「パラサイト・シングルの中高年化」を抱える日本は、20年後、「家族のいない高齢者」の急増という世界で初めての難題に直面することになる。この問題に日本社会はどう向き合えばよいのか。近著『希望格差社会、それから』を上梓した社会学者の山田昌弘氏が解説する。
パラサイト・シングルの中高年化
日本の若年未婚者の多くは「親と同居」している。総務省・統計研究研修所の西文彦氏の集計によると、34歳までの若年親同居未婚者が増えたのは、昭和末期から2000年頃までである。それ以降は、割合としては大きな変化ないが、団塊ジュニア世代が35歳以上になる2010年以降は、若者の絶対数が減少しているので人数的には減っている。
一方、35-44歳の中年親同居未婚者は、右肩上がりに増加している。若年の時に結婚難に直面した団塊ジュニア世代が、親同居したまま歳を重ねていった。その結果、2015年時点で中年親同居未婚者は300万人に上ると推計されている。
そして、西氏の分析によると、親同居未婚者は、既婚者やひとり暮らし未婚者に比べ、無職や非正規雇用が多い。親から独立して1人暮らししたくとも経済的にできないから、親を頼っているとも言える。
さらに、親同居ひとり親世帯も増えている。日本では、若年者は離婚後、男女とも親と同居する割合が高い。消費実態調査を利用した私の集計では、親と同居しているひとり親の収入が相当低くなっている。つまり、パラサイト・シングルならぬパラサイトディボースドとなっている。
また、いわゆる「ひきこもり」も増えている。2019年の内閣府の調査では、中高年(40-64歳)のひきこもりは推計61万人と推計されている。彼らのほとんどは、高齢になった親に扶養されている。もちろん親同居未婚者がすべてひきこもりというわけではないことには留意しなければならないが。
そして、団塊ジュニアが50歳に到達した近年は、50代の親同居未婚者数が急速に増大しており、これが独身者の将来問題に影響を及ぼしている。
独身者の存在が、即社会問題になるわけではない。特に、自ら独身を選び取っている「独身主義者」が問題とされることは少ない。一昔前は、ほとんどの人が結婚している中で、独身を貫くためには、独身でも大丈夫なように、覚悟を持って若い頃から生活設計をしていると考えられたからである。
結婚したくてもできない独身者たち
しかし、現在増えている中年独身者は、結婚したくてもできなかった未婚者と離別者が多数を占めている。1997年の出生動向調査によると、当時の18-34歳(2023年時点で44-60歳)の結婚希望者は、男85.9%、女性89.1%であり、その年代の半数以上はすでに結婚していたので、男性であっても93%以上、女性であれば95%以上の人が既婚、もしくは結婚希望者だったことになる。
結婚を希望しない未婚の若者は、男性でも未婚者の6.3%、女性では4.9%(不詳があるので合計が100%にならない)にすぎなかった。既婚や離死別者を加えた世代全体から見れば、男女とも4%に満たなかったのである。現在の中年未婚者の大多数は、若い頃は結婚を希望していたことになる。
離別に関しても、通常、結婚した時点で将来の離婚を予測するものは少ないので、離別独身者の大多数は、予定外の独身といってよい。死別でも、該当者の配偶者は同年代であった人が大部分であるため、50代までに亡くなったと推定される。平均寿命が男女とも80歳であることを考えると、ほとんどが、結婚した当時には予期せぬ形で独身者となったと推測される。
つまり、50代で配偶者がいない人の大部分は、未婚、離別、死別にかかわらず、いわば「不本意」な独身者ということができよう。この不本意な独身者が増えていることが、さまざまな問題を生み出す背景となっている。
近年日本社会において、独身者の社会問題化の方向は2つある。1つは、「70-40問題」「80-50問題」また「中年ひきこもり」、さらには「子ども部屋おじさん、おばさん」というネーミングまで現れるように、親と同居する中年独身者に焦点を当てたものである。
もう1つは、孤立や貧困という視点から「ひとり暮らし」もしくは「ひとり親」の独身者に焦点を当てるものである。
「70-40問題」とは、70歳前後の親と40歳前後代の独身の子が同居している状況を表した言葉である。「80-50問題」は、「70-40」の10年後、つまり、80歳前後の親と50歳前後の子が同居している状況である。親子の年齢差が平均約30歳なので、このような言い方が一般化した。
先に述べたように、2019年内閣府によって、40-69歳の中高年ひきこもりの人数が61万3000人と推計する調査が公表され、話題になったこともある(中高年ひきこもりと中高年親同居独身者はイコールではないことには留意する必要がある)。
問題が表面化しない深刻な理由
親同居の中年独身者すべてが、今問題を抱えているというわけではない。むしろ、親子共々経済生活上、心理的にも満足しているケースが多いだろう。親が70代、80代くらいであれば、まだ健康であることが多いし、経済的にも資産を形成し、十分な年金に恵まれている世代である。中年の子どもは、部屋を占拠したまま、家賃を払わなくてもよいし母親に食事を作ってもらえている可能性が高いだろう。
