恋愛への意欲や出会いの機会の減少によって、結婚したいのに「できない」男女が増えているというのは、すでに昔の話だ。今も、若い世代で結婚願望がない人が男女ともに増えているが、その中でも注目が高まっているのが、一般的に結婚適齢期と呼ばれる年齢にもかかわらず「あえて結婚しない女性」だ。彼女たちはどういう理由で「あえて結婚しない」選択をしているのだろうか。家族社会学者の山田昌弘氏に話を聞いた。(清談社 須賀小夜子)
「仕事や趣味が充実している」が結婚をしない本当の理由ではない?
平均初婚年齢や生涯未婚率が上昇の一途をたどる現代社会で、男女ともに結婚しない人生を選ぶ人が増えている。
自由な選択が可能な世の中へと変化して久しいが、それでも依然として、結婚適齢期と呼ばれる20代後半~30代の女性が周囲から「結婚しないのか」というプレッシャーを受けていることも事実だ。
都内に住む29歳の会社員女性Kさんは、「自分自身は結婚にあまり興味がないのに、周りから彼氏の有無や結婚の予定など、ぶしつけな質問をされて困惑している」という。
実際に1990年と2020年の国勢調査における未婚率を比較してみると、25歳~29歳の女性の未婚率は40%から65%、30歳~34歳の女性の未婚率は14%から39%と、大幅に上昇していることがわかる(*1)。
(*1)総務省統計局「令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要」
女性が結婚しない理由としてよく挙げられるのは、女性の社会進出やライフスタイルの多様化によって「仕事が充実している」「趣味が充実している」など、結婚以外に熱中する対象があるということだ。あえて結婚しない女性たちの考え方やその背景について、山田氏はどう見ているのだろうか。
「実際のところ、結婚しない理由になるほど仕事が充実している人は少数派でしょう。例えば派遣社員やパートで働いていて、その仕事を続けたいからというのが結婚しない理由にはならないはずです。趣味にしても、男性の場合、結婚して専業主婦の妻や子どもを養うとなると趣味にかけられるお金は減ります。しかし、女性の場合は、結婚によって必ずしも趣味に費やすリソースが減るとは限りません」
そうなると、結婚しない女性が増えていることは、仕事や趣味の充実という観点では説明しきれない。
「結婚しないという意志を貫いている女性というのは今も昔も一定数いますが、それは少数派だと思います。その数が近年になって特に増えているというわけではありません。結婚しない選択をしている女性の大多数は、『適当な相手に巡り会えないから』だと見ています。例えばイケメンで高収入で優しくて家事や育児を手伝ってくれるような“理想的な”男性が現れれば、結婚したいという女性はたくさんいるでしょう」
適当な相手に巡り会えない社会になったワケ
山田氏は、結婚したくない人が増えたというよりも、結婚に適した相手に出会いにくい社会になったことで、結果的に結婚しない選択肢を取る女性が増えていると話す。
では、昔に比べて結婚に適した相手に出会いにくくなっているのは、なぜなのだろうか。
「お見合い結婚が主流だった数十年前は、大半の人が結婚できる時代だったので、当時は結婚できないという悩み自体がほとんどありませんでした。出会いの機会も限られているため、身近な人が素敵に見えやすかったこともあります。しかし、今の時代は、マッチングアプリなどで出会いの機会は豊富になったことに伴い、比較対象も増えています。その結果、次はもっといい人に出会えるかもしれないと思う人が増え、それにより『妥協してまで結婚したくない』という女性が増えたのだと思います」
結婚するかしないかは個人の自由であるはずだが、いまだに日本社会には古くからの価値観が残っており、若い女性が周囲から無用なプレッシャーを受けている。
「より正確に表現するならば、日本社会は『きちんとした相手と結婚する』ことへのプレッシャーが強い社会だと言えます。だから、例えば非正規雇用の男性と結婚しようとすれば、『そんな相手とは結婚するな』というマイナスの意味でのプレッシャーを周囲から与えられることにもなります。しかし、男性間の所得格差が広がっており、世間で言う『結婚に適した男性』の数自体が減っていることも事実としてあります。それゆえに、結婚しにくい社会になっているのではないでしょうか」
2022年の就業構造基本調査によると、正規雇用の男性の所得を比較した場合、既婚男性の25~29歳と55~59歳では、年収中央値が424万円から667万円へと約1.6倍増になっている。これに対し、未婚男性は、同366万円から458万円へと約1.2倍増にとどまっている(*2)。「結婚できないのは非正規雇用で年収が伸びないから」と考えられがちだが、実際はそうではないのだ。
