男性の婚期

日本の人口減少問題を科学的に考察するならば、未婚化に関する考察は最優先であることをこれまでのレポートで示してきた。

しかし未婚化というと「女性の問題だろう」と安易に片付けるアンコンシャス・バイアスがいまだに払拭されないという問題がある。

出産を希望する女性が、希望する時期に「希望するような年齢の男性」との出会いを求めていても、男性側が「自分にはまだ先の話」と統計的に見れば「男性の婚期に関する誤解」をもって女性に相対するならば、女性側は望むような相手との結婚を果たしにくくなる。

結果として、婚姻が遅れる、諦める、統計的に見て出生数に対して負の相関を持つ相手を選ばざるを得ない(このことについてはまた別の機会にデータ解説を行いたい)といった人口減につながる状況が生まれるからである。

ここまで読んで「男性の婚期に関する誤解」など、たいしたことはないだろう、と読者の大半は考えるのではないだろうか。
しかし、この感覚こそが日本の未婚化の元凶ともいえるアンコンシャス・バイアスの1つである。

統計的には女性と変わらず高い結婚希望を持ちつつも、2020年の国勢調査の結果では約3割が50歳時未婚となって女性よりもはるかに未婚化が進んでいる日本の男性の未婚化の理由を知るためには必須ともいえる「男性の婚期への国民的誤解」について、2022年婚姻届の全件分析結果をもとに、実態の啓発を行いたい。

1――50歳時未婚割合、男性は28%へ

婚期の話となると女性の話であり、男性はいくつになっても結婚できると誤解している人が少なくない。しかし、統計的にみると女性よりもはるかに多くの男性が結婚に至っていない(図表1)。

2020年の国勢調査の結果からは、50歳時未婚割合(45歳から54歳の婚歴がない人口割合)が男性は28%に達する結果となり、18%の女性よりも10ポイントも高い割合となった。

50歳時未婚の彼らが30歳前後だったおよそ20年前、2002年の社会保障人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」によれば、当時18歳から34歳だった未婚男女の結婚意志は男性87%、女性88%となっており、若い頃の結婚意志に男女差はない。それにも関わらず男性の方が女性よりも結婚希望が叶うことなく50歳を迎えている割合が高いという結果である。

なぜこのような男性の結婚希望がより叶わぬ結果となっているのか、その原因を示唆する統計データを3点、解説したい。

2――男性の結婚は難しくないという社会の誤解

現在の50歳前後の人口(以下、現アラフィフ人口)は1970年前後の出生である。1970年当時の50歳時未婚割合は男性1.7%、女性3.3%で、50歳時に結婚歴がない人口割合は男性で50人に1人、女性で30人に1人程度という、今から考えれば驚異的な成婚可能社会であった。

ゆえに、現アラフィフ人口の親世代は自らの経験に基づいて、結婚しない、できない、といった状況を想起することが困難であり、自らの子ども世代も「いつかは自分のように結婚するだろう」程度に考えても仕方がない時代を生きてきた。

筆者を含めた現アラフィフ人口自身も、親をはじめ周囲から特に結婚をプッシュされなくとも、親のようにいつかは結婚できるだろうと考えていた層が大半だっただろう。彼らが20歳代になった1990年あたりでも、50歳時未婚割合はまだ男性5.6%、女性4.9%であり、中年世代では20人に1人程度しか未婚者がいない社会であった。そのような時代に20歳代であった男女が、30年後の日本においてこれほどまでの高い未婚割合になると予想することは難しかっただろう。

ただ、このような時代背景から「いずれは親世代のように自分も結婚するだろう」と結婚を甘く考えたのは、男女ともに同じであったにもかかわらず、なぜ男性の未婚化の方が進んでいるのだろうか。

現アラフィフ人口が出生したあたりの1970年の人口動態をみると、40歳以上人口と40歳未満の人口割合が3:7と若者が圧倒的に多い社会であった1。その理由は、1970年において45歳以上の人口はすべて成人で第2次世界大戦を経験しているからである。

大きな戦争経験を通じて、日本ではとくに戦地に赴いた男性人口の欠損が発生し、現アラフィフ人口の祖父母世代の結婚では戦争による「女性余り」感覚を引き起こした。また親世代の結婚が多発した1970年代は、雇用機会均等法も育児休業法(現行の育児介護休業法)もなかったので、経済力を握る男性が、必然的に女性を選べる立場にあった。

こうして戦争経験者の祖父母世代、雇用関連法の整備前の親世代の結婚から「男性の方が結婚しやすいだろう」「男性が選ぶ立場にある」というイメージが日本においては長く強く定着してきた歴史があり、いまだにそう思い込んでいる者も少なくない。

しかし、世界大戦後70年以上が経過した今、日本の人口動態から大戦による男性の人口欠損の痕跡は完全に消え去った。ヒトという生物は元来男性の方が5%多く出生するため、60歳代にいたるまで同世代人口においては常に若干の男性余りが発生している2。数で言うならば、女性が選ぶ立場にある。したがって、レッドオーシャンであるはずの男性が、のんびりと構えて選ぶ立場を示してしまうと、早い年齢から引く手あまたにある女性側は、あえてそのような男性を選ばずに選ぶ立場でどんどん成婚していく。大戦がもたらした女性余りの感覚は10年ほど前でも婚活に関する意見で筆者がしばしば耳にしたものであるが、男性の未婚化解消には逆風となる厄介な誤解であった。

