日中韓の非婚文化

「次元の異なる子育て支援」を掲げる岸田内閣だが、裏を返せば少子化問題はそれほどまでに深刻だ。そしてそれは韓国や中国も同じで、今、急速に進行している。いったい何が起きているのか?

婚姻件数も激減。アジアにはびこる非婚文化の深淵

日本では近年「非婚」が広がりつつある。内閣府「少子化社会対策白書」によると、50歳時の未婚割合を指す生涯未婚率は、1970年に男性1.7%、女性3.3%だったのが、’20年にはそれぞれ28.3%、17.8%まで拡大。

未婚率の上昇は出生数にも影響を及ぼす。厚生労働省「人口動態統計(速報値)」によると、’22年の出生数は前年比5.1%減の79万9728人。政府推計より10年速いペースで少子化が進んでいる。

この現象が起きているのは、日本だけではない。中国国家統計局によると、’22年の中国の出生数は956万人で、61年ぶりに人口減少に転じた。婚姻数も8年連続で減少中だ。

結婚を恐れる「恐婚族」が注目される中国

中国では今、「結婚を恐れる人たち」を意味する「恐婚族」がクローズアップされている。「現代中華オタク文化研究会」サークルを主宰するはちこ氏は説明する。

「中国では女性の社会進出が進み、一人で生活できるようになりました。結果、結婚や子育てがキャリアにとってマイナスだと考える女性が増えています。また、大都市のインフラが整い、娯楽手段も多くなって独身のほうが快適だという風潮になっていったのです」

近年、中国では社会学者の上野千鶴子氏の翻訳本が人気で、恐婚族の女性にも影響を与えているという。中国の動画サイトには、上野氏のインタビュー動画が多数投稿され、「普通の結婚生活はほとんどの場合、女性が不満をのみ込んでいる」という趣旨の発言を切り取った動画が100万回以上も再生されている。コメント欄には「上野先生の広い視野、強さ、寛容さに魅了された」など、多くの女性が支持するコメントが並ぶ。

韓国では「非婚手当」を支給する大企業も

一方、もっとも深刻な状況に陥っているのが韓国だ。韓国統計庁によると、’20年の婚姻件数は前年比10.7%減の21万4000件にとどまり、過去最低を記録。今や韓国では、社会が非婚を受け入れる風潮さえあるという。

「韓国企業の中には、あえて結婚しない『非婚主義』という言葉が定着しています。配偶者のいない社員が増えたため、結婚祝い金と同水準の『非婚手当』を支給する制度を設ける大手企業が増加しているのです」(韓国駐在の記者)

当然、出生率も下がる。政治情報サイト「ニュースタンス」編集長・徐台教氏は言う。

「’22年の合計特殊出生率は0.78人で、OECD(経済協力開発機構)加盟37か国中の最下位でした。韓国の’20年の死亡者数は30万5100人で出生数を上回り、1970年の統計開始以来はじめて人口減少に転じたのです。これは政府の予想より9年も早いペースで、韓国社会に大きなショックを与えています」

非婚・少子化の原因とは

各国とも厳しい状況にあるが、非婚や少子化の原因はどこにあるのだろうか。少子化問題に詳しいジャーナリストの小林美希氏は、まず日本の原因についてこう指摘する。

「労働者に占める非正規雇用の割合は1990年は20.2%でしたが、バブル崩壊後は右肩上がりで増え、それに反比例して出生率は低下しています。不安定な雇用が結婚や出産の障壁になっています」

政府が企業の利益を優先した結果だと小林氏は断言する。

「国は少子化問題についてずっと言及してきていますが、実際に重視していたのは、企業の利益をいかに最大化するか。産業界の要請に従って規制緩和をした結果、女性を中心に非正規雇用が拡大。『雇用の流動化』や『働き方の多様化』といった耳触りのいい言葉にすり替え、事実上、解雇の自由を認めました。人を大事にしてこなかった政策が、少子化に繋がっているのです」

