50歳独身女性のゆるFIRE

47歳で更年期障害の症状が現れ始めたファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは、「女性は更年期を見据えてライフプランを考えてほしい」と言います。高山さんご自身の経験とお金のプロの視点から、更年期のリアルと対策について、連載でお届け。今回は、更年期をきっかけにFIREを考え始めた女性の例からシミュレーションします。(第4回)

第1回から読む→「就寝中も襲ってくるホットフラッシュにメンタルもダウン…47歳で更年期障害になったFPが全女性に伝えたいお金と働き方の話

これまでの連載で私自身も含め、多くの女性が40代頃から更年期による不調を感じるようになることをお話してきました。更年期になると、働き方をもっとゆるやかにして、プライベートにも重きをおきたいと感じるようになる方も少なくないようです。

今回は私のお客様でバリキャリ女性のAさん(独身)が働き方を緩やかにするために「FIRE」のご相談に来た事例をご紹介します。

※相談者のプライバシーに配慮して、事実関係の一部を変更しています。

更年期で「FIRE」を考え始めた女性

私のお客様のAさんは、某メーカー企業の総合職として勤務。大学を卒業してから25年以上バリバリと働いてきて、キャリア・収入ともに満足していましたが、40代後半になり、更年期の症状に悩まされるように。今の仕事は、残業や出張も多く、体力的に不安を感じ始めたようです。

Aさんのように、総合職でバリバリ働いている方は、仕事にやりがいを感じている一方で、ハードワークの日々で多大なストレスを抱えている方が少なくないのではないでしょうか。

Aさんは、これまでの経験を活かしてフリーランスで働きながら、プライベートの時間も充実させたいと考えていました。いろいろと調べていたところ、「FIRE」という考え方を知り、興味を持ったそうです。そこで、AさんにFIREについて説明させていただきました。

そもそもFIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった造語。経済的に自立し、早期退職を目指す、といった意味です。昔のいわゆる早期リタイアは、億万長者になって仕事を辞め、あとは資産を切り崩して生活するといったイメージですが、FIREにおける早期退職は、資産運用によって収入(不労所得)を増やし、支出を減らし、きちんと貯蓄を行い、毎年の生活を賄っていくというものです。

たとえば、年間の生活費が300万円ならば、年間の資産運用の収入が300万円あれば、計算上は資産を減らさずに、資産運用の収入だけで暮らしていけることになります。

FIRE実現の条件

では、FIREを実現するためのルールを解説します。

FIREを実現するために必要な資産(FIRE資産)を計算するのに用いられるのが「4%ルール」です。かんたんにいうと、「年間の生活費の25倍の資産を運用すれば、年利4%の運用益で生活費をまかなえる」というものです。

つまり、年間の生活費が300万円ならば、その25倍の7500万円のFIRE資産を運用すればいいというわけです。この場合、運用益は7500万円×4%=300万円ですから、年間の生活費と釣り合いますね。つまり、上記のケースで完全FIREを目指す場合には、リタイアする時点で7500万円の資産が必要ということです。

もっとも、4%ルールの「4%」はあくまで米国の株式市場を元にしたデータですし、過去のデータよりはじきだされた数字ですので、必ずしも4%で運用が続けられるという保証はありません。もし、年4%の運用ができなければ、不労所得が減ってしまいます。この場合は、支出を削るか、働くなどして他の収入で補う必要が出てきます。それができない場合は、資産を取り崩すことになります。

50歳ゆるFIREは成り立つか

Aさんは、堅実な性格でコツコツと貯蓄や資産運用に励んできましたが、現時点で資産は5000万円。ですから年間の生活費を300万とした場合の完全なFIREは難しいということになりますが、Aさんが希望しているように、ゆるく働きながら生活が成り立つのかどうか見ていきたいと思います。

現在40代後半のAさんですが、仮に50歳でフリーランスに転身し、5000万円の資産に加えて、退職金が1000万円支給されるとして計算してみます。Aさんは、現在、会社近くのマンションに賃貸暮らしをしていますが、会社を退職した場合には、もう少し家賃の安いところに引っ越す予定です。

