私を楽しませるのは、私──他人にどう思われようと、自分にはこの暮らしがあっている。主人公は48~84歳のいずれも一人暮らしの女性。人気女性作家6名が日常に起きたちょっとしたドラマを共感たっぷりに描いた6編。発売後即重版が決まった
「おひとりさまのススメ」短編集をお楽しみください。
「小説推理」2023年11月号に掲載された書評家・門賀美央子さんのレビューで『おひとりさま日和』の読みどころをご紹介します。
『おひとりさま日和』大崎梢 岸本葉子 坂井希久子 咲沢くれは 新津きよみ 松村比呂美 /門賀美央子 [評]
今や世のマジョリティは“おひとりさま”。自分の力と周囲からの小さな手助けを頼りに一歩一歩進む女性たちの姿をあたたかく見つめ、見守る6つの物語。
中年を過ぎての独身独居なんて侘しさの極み。世間のそんな思い込みは今なお払拭されてはいないが、昔に比べれば風当たりはずいぶんと柔らかくなった。
6人の気鋭が独居女性の人生模様を描いた『おひとりさま日和』も、そんな世の中だからこそ生まれた一冊だろう。
物語の主人公たちに共通するのは「一人暮らしをしている」ということだけ。
大崎梢「リクと暮らせば」の照子と新津きよみ「サードライフ」の千枝子は夫と死別、咲沢くれは「週末の夜に」の頼子は離婚と、一度は結婚生活を経験している。坂井希久子「永遠語り」の十和子と松村比呂美「最上階」の成美は自らの意志で独身を貫いている。岸本葉子「幸せの黄色いペンダント」のナツだけは理由が明らかにされていないが、どうやらベテラン独居者ではあるらしい。年齢も事情も異なる女たちの“おひとりさま”ライフを描いた諸作品は、その多様性を反映し、底に潜むテーマも一作ごとに異なる。
「サードライフ」では何もかも夫に頼りきって生きてきたのにいきなり自立を余儀なくされた老妻の試行錯誤と成長が、「週末の夜に」と「最上階」は大人の女性たちのシスターフッドが描かれる。等身大の現代を写す物語だ。
一方、「リクと暮らせば」と「幸せの黄色いペンダント」は高齢化社会ならではの新サービスが小道具になっているものの、物語から浮き上がってくるのは、普遍的な、でも案外忘れられがちな「幸せな日常に必要なのは安心と生き甲斐」という事実だ。
少し肌触りが違うのは「永遠語り」だろうか。いかにも今どきっぽい憧れのスローライフものかと思いきや、愛の思い出を胸に山中独り暮らすことを選んだ女性の心のうちが淡々と語られる、クラシカルな恋愛小説だった。他作品の主人公たちが“おひとりさま”の活路を他者との連帯に見出していくのに比べ、十和子は死者への想いを道連れに自ら選んで孤独を歩んで行こうとする。こうした在り方もまた“おひとりさま人生”の醍醐味であるように思える。
2022年の統計調査では一人世帯が全世帯の38パーセントを占め、とうとう世帯形態の最大多数となった。もはやおひとりさまは堂々たるマジョリティだ。そうである以上、これらは“彼女たち”ではなく“私たち”の物語なのだ。“おひとりさま”が現在進行形の人も、未来形の人も、我が身に重ねると「これから先の私」が見えてくる、かもしれない。
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「中年を過ぎた独身独居はわびしさの極み」は今は昔。もはや日本のマジョリティである「おひとりさま」をテーマに、人気女性作家が書き下ろした競作集『おひとりさま日和』