東京中年女性の独身感

多様な生き方が見られるようになった現在、「皆婚社会」はすでに過去のものとなった。だが、東京に住むシングルを調査したところ、ひとり暮らしの継続意向については男女で異なる意外な結果が出たという。本稿は宮本みち子・大江守之編著 丸山洋平・松本奈何・酒井計史著『東京ミドル期シングルの衝撃 「ひとり」社会のゆくえ』(東洋経済新報社)を一部抜粋・編集したものです。

経済力ある男性は結婚を意識、女性はひとり暮らしを志向

「あなたは、今後もひとり暮らしを続けたいと思いますか」という問いでひとり暮らし継続意向をみました。図3-17は、年齢とひとり暮らし継続意向の関係を示したものです。

図3-17

男性は「わからない」が最も多く、「続けたい」を大きく上回っています。その比率は40代後半から50 代で最も高くなっています。女性は「続けたい」と「わからない」が拮抗しています。なお、「続けたくない」が男女共に30代後半で最も高いのは、この年齢では結婚の可能性があると感じている人が多いからと思われます。40代では女性は男性より「続けたくない」が低い値を示しています。

全体として、女性のほうがひとり暮らしを続けることを受容する傾向にあります。

図3-18

図3-18は、所得とひとり暮らし継続意向の関係を示したものです。男性のほうが女性より「ひとり暮らしを続けたい」人が少ないことはすでにみた通りですが、この図でみると男性は所得が高いほど「続けたい」の比率は低く、「続けたくない」が高くなっています。男性の結婚可能性が所得と深い関係を有していることは、結婚していない理由として「収入に不安があるから」をあげた人の年収との関係(図3-19)に示されています。

図3-19

経済上の不安が結婚していない理由となっている割合は男女でまったく異なっています。年収300万円未満、300万~500万円未満の男性のそれぞれ約5割、4割は収入の不安ゆえに結婚していないと答えています。一方、女性には、そのような傾向はみられません。ということは、所得の高い男性はこれからでも結婚可能性があると感じているとみることができるでしょう。

女性はどの所得層でも「ひとり暮らしを続けたい」とする比率が男性より高いのですが、その傾向は800万円以上の高所得層で最も顕著です。ということは、男性は経済力があるほど結婚への可能性と期待が高まるのに対して、女性は経済力があるほどひとり暮らしの可能性が高まるといえます。

このように、ひとり暮らし継続意向は男女の間で大きな差があります。女性の場合は30代から40代前半までは「わからない」が多いのですが、その時期を過ぎるとひとり暮らしを続ける意識が固まっていくのでしょう。

しかもこの過程で多くのシングル女性は親やきょうだいとの密接な交流を続けて親密圏を築き、親族関係の点で孤立していません。また、友人・知人との関係も男性に比べて豊かなのです。このようにして、ひとりで暮らすことを支える人間関係を築いていることが、女性のひとり暮らし意向を高めていると思われます。

シングル女性が感じる東京の魅力とリスク

女性たちにとって、東京という自由な環境は魅力的です。地方圏の女性たちが東京に出てきた最大の理由は、自由へのあこがれです。40代後半の女性は次のように語っています。

「東京はひとり暮らしをするにはいいなと思います。実家に隣組というものがあり、葬式などのときに地域の人がご飯を作るなど、手伝ってくれます。そういったつきあいは、家族がいないとできません。実家で独身のままだと他の人から嫌な目でみられるのですが、都会ではそういった煩わしさがないのです」(48歳女性)

また、東京はミドル期の女性がフルタイムで働き自活できるメリットがあります。ただしそれは、結婚しないことと引き換えになっているともいえるのです。しかし、女性の中には年齢とともに収入が減少して生計の不安を抱えた状態に置かれている例もあります。

「東京で、一番長くいた職場は6年くらいです。今、ルームシェアをしていますが、解消してひとり暮らしをしたいので、もうちょっと月収のいいところに移りたいという希望があって、長くいた職場を辞めました。その後、入る会社、入る会社が最低賃金法違反などでやめざるをえない感じでした。今の会社は広告代理店が名目の会社ですが、実態は社長ひとりと自分だけの会社です。いろいろひどい会社を経験してきましたが、今の会社が一番ひどいと感じます。(中略)デザインの技術を持っていても、この年齢だと面接に行くこともできず悩んでいます。

50代になったら、ますますフルタイムで働ける仕事がなくなるのに、身動きがとれない状態で、貯金もできず、前年度の保険料も払えていません」(48歳女性)

ひとり暮らしを続けるか「わからない」女性より男性がそう考える理由

一方、男性は50代まで「わからない」が多く、ひとり暮らしを受け入れるような気配はみえません。「わからない」は所得が高いほど多く、「続けたくない」も女性のように減少しません。

この過程で男性は、女性のように親やきょうだいとの密接な交流を続けている人が少ないことはすでに指摘しました。男性は結婚の可能性を留保したまま、自分自身のライフスタイルの落ち着きどころを時の流れに任せている状態にあります。

また、友人・知人との関係も女性に比べて希薄で仕事中心のライフスタイルを続けている例が多いという特徴がありました。酒井計史は、シングル男性については、性別役割分業に基づいた家族の中での稼得役割中心のライフスタイルに代わるライフスタイルが確立しておらず、パートナーを得て結婚するまでのモラトリアムのまま時間が過ぎている状態にあると表現していますが、本稿の分析結果は、この表現の妥当性を裏打ちするものとなっています。

そのため、法律婚に縛られない共同生活が普及するほどではなく、シングルの多くは、ひとり暮らしを続ける公算が高いといえるでしょう。

無意識的にでも結婚して家庭を持ちたいという願望のあるミドル期シングルの男性の多くが、結婚できない状態にあるのは、結婚が個人の選択に任される時代となっていることに加えて、東京区部の環境がシングル化を助長している面もあるのです。

それはどういうことでしょうか。大都市の環境には、結婚する・しないの自由が許されるメリットがあるとともに、家庭を持てるかどうかは自己責任の問題として放置されてしまう傾向があるからです。

しかも、結婚できるかどうかが男性の経済力と密接に絡んでいて、低所得の男性が結婚しにくいことは前段で指摘した通りです。低所得でもふたりが協力すれば暮らしていけるという展望も自信も持てないのです。男らしさ規範の強さと家族形成を支援する政策や環境の不在の結果といえるのではないでしょうか。

その一方で、50代以後の男性シングルの、「ひとり暮らしを続けたくない」「ひとり暮らしを続けるかどうかはわからない」という回答が多いのは、ひとりで暮らすことを支える人間関係を築くことなくひとり暮らしを続けてきた結果といえなくもありません。

調査によれば、男性の暮らし満足度は女性より約1割低くなっています。女性の所得水準を上回る男性が、暮らし満足度において女性より低いのは、シングルで豊かに暮らすという点で大きな欠落があるからではないでしょうか。

<DIAMOND online>
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