兄妹での実家暮らし

親が亡くなったあと、空き家となった実家をどうするか――。相続人が遠方に住んでいたり、誰も住む予定がなかったりする場合、管理の手間や税負担から「売却」という選択を迫られるケースもあります。2024年4月には相続登記が義務化され、放置によるリスクはさらに高まりました。

「売るしかないよな」実家に残された父の遺影

「母が亡くなったとき、なんとなく“父がいる限り大丈夫”と思っていたんです」

そう語るのは、都内で事務職として働く60代後半の男性・一樹さん(仮名)。父親が亡くなったのは昨年の秋。地方にある実家は、兄妹2人の共有名義となりました。

妹の美智子さん(58歳・仮名)は独身で、首都圏のワンルームに一人暮らし。

「じゃあ誰が実家を管理する?って話になると、正直どちらも難しい。結局、売却が現実的でした」

空き家となった実家は、築50年超の木造住宅。庭の草木は伸び、老朽化も進んでいました。

「固定資産税に、火災保険、庭木の手入れ……住まなくても、維持費は年間10万円単位でかかる。それでも誰かが掃除に通わなきゃならない」

二人は話し合いの末、地元の不動産業者に相談。売却前提での査定を依頼することになりました。

「感情的には残したい。でも、現実的には“持っているだけで赤字”でした」

売却にあたり必要だったのが、相続登記です。

「父の死後、早めに登記を済ませていたので、スムーズでした。でも、これ放っておいたらトラブルになるところでしたね」

2024年4月以降、相続による不動産取得は3年以内の登記申請が義務となり、怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性もあります。特に兄妹の共有名義になるケースでは、登記手続きの遅れが将来の売却や解体に大きく影響します。

無事に実家は売却できたものの、次の課題が浮上します。

「妹の賃貸契約が更新を迎えていたんです。家賃も上がるし、職場が遠くなったとぼやいていて」

一方の一樹さんも、定年退職後は年金生活で、郊外の古い団地に住んでいました。

「段差が多くて膝が痛むし、駅から遠い。妹と“お互いひとりで不便な暮らしをしているなら、いっそ一緒に住んだらどうか”という話になったんです」

「兄妹で同居」…条件は“干渉しすぎない”こと

同居にあたってはルールを決めました。

●寝室は完全に分ける
●食事は自由、共食は週に1〜2回程度
●家事は役割分担(洗濯:妹、掃除:兄)
●光熱費・家賃は完全折半
●生活ルールを書面で簡単に記録

「一度“親と同居していた妹”という形になった後、それぞれ独立して、また同居する。だからこそ“対等”を大事にしようと決めました」

物件は駅近の2LDK、家賃は月12万円。売却益の一部を初期費用にあて、契約名義も連名に。

「兄妹同居、変わっていると言われるかもしれないけど、無理なくやれています」

実家売却で得たもの、「帰る場所」ではなく「新しい拠点」

「やっぱり、実家がなくなるって寂しいんですよ。田舎に帰るって感覚がなくなった」

とはいえ、空き家を放置するリスクは年々増加しています。

特定空き家に指定されれば、固定資産税の軽減措置(住宅用地の特例)も解除され、税負担が最大6倍になることも。放置による近隣トラブル、倒壊リスクなども加味すれば、「管理できないなら手放す」判断は合理的とも言えます。

●相続登記の義務化(2024年4月〜):相続発生後3年以内に登記申請が必要。過料の可能性もあり。
●空き家対策特別措置法:適切に管理されていない空き家は「特定空き家」に指定され、固定資産税の軽減が外れることも。
●共有名義のリスク:相続で兄妹共有になると、売却や処分には原則として全員の同意が必要。早期に話し合い、単独名義にまとめるなどの対処も有効。
●家族間の同居:同居により、世帯構成や税制(扶養控除、住民税の判定など)に影響することもあるため、役所への届け出や税理士への確認も推奨。

「子どもの頃の“兄と妹”とはもう違います。でも、“家族”であることは変わらない」

お互いに助け合える関係で、同じ空間を共有できるなら、それは新しい“帰る場所”になるのかもしれません。

<THE GOLD ONLINE>
「帰る場所がなくなった…」実家を売却した60代息子が、独身の妹と〈再び一緒に暮らす〉まで