親と同居の独身者

いい年になっても実家を出ず親と暮らす男女を「子ども部屋おじさん・子ども部屋おばさん」、略して「こどおじ」「こどおば」などと否定的にとらえる風潮がある。特に男性は婚活市場ではシビアに見られるという。だが、結婚相談所の運営者に話を聞くと、違った現実が見えてきた。

食事も洗濯も母親がやってくれる

東京23区の東部で実家暮らしをする大手企業勤めの長浜健太さん(41)は、今まで実家を出たことがない。家事はずっと親任せで、食事も洗濯も母親がやってくれる。
「僕は典型的な『子ども部屋おじさん』なんでしょうね。結婚をしたいとは思っていて、何年か前までは親や友達から『結婚を考えるなら一度家を出て自活しろ』なんて言われましたが、今は誰もなにもいわなくなりました」

そう自嘲気味に笑いつつ、こうも繰り返した。
「恋人ができたら出たいと思うのかもしれませんが…。結局、生活が成り立っているので、実家を出る理由がなにもないんですよ」

家賃や光熱費が無駄、結婚資金も溜まる

中小企業で経理を担当する市原舞子さん(37歳=仮名)は都内の下町で一人暮らしをしていたが、昨年4月、埼玉県東部の、両親が暮らす実家に出戻った。

30歳くらいで結婚したいと考えていたが縁がなく、最近は独身の女性の友達との外食や旅行にお金をかけている。
婚活は続けるが、遊びもしたい。

「家賃や光熱費にかかるお金が無駄だと感じ始めて。実家なら旅行もしつつ、結婚資金も貯まりますよね。この年になると親ももう『早く結婚しろ』なんて言いませんし、その親だって年をとりますし、選択としてありだと思いました」

家に毎月、お金を入れて、仕事が忙しくないときは家事や買い物なども分担する。「こどおじ・こどおば」という言葉や世間の視線は理解している。

「でも…住まいが実家というだけでダメ出しされるなら、そこまでの関係なんじゃないのかな」
あくまで自然体だ。

婚活では「不利」?

2人のように、個人の選択として親との同居を選ぶ人もいる。
事情はどうあれ、いわゆる「こどおじ」「こどおば」は、婚活の世界では不利とされるが、実際はどうなのか。

「実家暮らしを否定的に見る人が多いのは事実です。プロフィールに『親と同居』と書かれているだけで、NGを出す会員様も少なくありません」と話すのは大阪の結婚相談所「町のブライダルミューナ」を運営する町優香さんだ。

自分が実家暮らしでも

不思議なことに、自分が実家暮らしで家事などを親任せにしている当事者なのに、「親と同居」の異性をNG扱いする人もいるのだという。

だが、町さんは、「子ども部屋~」とレッテル張りする風潮には懐疑的だ。仲人として見る現実とは、「乖離がある」と話す。

「親と暮らしているから、その方がダメな人ということはまったくありません。実際、弊社の会員様でも、親と同居の会員様は成婚まで時間がかかる印象はありますが、一人暮らしの方と比べて成婚率に特に差はありません。なかなか相手が見つからなかった40代の男性で、思い切って一人暮らしを始めたら、すぐに成婚に至ったというプラスに働いた事例もありますが、テレビ番組などで『残念な人』扱いをされたり、面白おかしく取り上げられたりして、『何か問題がある』というイメージが膨らみ過ぎているように感じます」

会員には男女問わず、安定した収入があり、家にお金を入れて、家事もこなすなど親を支えつつ自立した形で共同生活を送っている人もいれば、親に甘えっぱなしの人もいる。

一人暮らしでも家事がほとんどできず、掃除もしないから部屋が荒れ放題という人もいた。形態は人それぞれだ。

根拠のない不安に苛まれている

町さんによると、会員の中で「親と同居」に偏見を持ったり一方的にNGを出したりする人には、ある共通項があるという。それは心の内にある「根拠のない不安」、しかも、とても強固な不安だ。

例えば、親と同居の人イコール、

▽自立していない
▽家事ができない
▽結婚したら相手の親と住まないといけない
▽収入が低いから家を出られない人。収入を頼られる

などといった事実かどうかもわからない不安を、その人がどうなのか確認もしない前に一方的に抱えてしまう。

漠然とした将来への不安

また、実家暮らしの人も、
経済面などで漠然とした将来への不安を抱え、家を出ようとしないケースが目立つという。

こんな事例もあった。

「周囲からそう言われた」

1年近くかけて成婚した、親と同居の30代後半の男女のケース。2人とも安定した仕事で年収もしっかりしており、貯蓄額も同年代の中ではかなり多かった。性格も合っている。

それなのに双方とも、「自分の収入では夫婦はやっていけない」と不安を感じてしまい、相手を気に入っているのに一歩を踏み出そうとしなかった。

その根拠を聞くと、「周囲からそう言われた」程度のものだった。ずっと実家暮らしだったため、家を出ると生活費がどの程度必要なのかなどの具体的なイメージができず、不安から抜け出せずにいた。

町さんら仲人は、世間の夫婦と比較しても、お金の問題は何もないことを繰り返していねいに話した。最後は貯蓄額を細かい数時まで伝えて、やっと安心して結婚を決めてくれたのだという。今は幸せに夫婦生活を送っている。

親と同居の「メリット」

「いかに不安を取り除いて、ただの思い込みだったんだと気付いてもらえるか。自分の思い込みを『絶対に正しい』と信じ切っている方もいますから、お見合いを重ねたり、外に出て人とのコミュニケーションを増やしたりして、いい方向に変えてほしいと強く思います」

町さんが「子ども部屋~」に先入観がないのは、町さん自身、結婚した28歳まで親と同居していた当人だからでもある。お金が貯まり、仕事の勉強などへの自己投資もできて、同居がプラスになったと今でも思う。夫も親と同居していて、家にお金を入れるなど負担を分担していたので、結婚時の貯蓄額は「とても少なかった」が、夫婦には笑い話だ。

そんな経験と思いがあるから、町さんは会員に、親と同居している人の良い点や同居のメリットもちゃんと伝えているという。

「結局は、一人暮らしか親と同居かは関係なく、その人次第だと感じています。パートナーと協調できるか。自分と違う部分を受け入れようとするか。自分に足りない部分があるなら、それを埋めるための努力ができるか。相手に求めるばかりでは、なかなか成婚にはいたらないと思います」

子ども部屋おじさん・おばさんのレッテルは、その人の本質や実際を覆い隠してしまう、負の側面もあるということだ。

<AERA DIDITAL>
子ども部屋おじさん・おばさんは婚活で「不利」の大誤解 当事者もハマる「根拠のない不安」の正体

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