタイルが複雑に絡んでいる。岸田文雄政権がまとめた新たな少子化対策には児童手当の拡充など、子育て世帯への金銭的な支援が目立つが、真の処方箋になるのか。(水内茂幸)

夏穂(24)「結婚や子供と無縁の人生送るだろう」

東京都内の大手商社に務める夏穂(24)は、入社2年目の営業職だ。独身で現在は交際相手もいないが、今後も「結婚や子育てと無縁の人生を送るだろう」と考えている。

子供が嫌いというわけでもなく、身体的な問題もない。大学時代には同学年の男性と交際した経験もある。今の職場は、出産や子育てに関する制度が「恵まれすぎるほど」充実しており、一度職場を離れてもキャリアは遅れない。

それでもなぜ結婚や子供と無縁だと思うのか。

夏穂は子供を持つ前提として結婚があると考えるが、今は「長く特定の人と一緒に暮らすことが考えられない」という。大学時代の交際相手からは「2~3年後には結婚だね」と強く言われたことが響いたのか、就職後に自然消滅した。

仕事は充実している。休日は1人で街歩きをすることも多く、プライベートでも満足した日々を送る。隣県に住む両親も結婚をせかさない。

夏穂が子供を考えないもう一つの理由が、教育費の懸念だ。「自分が大学を卒業するまでの間、両親が与えてくれたものと同じ教育環境を、わが子に用意できる自信がない」というのだ。

夏穂は大学時代、平均的な教育費のデータなどを参考にシミュレーションをした。大学を卒業するまですべて公立学校に通っても1千万円以上、私立なら2千万円以上かかりそうだと判断した。これに自らの収入の将来見通しを重ねると、子供を育てられる確信を持てないというのだ。

ただ、夏穂は子育てする未来を完全に閉じてはいない。仮に将来子供を持つならば、30歳くらいでパートナーを探し、35歳までには出産…という人生設計も考える。しかし、今は充実した毎日を送るだけに、「30歳になったときに改めて考えればいい」と思う程度だ。

夏穂の同世代では、似たような考えが増えている。インターネット情報提供会社「ビッグローブ」(東京)の昨年の調査では、18歳から25歳までのいわゆる「Z世代」で未婚で子供もいない人のうち、「将来結婚したくないし子供もほしくない」と考える人が36・1%に達した。「将来結婚したいが子供はほしくない」との答えも9・6%あり合計45・7%が子供を持たない将来を描く。

やりがいのある仕事環境と充実したプライベート、教育費への漠然とした不安があいまって、夏穂は子供を持つという考えから離れている。「今はまったく寂しさを感じない」と笑顔で語る姿には焦りが感じられない。

「結婚がめんどい」「教育環境は義務…考えると無理」

先に配信した記事には、X(旧ツイッター)に「この感覚めっちゃわかる」「子供はほしいけど結婚がめんどい」といった声が寄せられた。「自分と同等かそれ以上の教育環境は義務だと思うし、そう思うと子供は無理」「身近に支えてくれる親族がいて、仕事と子育ての両立ができた。安心して両立できる制度の更なる充実を望む」といった意見もあった。

社人研・福田節也室長「共働きの育児、若者には負担に映る」

国立社会保障・人口問題研究所が令和3年に実施した「第16回出生動向基本調査」でも、結婚や家族に対する旧来的な考えを支持する未婚男女の割合が6年前の前回調査から大きく低下し、若い世代の結婚・出産離れの傾向を裏付ける結果がみられた。こうした流れがZ世代以降に定着してしまうのか、あるいはコロナ禍という大きな社会変化を経験したことによる一時的なものなのか、今後注視する必要がある。

従来、未婚者の結婚・出生意欲低下の要因には、非正規雇用などにより十分な経済的基盤を築けないことや、出会いがないといった男女交際における障害が原因とされてきた。近年では結婚や出産を経ても共働きを続ける夫婦が増えている。

共働きで子供を育てていくとなると、夫婦間でさまざまなすり合わせが必要となる。若い世代にはそれも負担と映るのかもしれない。結婚や出産はあくまで個人の自由な選択の結果であるべきだが、1人で生きるより結婚や子供を持つ人生の方が楽しいと思えるような社会に変えていかないと子供は増えない。

若者の価値観が結婚や子育てから離れていってしまうと、仕事と子育ての両立策を充実させても子供を増やすことは難しくなるだろう。

<産経新聞>
今は満足、将来不安…Z世代に広がる「子供いらない」 識者「結婚や子育て楽しいと思えない社会は増えない」 

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