50歳で仕事を辞めて、年金が支給される65歳までの生活費として、30万円(Aさん希望の生活費)×12カ月×15年間=5400万円が必要になります。

50歳からは、仕事のペースをダウンし、フリーランスとして月20万円程度の収入を得る予定として、その分の収入を計算すると、20万円×12カ月×15年間=3600万円。

5400万円から3600万円を差し引くと、1800万円となり、50歳〜65歳までの足りない金額を単純に計算すると、1800万円ということになります。

この不足分を金融資産から取り崩すわけですが、50歳の時点で金融資産が上記の通り6000万円あるとした場合、50歳〜65歳までの足りない金額1800万円を差し引くと、残りの資産は、4200万円となります。

数字上だけみると、50歳〜65歳までは計画通りに進めば大丈夫そうですね。

上記に加えて65歳以降の生活費も考える必要があります。

老後はゆとりを求めなければセーフ?

基本的に65歳以降は働かず、年金だけで生活するとします。まず、どれくらいの年金が出るかですが、大学卒業後から50歳まで正社員で働き、現在の年収は1000万円とします。フリーランスになった後は、60歳まで国民年金に加入するとします。

詳細な計算は異なってくるかもしれませんが、今回は、三井住友銀行が提供している年金シミュレーションを利用して試算します。

試算結果を見ると、65歳以降にもらえる年金の金額は月額16万4000円となります。
65歳以降の生活費も変わらず月額30万円と仮定します。そうすると、年金の不足分は、13万6000円になります。
仮に90歳まで生きると仮定して、65歳以降の不足金額を計算すると、
13万6000円×12カ月×25年間=4080万円

高齢になると、病気になったり、介護が必要になったりするケースが多く、医療費や介護費用として1人あたり500万円程度必要といわれています。

65歳以降に必要なお金は、老後の生活費と医療・介護費用を合わせると、4580万円となります。65歳の時点で残りの資産は、4200万円なので、生活費を少し調整すれば、なんとかギリギリ間に合うといったところです。

ただし、将来高級老人ホームに入る、海外旅行にいくなど、ゆとりある老後を送りたい場合や想定以上に長く生きる場合には、資金が足りなくなる可能性は高いでしょう。

今回は運用をしていないと仮定して試算したので、フリーランスになってからも資産運用を続け、資産を運用しながら取り崩しをする、65歳以降も働き続けたりするなどすれば家計にゆとりが生まれるでしょう。

早期に会社員をやめる落とし穴

試算上は、Aさんがフリーランスに転身するなどして働くペースをダウンさせてもなんとか基本的な生活は成り立つことがわかりました。ですから、フリーランスも含めてぜひ、今後の働き方を前向きに検討してみるとのことでした。

ただし、フリーランスになると、会社員の時と違い、社会保障が手薄になる点には注意が必要です。

・厚生年金から国民年金に変わるので、受け取る年金の金額が少なくなる
・健康保険から国民健康保険に変わるので、病気やケガなどで休んでも傷病手当金は支給されない(ただし、退職後2年間は、健康保険の任意継続被保険者になれる)
・雇用保険に加入しないので、仕事がなくなってしまった場合に自分で備えなくてはならない

ですから、病気、ケガで働けなくなった場合には、民間の保険で備える、フリーランスの退職金作りとして小規模企業共済を活用するなど、会社員の時よりも自分自身で不測の事態に備えておく必要があります。

働き方を変えると、加入する制度が変わりますので、制度の概要をよく確認するようにしましょう。

ライフステージにより、人の状況は変わります。その時の状況に合わせて働き方を変えるのはむしろ必然なのかもしれません。とはいえ、経済的に安定していないと自由に働き方を選択することも難しいでしょう。働き方を見直したいと考えている方は、事前にマネープランもしっかり立てることが大切です。

<FNN プライムオンライン>
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