独身中年男性叩き

居場所がなくても幸福と思える生き方とは?2040年には、独身者が「5割」に。だれも見たことのない、超ソロ社会が到来する。ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか?また、親として、人生の先輩として、これからその時代を生きる子どもたちに何を伝えられるのか?ソロ社会及び独身生活社研究の第一人者、荒川和久氏の著作『「居場所がない」人たち』から一部抜粋してお送りします。

おっさんは叩いていいのか?

未婚者の不幸度が高い理由は決して本人たちだけの問題ではなく、環境がそういう空気を醸成している点も見逃してはいけない。

今では随分となくなってきているとは思うが、ほんの数年前までは、いい歳をして独身のままだと「どこか人間的に欠陥があるのではないか」と冷たい視線を向けられたものである。もしかしたら、今でも地方の田舎にはまだその名残りがあるかもしれない。

さらに、未婚や独身という属性に対する攻撃は今でもネット上でよく見られる。「結婚もせず子育てもしないで自由勝手に生きている人間は社会のフリーライダー」的なものである。

皮肉にも、独身人口のボリュームが多くなるにつれ、このような「家族VS独身」の対立構造がより可視化されてきたようにも思う。その顕著な例が「独身中年おじさん叩き」である。

おじさんネタはバズる。

2022年、ネット記事周りのタイトルでは「働かないおじさん」というワードが多用された。50代を過ぎて出世の見込みもないおじさん社員が、仕事もせずにそれでいて高い給料をもらっていることを揶揄する言葉でもある。

おじさんネタ以上にバズる「ネタ」

おじさんネタ以上にバズるのが、独身中年男性ネタである。

婚活ネタの記事でも「40代の中年独身男性が20代の相手を条件として提示し続け、いつまでもマッチングしない」なんて記事を出せば、途端に「身の程知らずだ」「キモい」などと非難のコメントであふれかえる。

特徴的だったのが「子ども部屋おじさん」の話である。

「子ども部屋おじさん」とは、40歳など中年といわれる年齢を過ぎてなお親元に住み続ける未婚男性を揶揄する言葉である。元々ネットスラングとして2014年頃から使われていたのだが、2019年10月のweb『日経ビジネス』において『90万人割れ、出生率減少を加速させる「子ども部屋おじさん」』なる記事が掲載され、バズった。

というより、大いに炎上した。

まるで少子化や未婚化がこの「子ども部屋おじさん」の責任であるかのような誤解を生むタイトルであり、内容だったからだ。

「かつての親に依存するパラサイトシングルやニートと呼ばれる若者が、自立できずにそのまま中高年化しているのだろう」などと思うかもしれないが、事実からすれば、親元未婚比率が増えているわけではない。親元未婚の絶対数が増えているのは単純に未婚者数が増えているからにすぎず、決して親元未婚が増えたから未婚化や少子化が進んだという因果があるわけではない。

また、そもそも論をいえば、結婚もしていない未婚の子が親元に住み続けることは昭和の皆婚時代でも当たり前の話で、進学や就職などで家を出た子以外は結婚というイベントではじめて家を出たのである。結婚していない以上そのまま親元に住み続けることに違和感はない。

さらには、親元に住む未婚者がすべて無業者であるはずもなく、パラサイトでもなければニートでもなく、ましてや引きこもりでもない。

「子ども部屋おじさん」は“生贄”

そもそも中高年で親元に住む未婚者は「おじさん」だけではなく、「おばさん」もいる。その割合が「おじさん」に比べて「おばさん」が圧倒的に低いわけではない。

親元未婚の比率は男女ともほぼすべての年代で同一である。

国勢調査から20ー50代で比較してみても、男の親元未婚率は60%であり、女は62%だ。なんなら女の方が少し多いくらいである。また、2000年と2020年の親元未婚率を比較しても大差はない。

つまり、事実からいえば、わざわざ「子ども部屋おじさん」などという蔑称を使ってまで大手メディアが報道するようなものではないのである。むしろ事実と反する間違った記事によって、間違った印象を与えかねない点で害悪ですらあると思われる。

なぜこうした印象操作的な記事が出回ってしまうのか。

記者や専門家が単に無知だったという理由なら、お粗末ではあってもまだマシだったかもしれない。そうではなく、あえて「子ども部屋おじさん」という言葉を使いたい理由があることこそが危険なのだと思う。

つまり、生贄なのだ。

私は書籍でも記事でもインタビューでも同じことをずっといい続けているが、未婚化や少子化の要因というものは決して「個人の価値観の問題」などではない。経済環境や職場環境含めた社会構造上の環境問題である。

価値観が変わったのだとしたら、まずそれを変えるだけの理由となる環境があったはずで、価値観はその環境に適応したにすぎない。「若者が草食化したから未婚化になった」なんていい草は間違いであるという話は本書内でもご説明した通りである。

しかし、人間は社会構造の問題などという曖昧な理由では納得できない。というより安心できない。特定の誰かのせいにしたがる。

だから、自分たちの安心のために、悪者を作り上げてしまう。

古来、コミュニティ内の仲間意識や絆を強化するのに一番効果的なのは、コミュニティの外に敵を作ることである。敵がいるのだから、みんなが一致団結して協力しないといけないという気持ちを喚起できるからである。

外に敵がいるうちはいいが、もし適当な敵が外にいなければ、仲間内からでも敵を作りだし、これをみんなで排除することで新たな仲間意識を確認する。極左集団の内ゲバなどはその好事例だろう。

また、学校などでのいじめなどもこうした原理で発生する。

「子ども部屋おじさん」の件でいえば、少子化や未婚化の原因を「子ども部屋おじさん」を悪に仕立て、みんなの敵とし、彼らにその責任を一手に負わせることで安心を得ようとする人たちがいるのだ。

<幻冬社ゴールドオンライン>
40代独身男性の婚活→「身の程知らずだ」「キモい」と非難殺到…。なぜ〈独身中年男性〉ばかりやたらと叩かれるのか?【独身研究家が解説】

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