親と子が同じ家に住みながらも、互いの生活や価値観のズレから関係が悪化してしまうケースは少なくありません。特に、成人後も実家に暮らし続ける“実家暮らしの中高年層”と、定年や年金生活を目前にした親世代のあいだでは、「お金の使い方」「生活態度」「家の継承」に関する認識のズレが顕著に表れます。いざ「出て行ってくれ」と親が切り出したとき、すでに家族の間には埋めがたい溝が生まれていることもあるのです。
「助け合えている」つもりでいたが…
「まさか親に“家を出ろ”と言われるとは思いませんでした。僕としては普通に生活していただけなんですけどね」
そう語るのは、都内のIT企業に勤める会社員・森田祐介さん(仮名・37歳)。実家暮らしを続けており、月収は33万円。貯金も1,000万円近くあり、経済的には「自立しているつもり」でした。
「家にお金を入れていなかったわけではないです。月5万円くらい渡していましたし、親と顔を合わせれば普通に会話もしていました。そんなにギスギスしているつもりはなかったんです」
ところが今年、定年退職を控えた64歳の父・修一さん(仮名)から「そろそろ出て行ってほしい」と告げられたのです。
「正直、ここまで長く一緒に暮らすとは思っていませんでした。気づけば私ももう64歳。年金生活が目前に迫っていて、持ち家の管理も大変になってきたんです」
父・修一さんは、勤め上げた中堅メーカーをこの春に退職予定。年金は月額12万円前後になると見込まれています。
「固定資産税も光熱費も年々上がっていて、家計的にしんどいんです。それなのに息子は“住まわせてもらっている”というより、“当然”みたいな顔で…これ以上は無理だなと思いました」
何より父がつらかったのは、息子が将来の話を一切しなかったこと。結婚も独立も考えていない様子に、将来的に家が「負担」になるという不安も募っていったといいます。
特に都市部では家賃負担の大きさや親の高齢化を理由に、実家暮らしを選ぶ中高年も増加傾向にあります。一方で、住宅ローンの返済が続く家庭や、年金生活に入る親世代にとっては、「光熱費・水道代の増加」「介護・看取りに至る家の将来設計の不透明さ」がストレスになることも少なくありません。
同居が「助け合い」から「依存関係」へと変化してしまうと、家族内に“口にできない疲弊”が蓄積されていくのです。
1人暮らしを始め、気づいたこと
祐介さんはその後、実家を出てワンルームマンションで1人暮らしを始めました。最初は「急に放り出された」と感じたものの、日々の生活を通じて気づくことも多かったといいます。
「親が今までどれだけ自分を支えてくれていたか、ようやく実感しました。家にいた頃は、家事も食事も“あって当然”だった。今思えば、自分は“自立”できているつもりで、全然できていなかったんですよね」
修一さんとは、今でも週に1度は連絡を取るそうです。ただ、実家に戻るつもりはもうないとのこと。
「“家にいちゃダメですか?”と、反論したことすら恥ずかしくなります。でも、あの一言がなければ、ずっと気づかずにいたかもしれません」
家を維持しながら生活していくには、相応の費用と体力が必要です。子どもが実家に住み続けることで助かる部分がある一方、老後の計画や住み替えを検討する親世代にとっては“足かせ”となることもあります。
互いの生活設計を定期的に見直し、「いつか話そう」ではなく「今、話す」ことが、家族関係を壊さないための第一歩になるのかもしれません。
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「家にいちゃダメですか?」月収33万円・貯金1,000万円の独身息子。64歳の父に突きつけられた“退去通告”の理由