親のほうも、子どもが多少なりとも働いている場合、いくばくかのお金を入れてもらえれば家計の足しになる。要支援、要介護の親が1人いても、子どもは介護、支援要員として、賃金を払わずに使うことができる。心理的にも、日本は親子関係が密なので、寂しくはない状態にあるだろう。
もちろん、中高年の独身者とその親の生活状況は多様である。何と言っても、最初に見たとおり、2015年時点で中年親同居未婚者(35-44歳)は、300万人いるのである。子どもが無職、そして、ひきこもりの場合、心理的コミュニケーションの困難もあるかもしれないが、経済生活では完結していることが多い。
というより、完結しているから、親同居が維持されているともいえる(完結しているとは、外からの援助の必要なく生活しているという意味である)。そして、完結しているからこそ、喫緊の課題とはならないのである。
問題は、将来、特に親の介護状況が深刻化したり、親が亡くなった後の経済的困窮、心理的孤立したりすることが、今後の社会問題として浮上することだ。20年後には、現在の70代、80代の親世代はほぼ亡くなり、独身の高齢となった60代、70代の子どもが残されるわけである。
親の年金は引き継げないし、親が建てた家、買ったマンションも老朽化が進んでいるだろう。自分の年金が十分ある正規雇用者であった独身者なら大丈夫だが、収入が少なかったり、ひきこもりであったりする独身者は、経済的に自立することが困難な状況に直面するはずである。
現在であっても、家族がいない高齢者をどのように処遇するか、問題になっている。そのような高齢者が大量、何百万人レベルとなる20年後、どのような状況になるのか、誰もわからない。なぜなら、世界的に前例がないからである。
ひとり暮らし独身者と孤立予備軍
もう1つの独身者の社会問題化の方向は、主に単身者に焦点を当て、その脆弱な経済基盤と社会的孤立を問題視するものである。
戦前には「単身者」が問題とされたし、近年は「ひとり親女性」の貧困状態が問題にされた。ただ、戦前は都会に出てきたひとり暮らしの若者、ひとり親の問題化に関しては、主に未成年の子どもを育てている母親に関しての問題化であって、多くの子どもが成人に達している50代が注目される事は少なかった。
しかし、近年は、中年独身者が増えるにつれ、ひとり暮らし独身者の孤立が問題となっている。私が行った50代独身者調査(未婚、離死別、親同居、ひとり暮らしなどを含む)でも独居の中年独身者の孤立が際立っている。特に、女性より男性の孤立度は深い。「普段のできごとをよく話す相手」として、男性未婚でひとり暮らしの人は半数以上がいないと答えている。
石田光規・早稲田大学教授の調査でも、男性単身者の多くは、普段外に出ず、テレビばかりみているという結果になっている(石田光規『孤立の社会学』 2011年)。そして、親と同居している独身者の多くが、話し相手として両親を挙げている。では、両親が亡くなった後、孤立に陥らないという保証はない。
大量の親同居中年独身者が、生活上、心理的に困難な状況に直面していることを述べてきたが、経済的に生活できる人であっても、また、現在、親と同居している独身者であっても、将来の「孤立」の問題に直面する。
NHKスペシャルで「無縁社会」が放送されたのが2010年であった。無縁死3万2000人の衝撃という副題がついた番組は話題を呼び、その年の流行語大賞も受賞している。
無縁死、孤独死などと呼ばれるが、定義はさまざまで、病院で亡くなっても遺体の引き取り手がいないというケースから、たとえ家族が他の場所に住んでいても、誰にも知られずに自宅で亡くなるというケースまで含まれる。亡くなる時にそばに誰もいない、もしくは、亡くなった後死者の「世話」をする人がいないことである。
当時の年間死亡数は約120万人、うち3万2000人は、約3%弱にあたる。これは、1930年生まれの人(2010年当時は80歳)の生涯未婚率(男性2.6%、女性4.4%)に相当する。生涯未婚が孤立死に即直結するわけではない。この世代は、きょうだいが平均4人いるので、本人が未婚でも甥や姪がいるケースが多い。ただ、甥や姪に頼ることができにくくなっている社会になったことは確かだ。
一方、結婚した人であっても、離別したり、子どもがいても仲が悪かったりするために孤立死に陥る可能性もある。その影響がオフセットされた数字かもしれない。その率を単純に近年の生涯未婚率(約25%)に当てはめると、2050年ごろには、孤立死が年間40万人に達する計算になる。
家族がいないことを前提とした仕組みを
それゆえ、将来孤独死するかもしれないという不安を持つ独身者が増えていくことは確実である。戦後日本社会は、すべての人に家族が存在している(子どもの時は両親、成人期は配偶者、高齢期は子)ことを前提に組み立てられていた。
それゆえ、独身者は一時的な若者問題、もしくは例外として扱われてきたので、家族がいなくて孤立する中高年を制度的に扱う枠組みが存在していない。しかし、ここまで孤独死が増える見込みだと、家族がいないことを前提とした仕組みを考えなくてはならない時期に来ている。
2021年、日本政府もイギリスに倣って内閣府に「孤独・孤立対策担当室、担当大臣」を作ったが、どのような対策が打たれていくのか、まだ明確ではない。少なくとも、家族から孤立した人をどのように処遇するかが、今後の日本の大きな社会問題になっていくことは間違いない。
(構成:中島はるな)
<東洋経済ONLINE>
「パラサイト・シングル中高年化」の先に待つ難題