非婚化や出生率低下は労働・医療・福祉にも深刻な影響を及ぼす大問題ではあるが、これらに苦しむ先進国では有効な対策が取れていないようだ。
このまま移民排斥と外国人敵視を続ければ、アメリカも遠からず人口減と超高齢化の悪夢に襲われる──。そんな不安を抱かせる数字がある。直近のデータで、アメリカ人女性の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子の数)が1.7という歴史的な低水準に落ち込み、一国の現在の人口水準の維持に必要とされる「人口置換水準」の2.1を大幅に下回ったのだ。
アメリカだけではない。世界の先進国では軒並み出生率と婚姻数が低下し、単身世帯が増えている。もちろん多くの国がさまざまな出産奨励策を打ち出しているが、そもそも他者との関係を嫌い、単身生活を好む若者が増えている。アメリカでも2023年には単身世帯数が史上最多の3810万に達した。
ピュー・リサーチセンターの調査によると、23年には成人の42%が独身だった。24年には単身世帯数が3850万に増え、全米世帯の29%を占めたという(ちなみに半世紀前の1974年には19%だった)。
独身でいることを選ぶ人が急激に増えたのはなぜか。あえてシンプルに言えば、若い世代にとっては「独身生活のほうが楽だし、魅力的でもあるからだ」と、マンハッタン研究所で家族問題を研究するロバート・バーブルッゲンは言う。
バーブルッゲンによると、この文化的な変化は選択肢の拡大が招いた結果だ。70年代後半から90年代に生まれたミレニアル世代や90年代半ば以降に生まれたZ世代は、あらかじめ定められた道ではなく、自分で選んだ道を歩むことを好む傾向にある。出生率の低下はいわゆる「恋愛不況」の一症状で、その結果が独身者の激増ということになる。
なぜ独身のままでいるのか。その主な理由の1つは、今は「おひとりさま」が魅力的に見えるという事実だ。独身ならいつまでも若くて気楽に生きられると信じ、結婚や子育てのためにそれを手放す理由はないと考える人が増えた。だから「初婚年齢は上がる。しかも今の文化は独身生活を美化しているから、ずっと独身でいても変な目で見られない」とバーブルッゲンは指摘する。
ミレニアル世代はテレビドラマを通じて、独身なら今の世界で自由を謳歌できるという夢を見た。女性は『セックス・アンド・ザ・シティ』の主人公キャリーのように自立した人物に憧れ、男性は『フレンズ』で身持ちの堅いロスよりも女好きの遊び人ジョーイに共感した。
昔の女性は収入と安定を男性に依存していたから、結婚は一種の保険だった。しかし今どきの女性は自ら道を切り開き、自立している。
「昔に比べると、今の女性は一人でも十分に経済的な安定を得られる」とバーブルッゲンは言う。仮に結婚しても、女性にもまともな仕事があるなら出産・子育ての優先順位は下がる。「生活水準の向上と技術革新で独身生活の魅力が以前よりも上がった。自分より稼ぎが悪く、まして失業しかねないタイプの男と結婚しようとは、今の女性は思わない」
ちなみにアメリカでは、貧困層や労働者階級の男性が結婚できる確率はどの人口集団よりも低く、生涯独身の確率は最も高いことが数々の調査で明らかになっている。
人と対面する機会が減った
なぜ今の人は独身でいたがるのか。技術革新が進みSNSが普及したおかげで、私たちはまさに「指先から広がる世界」を楽しんでいるが、結果としてリアルな世界から遠ざかっているのかもしれない。そのせいでリアルな交際を苦手とする人が増えているというのは、多くの研究者が指摘するところだ。
バーブルッゲンに言わせると、今は「付き合い」の概念が変わってしまい、それで「若者の社会生活が壊され」ている。家から一歩も出なくても簡単に人とつながれる。愛のメッセージもクリック一つで送れる。そういう時代だ。
「その最も顕著な例が、いわゆる『出会い系』の市場だ。今は多くの人がオンラインで出会う。そのほうが選択肢が広がり、より良い相手が見つかると思ってしまう。でも選択肢が多すぎると、かえって引いてしまうこともある。そうすると人間関係を築きにくくなる」。バーブルッゲンは本誌にそう語った。
<★Newsweek>
「結婚は人生の終着点」…欧米にも広がる非婚化の波、独身を選択した世界の若者は何を思う