中国の一人暮らし経済

人口抑制政策などの影響により少子化が進んでいる中国ですが、近年では結婚率も低下し独身者が増加しています。人口減少に拍車がかかる一方、このような状況によって生まれた新たな消費スタイルが「一人暮らし経済」として発展しています。本記事では、この「一人暮らし経済」において人々の間にどのようなニーズが存在するのか調査しました。

増加する独身者とその食生活の傾向

《中国人口・就業統計年鑑2023》によると、中国における独身者はすでに2.4万人に達しており、今後さらに増加していくことが予想されています。艾媒咨詢による《中国独身経済市場発展状況とユーザー行動調査データ》(以下《独身経済データ》)では、独身者増加による一人暮らし経済の発展要因が、「個人主義の価値観の流行」・「伝統的な結婚に対する態度の変化」・「社会観念の変化」であると当事者たちが認識していることが示されています。

また同データによると彼らの生活における主な消費分野は、「飲食」が37.48%、「レジャー・娯楽」が35.81%、「生活用品」が35.44%を占めており、またその下には「ファッション・美容」、「自己啓発」が続いています。
独身者の消費の中で最も大きな割合を占める「飲食」の分野において、艾媒咨詢の《2024年中国一人食事経済細分市場及び消費行動研究データ》(以下《一人食データ》)によると、一人で食事をする際の方法として、「自炊」が58.56%を占める一方、「インスタント食品」が53.19%、「デリバリー」が39.77%、「飲食店に行く」が19.13%となりました。以下ではこの3 つの項目の動向を詳しく見ていきます。

健康・手軽さ重視のインスタント食品

一人で食事をすることを指す「一人食」という新たな消費スタイルの誕生によって、インスタント食品市場は急速に発展しています。

艾媒咨詢の《2024-2025 中国インスタント食品市場の発展及び消費能力洞察レポート》によると、2024年には消費者の38.0%が前年よりもインスタント食品の消費額が増加し、また消費者の43.0%が家庭でインスタント食品を利用しているといいます。

《一人食データ》では、消費者がよく利用するインスタント食品として「インスタント麺」(61.51%)、「冷凍食品」(50.16%)、「自熱ごはん/粥/スープ」(49.84%)が挙げられています。生活様式や消費習慣の変化によって、消費者は手軽・便利で健康に良い食品を選ぶようになりました。そのため、鮮度が維持されて賞味期限も長い冷凍食品や、一人前の量かつ種類豊富で手軽な自熱食品(※)が消費者からの人気を得ています。

※自熱食品:コンロや電子レンジでの加熱が不要で、発熱剤などによって加熱できるインスタント食品のこと

デリバリーフード需要上昇でオンラインデリバリー市場も活況

中国インターネット情報センターのデータによると、オンラインデリバリーの利用者は2024年までに5.45億人に達しており、ネットユーザー全体の約5割を占めています。利用者の増加に伴って市場も発展しており、艾媒咨詢のデータによるとオンライン飲食デリバリー市場は、2024年の市場規模が前年同期比7.2%増加の16357億元に達しました。

デリバリーは自炊や冷凍食品と比べて種類や味の選択肢が豊富な点が特徴で、消費者の多様化・個性化したニーズを満たしています。《一人食データ》によると、一人用でデリバリーをする際に選ばれる食品として、「米料理のファストフード」が 54.01%、「麺類」が51.91%、「ハンバーガーセット」が44.73%を占めています。さらにデリバリープラットフォームは独身消費者による分量や味のニーズに合わせ、小分け・少量の料理や多様なセットメニューを展開しています。

飲食店での「一人食」

家で食事を済ませられるインスタント食品やデリバリーの他に、「一人食餐庁(お一人様用レストラン)」で食事をするスタイルも見られます。
《一人食データ》によると、「お一人様用レストラン」を利用する理由としては「相席による悩みがない」(53.51%)、「社交恐怖感が軽減される」(42.98%)があるといい、消費者のプライベートな食事空間へのニーズに起因しています。
小紅書(RED)で「一人食餐庁」と検索すると、「一人焼肉」や「一人火鍋」といった一人食の投稿が多数見られます。

一人暮らしの寂しさを解消してくれる存在も

「お一人様用レストラン」で見られたように、対人関係に恐怖感を持ち他者との交流を避けようとする人が多くいる一方で、人々は同時に一人による孤独感を抱えています。そのため一人暮らし経済では、人間に代わって孤独感を埋めてくれる存在が人気を集めています。以下では、「ペット」と「AI」に焦点を当てて詳しく見ていきます。

ペット人気により市場拡大へ

《2025年中国ペット業界白書》によると2024年、中国におけるペット数は12411万匹となっています。ペット市場規模は3000億元を超えており、その規模は2017年の2倍以上となりました。
《独身経済データ》によると2024年、8割を超える独身者がペットに毎月151-500元を使っているといいます。その内訳は、ペット食品やペット用品、医療やその他サービスなど多岐にわたっています。特にペット食品はペット関連市場の6 割以上を占めており、2024年の市場規模は2272億元となりました。またペット用品市場も 2024年には443.4億元の規模となり、ペット業界の市場は今後もさらに拡大していくことが見込まれています。

《都市独身ペット持ち女性レポート》によると、ペットを飼う未婚女性の61%がコロナ禍からペットを飼い始めたといい、さらに69%が人間に代わってペットが心の支えになると答えていることから、ポストコロナ時代において人々が親密な関係を築ける存在を求めていることがわかります.

AIが結婚相手になる日も近い?

Soul旗下の研究院による《2025年社交傾向レポート》(以下《社交傾向レポート》)では、独身の若者8000人のうち76.8%が「恋愛がしたい」と答えています。一方で実際には結婚率は低下しているのが現状で、その理由の一つとして結婚の際の伝統的習俗である結納金が高額であることが挙げられます。調査によると結納金の全国は数万元から数十万元に上るといい、結婚のために相当な支出が伴うことがわかります。

そこで近年打ち出されているのが、「人形伴侶」というAIのパートナーです。《社交傾向レポート》では、1.1万人のうち37.9%が「AIバーチャルヒューマンに自分の悩みを話したい」と答え、その主な理由は「AIが充分に情緒的価値を与えてくれる」ということが示されています。

またとある調査によれば、AI伴侶の出現によって結婚意識が低下した若者も一定数存在しているといいます。この人形伴侶ロボットは従来の結納金に比べてコストが低く、購入価格に5万円、毎年の維持費等に5000元で済むという製品もあります。

このような背景もあって、共研産業研究院のデータによれば、AI感情パートナー業界市場は2025年から2028年にかけて、その規模が38.66億元から595.06億元にまで成長することが予想されています。
このように技術発展によってAIが人間のパートナーになるという選択肢が生まれつつありますが、一方で倫理的な問題など解決すべき課題も残されています。

まとめ

本記事では「一人暮らし経済」について深掘り調査をしましたが、生活上のさまざまな分野に対して一人暮らしならではのニーズが存在することがわかりました。
食生活においては手軽さや健康意識を重視しつつ、対人を避ける傾向も見られました。しかし、一方で彼らは一人で居るがゆえの孤独を感じており、それに対してペット、さらにはAIによって解決を試みています。
さまざまな市場に新たなニーズをもたらす「一人暮らし経済」に、今後どのようなトレンドが生まれるのかが注目されます。

<マナミナ>
独身者増加の中国で「一人暮らし経済」が成長中

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