(*2)総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」
一方で、女性が結婚相手に求める年収は500万円以上(*3)。これでは、女性たちが求める「結婚に適した男性」は、物理的に少ないということになる。
(*3)LIMO 女性が男性に求める理想年収は「500万円以上」
結婚しない選択のために若いうちから準備すべきこと
結婚に適した相手に出会いにくくなっている時代ではあるが、そもそも、人は何を求めて結婚するのだろうか。それを考えるためにいま一度、結婚のメリットを整理しておきたい。
「先々の将来を見据えた長期的な視点で言えば、結婚することにはメリットがあります。老後に独身だと寂しい思いをするし、最悪の場合、孤独死に至るリスクもある。一方で、若くて元気な時には、自由に行動できてお金を使える独身であることにメリットがあるので、結婚には短期的なメリットがあまりありません。しかし、若いときに長期的なメリットを得るためだけに行動するわけではないので、短期的なメリットも感じられる相手でなければ結婚する気にはなれません。短期的なメリットというのは、例えば一緒にいて楽しい相手であるということや、今よりも豊かな生活ができるということ。しかし、豊かな生活というメリットを結婚に求めるのは、女性が自分よりも収入が高い独身男性に出会いにくい今の時代、なかなか難しいでしょう」
一方で、女性には出産のタイムリミットというものがある。30代後半に差し掛かりを視野に入れることで、結婚への意識が高まる人もいるのだろうか。
「多少の妥協をしてでも結婚を決める人も出てきます。しかし、その場合も、子どもの父親として一緒に子育てをしていく相手を選ぶわけですから、妥協にも限界がありますよね。今は一人で子どもを産んで育てる女性の生き方が注目されていますが、それもやはり少数派です。夫が無職や暴力男などというような極端なケースを除けば、一般的には父親がいた方がいいケースが多いはずです」
若い時代は独身で気楽に過ごす生活も魅力的だが、老後に一人で生活せざるを得なくなる未来を考えると、いずれは誰もが身の振りを考えなければいけないタイミングを迎えることになる。どんな社会になれば、結婚に適した相手に出会いやすくなるのだろうか。そして、もし結婚せずに生きるという選択をするとしたら、どんなことに気をつけなければいけないのだろうか。
「国が助成金などを充実させて、お金のことを気にせずに相手を選べる環境になれば結婚しやすい社会になると思います。結婚のメリットは、主に老後の孤独に対処するということですから、独身でも友達や仕事に恵まれていれば、必ずしも結婚する必要はありません。社会学者である上野千鶴子さんのベストセラー書籍『おひとりさまの老後』でも書かれていますが、あえて結婚しない人生を選択する人は、老後を見据えた住まいやお金や交友関係など、若いうちから準備を進めておく必要があります」
妊娠出産を望むのは難しいが実はおすすめの「高齢婚」
「妊娠出産を視野に入れないのであれば、そもそも結婚適齢期という考え方に囚われる必要はありません」と山田氏は語る。
50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、1990年以降大幅に上昇している。国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、2020年の生涯未婚率は男性28.5%、女性17.8%にも上る結果となった(*4)。
(*4)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2023)改訂版」
しかし、人生100年時代において、50歳時点での婚姻状況で「生涯未婚」と決めつけてしまうのは、早計かもしれない。若いときには独身で自由な生活を謳歌し、老後に訪れる不安を解消することを考えれば、自然と行き着くのは、結婚適齢期ではなく、50歳など老後を見据えた年齢での結婚だ。
「実は私自身も『高齢婚』を推奨していまして、実際に増えているんですよ。子どもを持つことはできませんが、今はいろいろなつながりを持つことができる時代です。高齢になってから結婚しても、その後の人生を十分に楽しんでいくことができます」
女性が働くことが一般的になり、誰でも結婚・出産を経験するわけではない現代、さまざまな選択肢があってしかるべきだろう。結婚しない女性もいるし、結婚や出産を何歳で経験するかによっても、キャリアを含めた女性の生き方は、大きく変わる。典型的なモデルケースが通用しない社会に突入している今、それぞれが自分の求める幸せを手に入れることができる社会になることを願ってやまない。
<DIAMOND online>
「あえて結婚しない女性」が増えた真の理由、実は「仕事や趣味」のせいではなく…【識者が解説】