1 2020年の国勢調査結果では40歳以上人口と40歳未満の人口割合が6:4。
2 特に医療先進国ほど男性余りのままとなる。

3――男性の結婚適齢期は女性より長いという誤解

2022年に結婚生活を開始した3とみなされた全婚姻のうち、初婚同士の男女の結婚年齢分析を実施した(図表2)。

平均初婚年齢から受けるイメージとは裏腹に、男性について以下のような実態が算出された。

・男性の結婚ピーク年齢 27歳(平均初婚年齢31歳より4歳乖離)
・29歳までの男性の結婚 全体の55% (過半数)
・32歳までの男性の結婚 全体の72%
・34歳までの男性の結婚 全体の80% (5組に4組)
・38歳までの男性の結婚 全体の90%

初婚同士での結婚となった男性の過半数が20歳代の男性であることに驚く読者は多いのではないだろうか。平均初婚年齢の平均を「普通は」と読み替える読者が少なくない。しかし、平均値は異常値に大きく左右される傾向が強い指標である。

つまり、以前は見られなかったような高齢男女の結婚が発生することで、高齢化社会においては平均結婚年齢が大きく引き上げられることになる。

平均値への理解不足で結婚のピーク年齢が上昇したかのような錯覚にとらわれると、30歳を過ぎたあたりで「気が付けば気になっていた相手は既婚ばかり」という状況に男性が陥るリスクが高いことがイメージできる。

32歳で男性成婚者の7割、34歳で8割を占めることから、男性であっても30歳代前半までが結婚しやすい「婚期」であり、30歳代後半ともなると、客観的な水準で相当上位に入るようなハイスペックな条件が必要となる。

「所詮女性はお金だ」という意見が結婚支援現場ではいまだに挙がる4。しかし、それは30歳代後半からの男性に集中する意見ともいえる。つまり、統計的に年齢条件が婚期を過ぎていることを果たしてどれくらいのお金で補填できるのか、という視点が30歳代後半からは必要ということである。しかし、成婚データを見る限り、お金だけでなく、非常に厳しいリカバー条件のクリアが必要となるだろう。

3 婚姻届の提出と結婚生活の開始の双方が2022年内に認められる結婚。
4 筆者は2020年の5月より全国の自治体や民間の結婚支援団体をメンバーとする結婚支援に関するデータ研究会を立ち上げており、現在10の都県から参加がある。

4――男性は高齢でも授かれるから理由の「年の差婚」希望問題

「若い女性でないと子どもを授かりにくい。子どもが欲しいから若い女性がいい」という視点は婚活を行う男性に圧倒的に多い視点である。しかし、そうであるならばなお更、「その若い女性に自分は選ばれる年齢なのか」を考えねばならない。どの男性も同じような理屈で若い女性を希望すればするほど、若い女性は圧倒的な選択権をもつことになる。初婚同士の結婚において女性とどのような年齢差で男性が結婚しているかを分析した結果が以下である(図表3)。

まず、初婚同士の夫婦の年齢差は平均で1.5歳差(夫>妻)まで縮小している。再婚者を含めた総婚姻でも2.1歳にすぎないが、初婚同士となるとより縮小している。こう書くと「それはあくまで平均だから夫が5歳差だって多いはずだ」と年齢差で均等発生的に考える方もいないではない。しかし平均が1.5歳ということは、1.5歳-5歳の「妻が3.5歳上」も多くなければ男性5歳上も多くはならない。実態は図表の通りで、圧倒的に多いのが同年齢婚となっている。5組に1組以上が同年齢であり、2位に夫が1歳上、3位に妻が1歳上となっている。夫婦の年齢差が1歳差までの結婚が47%となっているため、2組に1組は1歳差までの結婚となる。

同年齢婚を最多とし、プラスマイナスで年の差が小さいほど成婚件数が多いという発生状況で、どちらが上でも「3歳差までの結婚が72%を占めている」ため、これを超えるような年の差婚は男女どちらが年上でも少数派であることを確認しておきたい。40歳近い30歳代男性で考えると、若くて30歳代半ばからの女性が年齢的にみて成婚の実現可能性が高い相手となる。

感覚的には「同じ中学校、高校時代を過ごしたであろう相手」が男女ともに選ばれるために無理のない相手である。つまり、自分が高齢であっても若い女性との間に子どもを授かれる可能性は生物学的にあるが、そのような相手に選択される可能性が年齢条件的には極めて厳しいため、機能的な話と社会的な話を混同し、成婚可能性を誤算しないことが重要となる。

ちなみに2022年において30歳で初婚同士の成婚をした男性(1万7104人)のうち、29歳までの女性と成婚したのは1万398人であり、61%に過ぎない。これが29歳男性であれば76%であるので、若い女性と結婚したいなら自分も30歳未満であるうちの結婚を目指すことが大切である。

30歳という「29歳とわずか1歳差」であってもこのような状況であることをあらためて社会に周知しておきたい。

<ニッセイ基礎研究所>
【未婚化社会の背景を探る】「男性の婚期」最新データ解説-50歳時未婚男性割合3割をもたらす婚期の誤解

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