少子化と非婚化

少子化が加速しています。厚生労働省の月次統計に基づく推計によると、2022年の出生数(日本人)は約77.1万人で、戦後最少だった2021年81.2万人を下回る見込みです。2022年の合計特殊出生率も1.27程度と、1.30を割り込みます。

少子化の原因ついては、出産・育児の負担が取りざたされ、国も1980年代から出産・育児への経済的な支援を進めてきました。しかし、少子化に歯止めがかからないところを見ると、本当に原因はそれだけなのかという疑問が湧きます。

今回は、国民が薄々気づいているもののあまり語られない社会的な価値観の問題について考えてみましょう。

日韓では少子化は非婚化とほぼ同義

少子化の原因は実に多様ですが、社会的に良い原因と悪い原因があります。所得の上昇、医療の発達、女性の社会進出などは、少子化を促すものの、社会にとって良いことです。少子化は、日本社会が発展した証だと言えます。これらの原因には対応しない方が良いわけで、少子化対策のターゲットではありません。

一方、若年層の貧困、女性への家事・育児の負担の偏り、長時間労働などは、少子化の原因となるだけでなく、社会的にも好ましくないことです。これらが、少子化対策のターゲットになります。

日本に限らず先進国では、社会的に良い原因によって少子化が進みます。ただ、フランスでは合計特殊出生率が2.0近くまで回復するなど(2020年は1.83に低下)、一部のヨーロッパ諸国では社会的に悪い原因に対応し、一定の効果を上げています。

ここで日本とヨーロッパ諸国の大きな違いは、生まれてくる子供のうち婚外子(非摘出子)が占める割合です。フランス59.7%などヨーロッパでは50%以上の国が多く、婚外子が一般的です。それに対し日本では約2%に過ぎません。日本以上に少子化が深刻な韓国も1.9%です。

近年、日本では、急速に非婚化が進んでいます。2020年、婚姻数は戦後最低の52万5507組となりました。生涯未婚率は、1990年まで5%未満だったのが急上昇し、男性28.3%、女性17.8%に達しています。

つまり、結婚して子供を産むことが大前提になっている日本や韓国では、近年の非婚化が少子化に拍車を掛けています。背景的な原因は多々あるものの、直接的には少子化は非婚化とほぼ同義なのです。

なぜ非婚化が進むのでしょうか。よく指摘されるのは、若年層の雇用が不安定になっているという経済的理由です。

収入が不安定な非正規雇用の労働者全体に占める割合が、1989年(平成元年)の約20%から2021年には37%に上昇しました。非正規労働者の「自分が生きていくので精いっぱい。結婚して子供を産むなんて考えられない」という嘆きをよく耳にします。

加えてもう一つ、国民が薄々気づいているもののあまりおおやけに語られない原因があります。それは、「パートナーに求める知的水準のすれ違い」です。男性の中には、「自分より学歴が高くない女性と結婚したい」「頭の良い女性はちょっと勘弁」と考えている人がいます。パートナーに対し優位に立ちたいという発想からでしょう。

逆に女性の中には、「自分より賢い男性と結婚したい」「夫に養ってほしい」と考えている人がいます。

とすれば、男性側がより高学歴なケースなどは結婚は成立しやすくなりますが、このケースから外れるとなかなか結婚できません。昭和の時代まで女性の就業機会が制約されていたので、女性は生きるために妥協してでも結婚しました。ところが近年、女性が経済的に自立すると、あえて不本意な結婚をする必要がなくなりました。これが非婚化、その結果としての少子化が進んだ原因の1つです。

国民の価値観を変えるのは難しい

ここで不思議であり、残念なのは、共働きが当たり前のこの時代になっても、「夫が一家の大黒柱として働き、妻が家庭を支えるべき」という伝統的な価値観が、昭和の時代からあまり変わっていないことです。

知的で進歩的と世間から思われている男性でも、家庭を支えてくれる控え目な女性を好むこともあるようです。大学教員をしている30代独身のAさんは、次のように語ります。

「将来もし結婚するなら、女性には家庭を守ってほしいと思います。ちょっとボーっとしているくらいの女性の方が、一緒にいて気持ちが安らぐし、子供もおおらかに育つのではないでしょうか」

また、高収入の女性の中でも、頼りがいがない男性を避けようとする人がいます。人材サービス会社を経営する40代独身のBさんは、次のように吐き捨てます。

「パートナーの男性には、養ってもらおうとか期待していません。それでも知的で強くて頼れる存在であってほしいです。頼りない人とは、一緒に仕事をするだけでも、かなり苦痛です。ましてや結婚して時間・空間をともにするなんて、考えたくもありません」

1945年に女性の参政権が認められてからすでに77年、1985年に男女雇用機会均等法が制定されてからすでに37年が経ちます。法制度を変えるのも難しいですが、国民の価値観を変えるのはさらに難しいことのようです。

現在、政府は出産育児一時金を42万円から50万円に増額するなど、経済面を中心に少子化対策を進めています。ただ、前出のBさんのように経済的な余裕があっても結婚しないという人が増えている現状からすると、経済対策の効果は限定的でしょう。

経済対策だけでなく、「結婚して子供を持つ」「夫が一家の大黒柱として働き、妻が家庭を支える」という国民の価値観を抜本的に変える必要があります。教育・啓蒙や非摘出子を著しく不利にしている法制度の見直しが急務です。

少子化はもはや処置なし?

では、将来はどうでしょうか。国民の結婚に対する価値観は、変わっていくのでしょうか。政府が価値観の問題にどこまで危機感を持っているのかは不明ですが、政策に関係なく、良い方に向かうかもしれません。

筆者の長女(23歳)を見ていると、彼氏との関係はかなりフラットです。長女の世代では、デートなどで男性が女性におごるという習慣はありません。さらに下の世代だと、男女関係は完全にフラットなようです。

こうしたフラットな男女関係の次世代が婚期を迎えたら、もはやパートナーの学歴なども大した問題ではなくなるかもしれません。そうなれば、非婚化はかなり解消されそうです。

ただ、それによって少子化問題が解決すると考えるのは早計です。結婚しても子供を産まないカップルが増え、既婚女性が産む子供の数が減っています。また、長年続いた少子化によって「少母化」が進み、そもそも子供を産める母親の数が激減しています。

つまり、仮に国民の価値観が変わって非婚化の流れが止まっても、少子化のスピードが少し緩やかになる程度で、子供の数が増えることはないでしょう。こうして考えると、少子化・人口減少は、「もはや処置なし」と覚悟するべき問題なのかもしれません。

<東洋経済ONLINE>
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