日本では、パラサイト・シングル=親と同居する未婚者が増えている。その背景には「困窮する若者を支えるのは親」という社会通念があり、これが若者の格差拡大につながってしまう恐れがあるのだとか。若者が親元を離れて自立し、恋愛や結婚と現実的に向き合うための支援のあり方を探る。※本稿は、牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
日本だけではなく米や韓国でも親と同居する若者が増加
親と同居する未婚者を、中央大学の山田昌弘教授が「パラサイト・シングル」と命名したのは、非正規雇用者の急増が社会問題になる直前の、1997年のことでした。19年の時点で、未婚者(20~50代)全体のおよそ7割を占める彼らは、数にして約1430万人、80年時点の3倍にものぼります。
とくに近年、問題視されているのは、10年に急増した壮年期のパラサイト(おもに団塊ジュニア)です(「マネーポストWEB」小学館、5月26日掲載)。
「パラサイトの根底には、『困窮する若者を支えるのは「家族=親」である』との社会通念が存在する」のだと山田教授。現実にも、非正規ほどパラサイト比率は高く、男性の正規でパラサイト(18~34歳)は6割強ですが、派遣やパート・アルバイト(非正規)では8割弱、同女性でも、正規のパラサイトが7割弱なのに対し、非正規では8割弱にのぼります(「第16回出生動向基本調査」)。
私は04年を皮切りに、企業各社と海外のパラサイト事情の調査を始めたのですが、90年代後半以降、親と同居する若者が増えたのは、日本だけではありませんでした。
たとえばアメリカでは、同時多発テロ(01年)以降、親同居未婚者が増えたことを知りました。従来は大学入学時に入寮し、自宅を出ていくのが一般的だったのに、01年以降は親元に居続けたり、一旦実家を出ても再び戻って来たりする若者、すなわち「Boomerang Generation(ブーメラン世代)」が顕在化していたのです。
またそのころ、同国では「Helicopter parent(ヘリコプターペアレント)」、すなわち高校生以上の子どもに対し、まるでヘリコプターのように周りを旋回しながら干渉を加える親、も話題でした。
07年に、ミシガン州立大学が若者と親の就活事情を調査したところ、子どもの給与を会社と交渉しようとした親が9%いたほか、子どもの就職面接に同席した親も、4%いることが分かったといいます(17年「フォーブス ジャパン」リンクタイズ、9月28日掲載)。
さらに、お隣の国・韓国でも、90年代後半と08、09年にかけて「通貨危機」が起こり、「カンガルー族(日本のパラサイト・シングルとほぼ同義)」という言葉が広がっていました。韓国のニュースチャンネル「YTN」の報道によれば、85年から10年までの25年間で、未婚男女(25歳以上)が親と同居する世帯が約3倍にも増えていたのです(16年2月16日放映)。
経済学には「規模の経済」の概念があります。一般には世帯規模が大きくなるほど、家賃や食費、光熱費などの単位コストが抑えられるので、一人暮らしより複数人の家族で同居するほうが「コスパがいい」、ゆえにバブル崩壊や通貨危機など、不況や不安な社会がパラサイトの追い風になるのは、当然の現象ではあります。
問題視される「格差の継承」「親が支える」意識の落とし穴
半面、近年は豊かな親の子が豊かに、そうでない親の子が貧しくなる「格差の継承」も問題視されています。
「親が支える」を当然とすることが、結果的に若者の格差拡大に繋がる恐れもあるのです。
本来、規模の経済が作用するのは「親子」だけではないはずです。とくに若い段階では、親元を出てひとり立ちする方向、たとえば友人・知人とのシェアハウスや、(未来の)恋人との同棲などにベクトルを向かせる支援を、検討すべきではないでしょうか。
提言:「親が支える=当然」ではない。若者がひとり立ちできる形の支援を
