発売前からそのタイトルが注目を集め、2022年11月17日の刊行直後に重版が決定するなど話題を呼んでいる、ふかわりょうさん(48)の最新エッセイ集『ひとりで生きると決めたんだ』(新潮社刊)。“重箱の隅に宇宙を感じる”というふかわさんがつづったエッセイの中身から気になるタイトルの意味まで、お話を伺いました。
エッセイは「溜まっているものを出す」感覚。誰かに寄り添おうとは考えていない
──『ひとりで生きると決めたんだ』に収録された22篇のエッセイの中には、心に寄り添ってくれるような部分がたくさんあるように感じられました。
「そうなんですね。でも、僕が書くエッセイは、心の奥底に沈んでいるよどみをお湯で溶いて出している、くらいの感覚なので……。実は、読んでくれた人の心を潤そうとか、誰かの心に寄り添えたら、という気は一切ないんです(笑)」
──ということは、心の中の何かを発散している、という感覚に近いのでしょうか?
「発散というほどのことではなくて、溜まっているものを出している、というほうが近いですかね。だから読んだ方には、“世の中にはおかしな人がいるんだなぁ”みたいな感想を持っていただくくらいでいいんです。もちろん、結果的にその人が自分の感性や価値観を肯定できるようなモードになったとしたら、それはそれでいいと思う。でも僕としては、そうしたことはまったく目的としていないので」
脳内にある“記憶と記憶がつながる独自の装置”がひとりでに稼働する日々
──例えば、本書に収録された「ワルツのリズムでまた明日」というタイトルのエッセイでは、ひつまぶしの話が三々七拍子の話題に転がり、さらに1週間を5日とする案が展開されます。一見、結びつきそうにない物事をなめらかにつなげて読ませる構成というのは、練りに練って考えられたものなのでしょうか?
「僕の脳内には記憶の部屋が結構たくさん存在していて、何かの拍子につながる装置があるみたいなんです。この装置は文章を書くときや番組でMCをしているときなど、仕事ではわりと有効に働くんですね」
──誰もが持っている能力ではないですよね。
「そうかもしれないのですが、僕の場合は、かたよっているだけなんです。例えば、冷蔵庫に入っている食材を見て、“今日はこんな料理が作れるな”と考えられる人は多いですよね。でも、僕にはその思考回路がないんです」
──ふかわさんがお持ちの独特な装置は、意識して起動させるのでしょうか?
「それがですね、この装置にはオン・オフのスイッチがないんです。だから、日常の中でも瞬時に、勝手につながってしまうことがあって。
このあいだ、雨上がりの日に道路の真ん中にいるカエルを見つけたときのこと。そのままでは車に轢(ひ)かれてしまうから、チリトリの先でツンツンと突いて移動させようとしたんですね。そのとき、ふいに中2のときのクラスメイトだったAくんのことを思い出しました。というのも、カエルを押したとき、“やめろよ”って感じでチリトリに加えられた圧が、当時Aくんに肘(ひじ)で押されたときに感じた圧と同じだったから。そこで、“わ、Aじゃん!”って、2つの場面がパッとつながりました。僕の日常はこんな感じです」
──常人には想像もつかない大変なこともありそうです……。
「誰かの相づちの打ち方や表情を見て、“これはあの日、自分をフった相手がしていたのと同じだ”と瞬時に思い出したり、起きてもいない未来に対して感情が揺さぶられるようなことがあったりと、なかなかしんどい部分もあります。でも、インターネットや本の検索では結びつかないつながりを頭の中で構築できることは、自分の中ですごく大事にしている部分でもあります」
愛犬に向けていた愛情が外に。独身の今だからこそ見える世界を大切にしたい
──「最後の遠足」というエッセイでは、2年前に他界した愛犬のことに触れています。ふかわさんにとってその愛犬は、どんな存在だったのでしょうか?
「亡くなってから、その存在の大きさを痛感しました。特に最後の数年は、心のどこかに“いつかお別れをしなければならない”という思いがあり、より愛情が深くなっていたような気がします。愛犬に向けていた時間や愛情が、お別れを機に少しずつ外に広がっていき、今回のエッセイにも書いたような、1枚の葉っぱをはじめとする、ほとんどの人が気にしないような存在に向けられていった。そんな風に感じています」
──もし、ふかわさんにパートナーやご家族がいらっしゃった場合、今の独特の感性はどのように変化していくと思いますか?
「パートナーや家族ができたとしたら、その存在がまぶしすぎて、いま見えている世界が見えなくなってしまうかもしれない。僕はそれを恐れているんです。タイトルの『ひとりで生きると決めたんだ』は結婚する、しないの話ではないんですね。僕は、独身の今だからこそ見えて出会える世界を大切にしたいと思っているだけなんです」
<fumufumu news>
ふかわりょう、「誰かに寄り添う気はない」エッセイで描く“意外な物事の結びつき”と“独身だからこそ見える世界”