子持ち様と独身

子育て中の親が、子どもの体調不良などを理由に仕事を休んだり、早退したりして職場で特別扱いされていることを揶揄するネットスラングを「子持ち様」と言う。厚生労働省のまとめによると、2023年1年間に生まれた日本人の子どもの数は72万7277人で、1899年に統計を取り始めて以降、最も少なくなった。同じく厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)概況の第一子出産時の母親の平均年齢の年次推移を見ると「昭和50年は25.7歳」に対して「令和5年は31.0歳」と年齢が上昇していることが判明。この結果から、少子化に加えて、女性が出産する年齢が上がったことで、子育てする母親が何かと理解を得づらくなっていると考えられる。そんな中、子育てしながら一生懸命働くも、子どもを理由に仕事を休むことが多いせいで、周りから厳しい目を向けられている人もいるようだ。

結婚後も経理の仕事を続ける瞳さん(仮名・30歳)。出産を経て仕事復帰するも、職場に子どものいる社員が少ないこともあり、子育てに理解があるか不安に思っている。復職するとすぐに子どもが熱を出して保育園から呼び出され、一週間の休みを余儀なくされた。気を取り直し出社するも、娘が再び体調不良に陥り休むはめに。ようやく仕事に戻ると、子持ちの上司(智子さん・仮名・38歳)は理解を示してくれたものの、独身の同僚(沙織さん・仮名・30歳)には聞こえよがしに嫌味を言われてしまう。その後も、沙織さんに「子どもを理由に仕事をサボってばかりいる」と悪い噂を流される始末。瞳さんはなかなか理解が得られない現状に苛立ちを隠しきれなかった。

上司に相談をすると……

「職場の険悪な雰囲気にいたたまれなくなって、一休みすることにしました。すると休憩室に上司の智子さんがいたので、同じ“子を持つ親”ということもあり、きっと気持ちをわかってもらえるはずだと思い悩みを打ち明けることに。早速『沙織さんが子どものことでやたらと目の敵にしてくる』と話を持ちかけると『身近に子どもがいないとその大変さはわからないものなのよ』と諭されて。

さらに『私が先に結婚や出産をしたのが羨ましいに違いない』と相手の陰口を叩くと『生き方は人それぞれだから』とごもっともな意見を受けたのです。予想外の展開にイライラが募って『子どものいる人の幸せが妬ましいだけ』とぼやくしかありませんでした」

やり取りをすべて聞かれていた

その後、席に戻ろうとした瞳さん。しかし、運悪く沙織さんと出くわしてしまったという。こともあろうか、先ほどのやり取りをすべて彼女に聞かれてしまったのだ。

「さすがにばつが悪くて、ただただ目を伏せるよりほかありませんでした。けれど、すれ違いざまに沙織さんは『親なんだから、子どもが風邪をひかないようにきちんと体調管理しなさいよ』と憎まれ口をたたいてきて。このままでは堂々巡りなので、さすがにらちが明かないと思いました」

これをきっかけに、瞳さんは彼女と話し合いの場を設けることにしたという。そもそも自分が子どもを理由に会社を休むことが多いので、その分仕事を負担してくれた沙織さんにしっかり感謝の意を伝えることにしたのだとか。

本音で話し合いたい

「この際、本音で話し合いたいと思いました。そこで『これからも助け合って仕事をしていきたい』と語りかけると、沙織さんは『こっちはあまり助けられたことがないけど……』とつぶやいたのです。すかさず『仕事量だけで判断しないで! 共に働いているのだから、助けていないはずがない』と反撃して。

さらに『あなたも家族の病気で休むことがあるかもしれない』と畳みかけるも、彼女はまったく納得していない様子。結局話はまとまらず、その場には不穏な空気が流れました」

この出来事がかえって火に油を注ぐ形になった。彼女は上司の智子さんに「瞳さんとの間に衝突が生まれてしまった」と報告したのだ。その結果、社内でもっとコミュニケーションを取る必要があると、週に一度ミーティングが行われるようになったそう。

助け合う雰囲気が生まれるようになったが

「私も、いろいろと言い過ぎたと反省しました。それからというもの、子どものために仕事を休んだら、事情を説明したり、事後報告をしたりして、周りに理解を求めることに。すると、職場のメンバーは状況を理解してくれて、少しずつみんなで助け合うような空気が生まれていったのです。しかし、相変わらず沙織さんは子どものことで休むといい顔をしなくて……。ただここで諦めることなく、今まで以上に休んでしまった分の穴埋めに励みたいと思います」

職場のみんなとしっかり向き合うことにした瞳さん。今回のように、子どもを理由に仕事を休むことに理解を示さない人がいるのはよくあるケースのようだ。現状を嘆くよりも、自分から歩み寄る努力も大切にすべきだろう。

<現代ビジネス>
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