独り身で思うこと

いつか“運命の人”は現れるのだろうか? 夢と現実のはざまで揺れるUK版『VOGUE』コントリビューター、アニー・ロードが独り身であることについて今想うこと。
BY ANNIE LORD、MOTOKO FUJITA

「いつか結婚したら、絶対に私用の部屋を作って、自分だけの空間を持とうと思う」──私はルームメイトにこう言った。パソコンをテレビに繋げて、婚活リアリティショーの「ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!~」(2022)を一緒に見るための準備をしていたときだった。

自分が発した「いつか」という言葉にハッとし、私はストロベリーヨーグルトの蓋を舐める動作を止める。「“いつか”というより、“もし”の方が正確かも」

その“もし”に自分でも驚いた。それは、「いつかきっと運命の人に出会える」という、私の長年の確信が崩れ始めていることの表れだったからだ。私はこれまでいつも、ビアンカ・ジャガーが着ていたような白のスーツでバージンロードを歩き、それから子どもを産んで、赤ちゃんが私のひざの上で眠っている、そんな幸せな結婚生活を送る自分を想像していたのだから。

しかしこの私が思い描いた未来が、だんだん確かなものではなくなってきた。25歳までには結婚相手に出会うといった趣旨の記事を読んだことがあるが、私はあまり有力な候補に出会ってきた気がしない。さらに、私の友人はまた別の説もあると最近教えてくれた。「27歳で独身なら、あなたはおそらく一生独身」。この裏付けとなるような情報は見つけられなかったが、とにかく私の頭にこびりついている。

独身は自分で選んだこと

私はなぜかいつも、元カレの話を持ち出したいという奇妙な衝動に駆られる。寂しいからというわけではなく、自分が恋愛できる人間であることを周囲に証明したいからなのかもしれない。私が肌荒れを気にして皮膚を触っていると彼が優しく宥めてくれたこと、彼のTシャツを借りてパジャマにしたこと、私が誰かとあれほど親しくなったこと、誰かが私とあれほど親しくなったこと。こんなふうに思い出していると、独身であることの言い訳が必要な気がしてくる。選ぶ男が悪いとか、今は仕事に集中してるとか、ただ選り好みしすぎだとか……。

ハロウィンの日、知り合いのハウスパーティーでアジーリア・バンクスの「212」の音楽にあわせて踊っていた。その時、隣にいた男の人が身を乗り出してきて、スピーカー越しに「もう一度歌ってくれない?」と大声で聞いてきた。私は歌詞がわからないから適当に言葉をのせて歌っていただけで、彼は冗談のつもりだったはずだ。それでも私はその適当な歌詞を繰り返した。

笑った彼を目の前にして、私は一瞬だけ、彼を意識する。彼は背も高く、服のセンスもいい。それなのに、私は彼から目を逸らしたのだ。「仕事は何?」「どうしてこのパーティーに来たの?」「どこから来たの?」と、一晩中彼と会話を続けるよりも、ただ友だちと気楽に過ごしたほうが楽しいと思ったから。

私はしばらく彼のことを考え続けた。今はデートに行く人よりも、彼のようにちょっとした好意を示してくれた男性について考える。そういった“何かに発展していたかもしれない”男性たちが私に意味するのは、独身であることは自分で選んだこと、自分で決められることであるということだ。

“運命の人”は現れる?

いつか“運命の人”が現れると、自分を信じ込ませてもいいものだろうか? パーティーでその“運命の人”に会って、数週間後に彼が「こんな気持ちになったのは初めてだ」と大見得を切る姿や、休日を一緒に過ごしたり、実家に連れて行ったりする未来を想像するのは? それともこうやって想像を膨らませるのは、想像通りにいかなかったときに私自身を惨めな思いにさせるだけ? 私はどんな夢を描けばいいのだろう。

この夏、私は一人でギリシャへ旅に出かけた。最初は、いろいろなハプニングに見舞われた。まずはアテネからイドラ島へのフェリーに乗り遅れ、朝食の残りのパンしか持ち合わせていないのに5時間も待ちぼうけを食らったのだ。さらに、膀胱炎になる気配を感じ、なんとか予防しようと水をたくさん飲んだら、お腹がパンパンに張ってしまった。すると今度は私の大きなビーチバッグの中にたくさんの蟻が入り込んできて、本や充電器の上を這っている。それはひどいものだった。

しばらくしてトイレに駆け込んだら、掃除のおじさんにばったり会った。彼は私の名前を尋ねると、モップをマイクにして歌い、私を元気づけてくれた。そうして気持ちが少し落ち着いた私は、こういった私のトラブルの巻き添えになる人も、私の計画性のなさを責め立てる人もいないのだからと、旅のハプニングもそれほど気にならなくなっていった。やっと目的地に着いたときには、自分の力ですべてをやり遂げたのだと、さらに気分がよくなった。手首に果汁が滴るほどネクタリンをほおばり、魚があちこちに見えるほど美しく透明な海を一人で泳ぐ。そんな自分に、私はとても満足した。

独身の未来は、誰かと暮らすよりもずっと良い

この先もずっとこの調子でいったら、どうなるんだろう? 時間を無視して、子どもを産めない歳になるまで独身でいたら? 朝ラジオをかけても、洗い物が溜まっていても誰にも迷惑をかけないワンルームマンションに一人で住めるほど、自分でお金を稼いだら? 自分の持ち家なんだから、自分の部屋が欲しいなんて願わなくてもよかったら?

この独身の未来は、誰かと暮らすよりもずっと良いものだと思えてくる。そして面白いことに、私はもっと楽しいものになるのではないかという気もしている。夢は現実ではないし、現実になったときに初めて気づくこともある。夢ばかりを信じても仕方ない。現実の方がずっとうまくいく傾向にあるのだから。

Text: Annie Lord Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK

<VOGUE>
「私はこのまま一生独身かもしれない」──気高く生きるシングルライフのすすめ

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