孤独な高齢者

人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「 シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回はシニアの仕事や生活などすべてに関わってくる「身元保証の問題」を解説する。

少子高齢化だけでなく未婚化も加速した結果、身寄りのない独居の高齢者が増えている。 本人が元気なうちはいいが、身寄りがないことで入院や老人ホームへの入居、認知症、死亡などの際に手続きなどが困難になる場合があるという。

2050年には約半数が単独世帯に

2050年には単独世帯が約45%、高齢者の単独世帯も3割近くになり、男性高齢単独世帯の6割は未婚。このような推計が国立社会保障・人口問題研究所から出てきたのは、2024年4月12日のことだ。

年々、少子高齢化が進み、未婚率も上がっている報道は常にされていても、身寄りのない高齢者が今後さらに増えるという生々しい数字に、このテーマに関する報道が相次いだ。

今回は、いつものシニアの転職の話から少し離れるが、私たちが実際に出会う身寄りのない高齢者の実像にも触れながら、増える高齢者の単独世帯の問題について解説する。

高齢単独世帯の男性の6割が未婚、子供がいない

問題点の前に、今回、国立社会保障・人口問題研究所から出てきた情報や、その前後でその他に政府から出てきた情報にはどのようなものかを解説しよう。

2024年4月12日に公表されたのは「日 本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和 6(2024)年推計-」という資料だ。その要旨は以下のようなものだった。

・世帯総数が2030年をピークに減少する
・2050年には単独世帯が44.3%、2,330万世帯になり、平均世帯人員は1.92と2人を割り込む
・高齢世帯数は現在よりも増加する
・2050年の65歳以上の独居率は男性が26.1%、女性が29.3%に増加し、高齢単独世帯に占める未婚者の割合が、男性は59.7%、女性は30.2%に増える

これは単に「独居の高齢者が増える」という話ではない。一人暮らしで離れていても、どこかに子供や孫がいるのではなく「完全に身寄りがいない高齢者が増える」ということだ。

結婚経験があって子供がいない場合もあるが、高齢単独世帯の男性のうち6割は未婚なので、養子縁組でもしていない限りは子供がおらず、自身の兄弟・親戚がいなければまったく身寄りがなくなる。

では、身寄りのない高齢者が増えるとどんな問題が生じるのか。

高齢者が医療・介護で支えられながら生活を継続することに関連して、「自助・互助・共助・公助」という考え方が出てきたが、身寄りがない場合、自分で自分を支える自助では限界を迎えた時、家族による互助を受けられず、同じ互助でも地域の人の助けを借りなければならなくなる。

地域が負担できる力も大きくはないため、必然的に社会 保険などによる共助や、国や自治体の支援である公助の負担割合がさらに大きくなり、若い世代も含めた社会の負担が大きくなってしまう。

このほかにも、身寄りがないことで身元保証が受けられなかったり、認知症になった場合などの財産の管理が難しかったりという問題が生じる。賃貸住宅への入居や入院・手術の際も保証人が立てられず、困る場合も出てくるだろう。

身寄りのない高齢者は不安や困りごとを語らない

身寄りのない高齢者の問題や、高齢者自身が抱える不安や不便さの実態は、なかなか見えず、伝わりづらい。メディアなどを通じて私たちが目にする情報や行政が把握している情報も、表層のみで十分ではない可能性が高い。

なぜなら、元気なうちは身寄りがなくとも不便を感じないし、不便や不安を感じるようになっても自分自身で生活が可能なうちはそれをあまり周囲に伝えず、本人が”隠す”傾向があるためだ。

実際、私が経営するシニアジョブが転職・再就職の支援を提供する高齢者の中にも、身寄りがない方は確実にいる。しかし、まだまだお仕事を続けたい高齢者は元気であるため、身寄りがないことの不安があっても表に出すことはないし、一部の大企業でない限り就職に保証人が必要なこともないため、私たちも身寄りについて掘り下げることはない。

テレビや新聞などのメディアからの「“おひとりさま”のシニアを取材したい」といった取材依頼も、私たちはしばしばいただく。

もちろん、独居や身寄りのない高齢者で、取材を受けてくれる方もいるにはいる。しかし、取材を受けてくれる高齢者は基本的に、身寄りがなくとも現時点で自立した生活ができていて、収入や貯蓄に余裕のある方だ。メディアが「身寄りがないことで不安や、実際の困りごとを抱えた方を取材したい」と希望しても、そうした方はそもそもそうした話をオープンにせず、取材も断る方が多い。

身元保証がないと老人ホームへの入居も困難に

では最後に、身寄りがないことで高齢者が実際に直面する大変な場面にはどのようなものがあるのかと、それを解決するための身元保証のサービスを巡る問題について紹介する。

先にも述べた通り、身寄りがないことは「困った時に助けてもらえない・頼れない」ということだけでなく、保証人を立てられないことで様々な不便が生じる。つまり「何かが起きた時」だけでなく、その前の準備や一時的な対応でも困る場面が出てくる。

例えば、賃貸住宅や老人ホームへの入居や、病院での入院・手術などの場面だ。保証とは本人が支払えなかった債務を支払う責任を他の人に担ってもらうことを言うが、老人ホームなどの場合、支払いだけなく入居者本人が亡くなった際や緊急時の対応を行う目的でも、保証人が必要とされることが多い。

つまり、高齢者本人に判断力や支払い能力があっても、身寄りがなく保証人が立てられないことで、老人ホームへの入居や、病院での入院や手術がスムーズにいかない場合がある。

こうした身寄りのない高齢者を助けるサービスが、身元保証サービスというものだ。若い方でも最近は賃貸住宅への入居で保証人が必要なくなり、保証会社に保証料を払うことが増えているが、それと似たようなものである。

ただし、高齢者向けの身元保証サービスの場合、亡くなった後の手続きや財産の管理なども含むことが多く、複雑だ。いくつもの法律と専門分野に跨る内容のために、監督省庁がなく、弁護士や社会福祉士といった専門職もすべてを一人でカバーできるわけではない。さらに専門職に依頼するとその分、費用が高額になるという問題もある。費用が高額で、医療や介護、財産といった重要な問題にも関与することでトラブルの発生も増えている。

政府も孤独・孤立対策推進本部を立ち上げ、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」の案を出している。しかし、まだ具体的な取り組みは道半ばという状況だ。

現時点で身寄りのない人ができる対策は、高額な身元保証サービスを利用できる資金を蓄え、自身の判断力が衰える前に、将来、身元保証サービスがスムーズに受けられる準備を整えることぐらいしかない。とはいえ、政府の対策も加速しており、自治体独自の取り組みがある場合もあるので、お住まいの自治体に確認してみるのもいいだろう。

<日刊SPA!>
「家を借りられない」「老人ホームにも入れない」身寄りのない“孤独な高齢者”が増加する日本を待ち受ける残酷な未来とは

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