40代独身女性の本音

今年4月より内閣府の外局として設置されることになった「こども家庭庁」。今年6月には政策の大枠を示す方針だが、岸田首相が記者会見で発言した「異次元の少子化対策」はこれまでとなんら変わりない“金配り”。しかし、結婚しなかった(できなかった)のは必ずしもお金だけが問題ではない。前回の40代独身男性たちの魂の叫びに続き、今回は40代独身女性側の意見を聞いた。

「結婚するなら別居婚がベスト」

日本の女性にとって結婚は、名字を変更しなければいけなかったり、出産や育児、それに伴うキャリア継続の難しさ……と様々な転換を経なければいけない点でハードルが高い。
さらに、キャリア問題以外でも、女性の結婚を阻むたくさんの事情がある。

数回の転職を重ね、現在はIT企業の広報としてキャリアを築いた園田さん(仮名・47歳)は20代の時に経験した大失恋が尾を引き、“結婚しない人生”を歩んできた。

「25歳の時に付き合ってきた人は『いずれ結婚するだろうな』と思えるくらい好きだったんですよ。今にして思えば、趣味も価値観も違うし、割と物事を悲観的に考える人でどこがよかったのかすら覚えていません。
それでも若い頃って恋に対して盲目的で、自己犠牲してでも彼氏を優先して『この人をなんとか支えたい』と思うほどその人しか見えてなかった。だから別れた時はとにかくショックで……どう立ち直ったかを思い出せないくらい落ち込みました」

それ以降、恋愛にすがる生き方をやめて、結婚を意識しなくなったという園田さん。その後も男性との出会いはあったが、その関係性はあいまいで、恋愛に発展することはなかったという。

「恋愛が億劫になってしまったんですよね。とはいえ、真似事はしたかったから30代のころはマッチングアプリで知り合った男性とその場限りの出会いや肉体関係を持つことはありました。当時は残業が月に70時間を超えることもザラと仕事が忙しく、彼氏がほしいとかもあまり思わなかったんですよね……。

それで過労がたたって心不全で入院。退院したときに『老後も1人で生きていく覚悟を決めよう』と思いました」

37歳でマンションを購入し、iDeCoなどの積立も始めた。生活に彩りがほしいという理由からペットも飼い始めた園田さん。

「1人でも美味しいものは美味しいし、映画も楽しい。男性がいなくても生きていける経済力、生活力もあるのでなんの不自由もないですよ。
ペットがいるから、30代のときのようにアプリで出会った男性に癒しを求める必要もありません。

もし結婚するなら別居婚がベスト。だっていくら共働きとはいえ、女性がメインで家事をするケースがほとんどだし、今さら人の面倒は見たくない。週末だけお互いの家を行き来するような関係がいいですね」

「政府は独身者に対して冷たい」

総務省の労働力調査によると、夫婦ともに就業者である共働き世帯は増加し、専業主婦世帯571万世帯に対し、共働き世帯は1240万世帯にまでのぼる。にもかかわらず、現実的には女性の家事や育児の負担が重いケースが多数派だ。
その事実を周囲から聞いているからこそ、結婚に二の足を踏む女性もいた。

IT企業で広報として働く川田さん(仮名・43歳)は、大学卒業後にフリーランスとして仕事をし、20代後半から会社員になるという、稀なキャリア形成をしてきた。
30代前半で結婚の機会はあったが、それに本腰を入れる気には到底なれなかったという。

「当時の彼とは3年ほど付き合い、お互いの親にも紹介してました。でも私は毎日仕事で必死。いま振り返れば、仕事で評価されることが自己肯定感につながっていたので、彼から結婚の話をされてもその話から逃げていました。

それに、周囲の女友達からは結婚して子供を産んだことで『仕事が思うようにできない』という声もよく聞いて……。
そうこうしているうちに彼氏から『他に好きな子ができた』と言われ、私も愛想が尽きていたので別れました」

そもそも、結婚に憧れを抱きづらい環境で育ったと川田さんは話す。

「小さい頃から母親に『絵を描くのが好きで美大に行きたかったけど、結婚を選んだ』と聞かされていて、『結婚で好きなことを諦める女の人にはなりたくない』と思っていました。