韓国も同様の問題がある。前出の徐氏は言う。

「韓国は世界で最も不平等な社会だという統計があります。雇用が正社員と契約社員の二重構造になっているうえに男女の格差も大きく、男女の賃金差は世界で1、2位を争う開きがある。寿退社や出産で退職すると、社会から断絶されて戻ることができない。働く女性にとって、出産はマイナスにしか作用しないというのが共通認識なのです」

いまだ地方に残る儒教文化に嫌気

東京で韓国語教師を務める30代前半の韓国女性は、そうした閉塞感に嫌気が差し、韓国を飛び出した。

「私は、結婚しても韓国に帰る選択肢はありません。韓国の教育熱は異常で、学生は勉強一色。自分の子どもには、同じことをさせたくない。それに韓国の地方出身者とだけは結婚したくありません。地方は顕著に儒教文化が色濃く残っており、“嫁”になると先祖崇拝などさまざまな家族行事に強制的に駆り出される」

若い女性が伝統的価値観を嫌うのは中国も同様だ。中国事情に詳しいルポライターの安田峰俊氏は言う。

「1978年から始まった改革開放政策により社会全体が豊かになり、社会進出が進んだ女性たちはその分、選択肢が増えました。しかし、女性は結婚すると夫の一族のために子どもを産んでしかるべきという、伝統的な結婚観はすぐには変わりません。

加えて、子どもの教育は課金ゲームのようになっており、膨大なコストがかかるようになってしまった。そうした背景から女性が結婚を割に合わないと考えるのは当然です」

中国では結婚をためらう男性も多いが、その理由を聞いたら納得するだろう。

「中国には、男性が不動産や車を保有していないと結婚できないという認識がある。数百万円以上の結納金が必要なケースもあり、経済力のない人は、結婚したくてもできないのです」(安田氏)

第二子は高校受験で加点する政策も!?

では、東アジアの少子化を食い止める手立てはあるのか。少子化は国力に関わる問題であり、各国は真剣に対策に乗り出している。なかなか改善の兆しが見えぬなか、日本と韓国が重視しているのは「男性の育児休暇の制度化」だ。働く女性の負担を軽減するという観点からも重要だが、こちらも課題は多い。

「日本では女性は通常1年ほど育休を取りますが、男性に話を聞くと、2か月が限界。それ以上休むと、会社から不要な人材だと思われる心配があるからです。政府が支援するなど、周りや会社に気兼ねなく育休が取れる環境を整えることが必要です」(小林氏)

一方、中国では地方自治体単位で少子化対策に力を入れているという。中国に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。

「出産一時金の支給などが各地で行われていますが、山西省沢州県では、2、3人目の子どもが高校受験をする際に10点を加算すると発表し、話題になりました。批判の声も噴出しましたが、それだけ人口減少が著しい地方では危機感があるのです」

各国政府は少子化にもっと本気に取り組む必要がある。

男に近づくな!SNSで流行中 中国の“男嫌い”

中国のSNS「微博」などで最近よく見かけるのが「不要靠近男人 会変得不幸」という言葉だ。意味は「男に近づくと不幸になる」で、一種のネットスラングとして定着している。

「女は常に問題提起しているのに、男たちは頑固で悔い改めない」「学業とキャリアに専念すれば男はもはやいらない」「蔡天鳳事件はまさに“男に近づくと不幸になる”の典型」といったつぶやきが投稿されるケースが多いようだ。

ちなみに蔡天鳳事件とは、2月に起きた、28歳の香港のセレブモデルが元夫やその父母によって殺害され、遺体をバラバラにされた事件のことだ。

「女性は結婚しなくては生きていけないという時代はとうに過ぎ、自立した女性たちは自分たちの置かれている不平等な現実に声を上げ始めています。それが中国での上野千鶴子ブームや、この言葉に表れているのでしょう」(前出のはちこ氏)

中国の“男嫌い”現象はしばらく続きそうだ。

<日刊SPA!>
「結婚・子育ては割に合わないと考えるのは当然」非婚・少子化が急速に進む日中韓、女性のホンネ

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