景気の先行きも心配だし、マスク生活やレジャー自粛も息が詰まる。でも「幸せ」か、と聞かれれば悪くない毎日かも──。野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」では、1997年から3年ごとに日本の消費者のトレンドを追いかけているが、直近の調査では、景況感が悲観に振れたにもかかわらず、「幸福度」や「生活満足度」は伸びている。
時系列の大規模アンケート調査をベースにまとめた『日本の消費者はどう変わったか』を上梓した筆者が、コロナ禍の中でもしなやかに順応しながら、穏やかで控えめな「幸せ」を見つけている、現代日本の消費者の意識・行動や、今求められるマーケティングの方向性を解説する。
日本の人口は減少しているのに、世帯数は増加
この一見矛盾とも思える奇妙な現象は、事実である。そしてこの現象は、今の日本で加速している。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、2010年の総世帯数は5184万世帯だったのが、2015年では5333万世帯になった。そして2018年時点で同研究所が実施した将来予測では、2020年では5411万世帯に増える見込みであった。
しかし、2020年に実施された国勢調査の結果では総世帯数は5572万世帯となり、予測値を大きく超えた。世帯数が大きく増加したのは、とくに「単身世帯」が増えていることが影響している。
単身世帯は国勢調査の5年おきの調査年ごとに150万~200万前後のペースで増加し続けてきた。同研究所の2018年時点予測では、単身世帯は2030年頃までにさらに増加する見込みとなっており、2040年頃には単身世帯割合は4割程度にまでいくと推計されていたが、足元の2020年実績値においてすでに38%になっていることを踏まえると、いかに日本の単身世帯が増えてきているかがわかるだろう。
単身世帯の増加には、男女とも平均寿命が増加し、夫婦どちらかと死別したことによる高齢単身世帯の増加も多分に含まれるが、晩婚化・非婚化も単身世帯増加の大きな要因である。
国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集」にある生涯未婚率(一般的には50歳における未婚率で定義される)の推移を確認すると、先に男性側において1990年前後より生涯未婚率が急上昇していたが、女性では遅れて2010年頃から急上昇を始めた。
女性ではキャリアを重視し、あえて結婚を選ばない人も
2010年以降に女性側で生涯未婚率が急上昇した背景には、この2010年が1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、25年弱が経過したタイミングであり、ちょうど1986年頃に大学・大学院を卒業したバブル世代の女性が2010年で50歳前後を迎えることが影響していると考えられる。
つまり、仕事において女性が活躍する場が増え、結婚して家庭に入る以外の選択肢ができたことが、晩婚化・非婚化のきっかけになっていると考えられる。
ひと昔前の日本は、女性にとって結婚していないと生きにくい時代であった。収入面ではもちろんのこと、同じ仕事でも発言力の面でも男性優位の時代が長くあり、キャリア形成がしにくい状況であった。「結婚することで幸せになる」ことがよいとされていたが、その裏には「結婚することで不幸せ(生きにくさ)から逃れる」という心理が働いていたと考えられる。
令和のいま、結婚していないと女性が生きにくいという考えは時代遅れで古く、性別に関係なくビジネスの場でも家庭でも、自分らしく行動することが尊重されつつある。女性が社会で活躍し、バリバリ稼ぎ、自分の好きなことや没頭したいことを堂々と行う。それが認められるようになり、キャリアウーマンが増えている。
自分で自分を守れるようになり、結婚しなくても十分に生きていける力を身につけたからこそ、結婚しないという選択肢が選べるようになった。だから「あえて」結婚を選ばない人が増えたことが影響している。
「結婚こそが女性の幸せ」
このような言葉を一度は聞いたことがあるとは思うが、本当なのか。
野村総合研究所(NRI)が3年に1度、全国の1万人に対して実施している「生活者1万人アンケート調査」(2021年が直近の調査)では、幸福度として「非常に幸福」を10点、「非常に不幸」を0点としたときの11段階で調査しており、既婚者・未婚者における幸福度の比較を行った。
たとえば女性40代では幸福度は2021年調査では既婚者で7.4、未婚者で6.5となっており、確かに既婚者のほうが幸福度は高い。女性の30代や50代でも同様の傾向を示しており、既婚者・未婚者間ではやはり既婚者のほうが幸せに感じる傾向が強そうだ。
ただし、女性40代未婚者の幸福度平均値は、2009年では6.1だったものが2018年では6.3、2021年では6.5に上がっており、未婚者側の幸福度上昇は高い。女性の30代や50代でも同様の傾向を示している。あえて結婚を選択しない人が増えていることが、未婚者側の幸福度上昇にもつながっていると考えられる。
日本の「標準世帯」の概念が変わる
「生活者1万人アンケート調査」で調査している家族観に関する項目の1つに、「できることならば結婚したほうがよい」がある。この項目について2015年以降の直近6年間の変化を見ると、男女とも結婚したほうがよいとする価値観から脱却する傾向を見せていた。とくに女性においてはその傾向が強い。
2018年調査では40代までを中心に、結婚したほうがよいとする価値観が大きく減少していたが、2021年調査では60代まで含めて結婚したほうがよいとする価値観は減少しており、全世代において多様な生き方を尊重する価値観が増している。
結婚するのが当たり前、という従来の家族観について、自分たち親世帯の見方が変わってくることで、ますます子ども自身の結婚観にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。結婚を選ばない人が増えることによるマイナス影響は国としては大きいが、不可逆的な変化として今後も浸透していくことが想定される。
そして従来、日本の「標準世帯」とは、「夫が働いて収入を得、妻が専業主婦、かつ子どもが2人いる」といったモデルケースが想定されているのだが、こうした夫婦と子世帯のほうがマイナーな世帯となっていくのだろう。
<東洋経済ONLINE>
「増える独身」と「4割に迫る単身世帯」の実情とは