それに、小学生時代にいじめられた経験から自分に対する強いコンプレックスを持ち、『自分の遺伝子を残したくない』という思いもありましたし、もちろん子供も苦手でした。

でも不思議なことに、昨年、子宮摘出の手術をして妊娠ができなくなった途端に、『子供って可愛いな』と思えるようになったんです。だからと言って、いまさらどうにもできませんが……。
今はとにかく、老人ホーム入居用の貯金をコツコツ貯めて、老後に備えています」

川田さんは「こんなこと言うと批判されそうだけど……」と、政府に対しこんな不満も訴える。

「子育て支援ももちろん大事だけど、配偶者控除や扶養控除などの税金の各種待遇がない独身者にとっては、じわじわと迫りくる負担が多いんです。政府は独身者に対して冷たいと感じます」

「3年付き合って結婚しない人とは今後もしない」

近藤さん(仮名・48歳)は、20代の頃から常に「結婚して子供を産まないとダメな人間なんだ」という強迫観念にも似た感情に苛まれていた。しかし、“出産のタイムリミット”を過ぎて、結婚への焦りの気持ちが失せた。

「20代の頃は3年付き合った彼氏もいたし、30代では結婚相談所で10人以上の男性と会いました。
結婚には強烈な憧れと焦りがあったんですが、自分から積極的にアプローチしたくなる方もいないし、男性から熱烈なアタックを受けることもなく、焦りは増すばかりでした。
それが44歳で『これから子供をつくるのは難しいだろうな』と思った瞬間に、『私がとらわれていた“結婚して子供がいないとダメ人間”というレッテルは、ただの世間体だったんじゃないかな』と思って、婚活はパタッと止めました」

それからは「もう自分の好きなように生きよう」と決意した近藤さんだが、自身の後悔からか、結婚を望む若い女性にこう警鐘を鳴らす。

「結婚については女性が受け身になりがちだけど、妊娠と出産を考えたら受け身でいる場合じゃないですよ。
20代で彼氏と付き合っていた時、私は『3年も付き合っているんだから、結婚は大丈夫だ』と思ってけど、あっさり浮気されて別れました……。
長く付き合ったからって結婚の可能性は高まらないし、むしろ2年以上は惰性。
今の若い子に言いたのは、交際1年でその人との相性を見定めて残りの半年は結婚への準備期間にするべし。
3年も付き合って結婚しない人とは今後もすることはないって(笑)」

「お婿さんをもらって」と母からのお願い

家庭の事情が重くのしかかったというのは、医療系メーカーで働き、現在母親と二人暮らしだという佐藤さん(仮名・46歳)だ。

「私が4歳の頃に父が亡くなって、それ以降は母と二人暮らしです。
母は厳しい人で、学生時代は門限があって夜遊びすることはなく、恋愛経験も乏しかったんです。社会人になって初めて恋人ができましたが、それもあまり長くは続きませんでした。

26歳のときの会社の飲み会で、好意を持ってくれた男性から『俺たち、付き合う?』と言ってもらったんですが、その男性が一人息子だということで赤面しながら断りました。
というのも、幼い頃から母に『あなたがお婿さんをもらってこの名字を継ぐのよ』と言われ続けてきたもので……。
30代からは胃がんを患った母の看病や仕事の転職もあって、恋愛どころではありませんでした」

今では75歳の母親が「生きる支え」だという佐藤さん。「いずれ結婚するものだと思っていたけど、それは相手あってのもの。いつ、誰と結婚するという意思をもっと強く持っていればよかった」と寂しく笑う。
今は母親からの「子供はもう無理だろうから、パートナーは見つけたら?」という言葉も重くのしかかっているという。

未婚の女性たちの誰しもが、「結婚する必要性がない」との考えのもと、進んで結婚をしない道を選んだわけではない。キャリア形成、恋愛の挫折、家庭環境……様々なハードルが彼女たちの前に立ちはだかる。“結婚して当たり前”という感覚は、もはや過去の遺物なのだ。
それを“金配り”だけで解決しようとする政府は、あまりに安直すぎるのでは。

<集英社オンライン>
〈40代女性たちが非婚を貫く理由、結婚できなかったワケ〉「結婚するなら別居婚がベスト」「母に婿をもらうように言われ…」異次元の少子化対策程度で私たちが結婚すると思うな!

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