昭和の時代なら、入籍しない異性が共に暮らすことを「はしたない」とみる向きもあったでしょう。ですがいまや、同棲経験をもつ20代後半(25~29歳)の未婚者が、男性で10.9%、女性で12.9%と、1割以上存在します。
フランスやスウェーデンでは婚外子が全体の5割以上に
また、「事実婚や同棲よりも、結婚(法律婚)すべき」かどうか、を問う内閣府の調査でも、20~39歳の女性では「(やや)反対」(25.1%)が「(やや)賛成」(22.9%)を上回る、つまり同棲に肯定的である様子が見てとれます(22年「男女共同参画白書」)。
ご存じの方も多いでしょう。フランスやスウェーデンには、同棲中(予定)のカップルが、入籍カップルとほぼ同等の法的保護(社会保障や財産分与など)を受けられる、お試し婚のようなシステムがあります。フランスでは「PACS(連帯市民協約)」、スウェーデンでは「サムボ」といい、いずれも結婚(入籍)に比べ、関係の成立や解消が簡便なのが特徴です。
両国はキリスト教が基本の国であり、フランスでは「結婚の際に教会での厳粛な挙式を伴う」のが一般的で、離婚時には(双方の合意があっても)「裁判が必至」とされています。
一方、90年代後半(サムボは80年代後半)に新設されたPACSでは、カップル関係の成立と解消が、いずれも裁判所への書類提出だけで済むようになりました。
こうした試みに加え、両国では育児と仕事の両立支援なども功を奏し、いわゆる「婚外子」が、いずれも出生児全体の5~6割にのぼります。
お試し婚システムの効果が日本で限定的と言われるワケ
また、一旦は1.5~1.6台まで低下した出生率も、フランスで1.8、スウェーデンで1.7と大幅に回復、婚外子がわずか2%前後に留まる日本や韓国が依然、少子化に悩むのとは、真逆の動きを見せています(THE WORLD BANK:Fertility rate, total〈births per woman〉2020ほか)。
もっとも、山田教授によれば「日本で似た制度を導入しても、効果は限定的ではないか」とのこと。日本は、婚姻関係の届け出がさほど大変ではないうえ、同棲しながら結婚届を出さずにいると「なぜ結婚しないの?」と周りから聞かれる、そのたびに説明するほうが面倒で、「それなら結婚届を出したほうが楽」だと考える若者も多いのではないかといいます。
一方で、既に1割以上の若者(20代後半)が同棲を経験していることを鑑みれば、結婚後の夫婦だけでなく同棲段階の若者にも、住宅支援などの措置を施すことで、「それなら親元を出て、恋人や(異性の)友人と住んでみようか」と考えるケースも期待できるでしょう。
また、いまや「恋愛対象ではない異性とルームシェアするのは、アリ」との回答が、20代では男女ともに3人に1人以上いますから(17年「Qzoo」モニタス調べ)、長く共に過ごす「単純接触効果(繰り返し接することで、好意度や印象が高まること)」が2人の愛情を育み、やがて結婚へと導く可能性もゼロではありません。
23年に私が取材したケースでも、単純接触効果が結婚に繋がったのではないかと思しき事例がありました。
東京豊島区のシェアハウス「RYOZAN PARK巣鴨」。デザイナーや医師、弁護士、記者、NPOスタッフなど様々な職業の人たちが入居しており、定期的にイベントなど、住民同士の交流も図られています。
12年の開業以来、20~30代を中心に20組のカップルが誕生し、すでに30人の子どもが生まれているそうです。
「(同棲カップルの)なりすまし」など不正利用も懸念されますが、それはまた別の角度から取り締まるべき課題でしょう。幸い、日本では33年、住宅の約3軒に1軒(現在約7軒に1軒)が空き家になると見られます(野村総合研究所予測)。
また、人口減少に悩む自治体は「移住」を希望する夫婦に、既に家賃やリフォーム費用の補助など様々な優遇措置を講じています。これらを、同棲カップルにも適用できないでしょうか。
提言:空き家や移住制度を活用し、同性カップルにも住宅支援策を
<DIAMOND online>
未婚の若者は家を出て同棲すべき?「困窮する子を支えるのは親」という意識に潜む罠