2022年9月18日に総務省が発表した、日本の総人口における65歳以上の高齢者の割合は29.1%と過去最高を更新した。少子高齢化で企業の高齢者活用も進む中、いつまでも現役世代のように暮らしたいと望む高齢者も少なくない。8月に70歳を迎えた歌手・俳優の池畑慎之介さんは、5月にYouTubeチャンネルを開設し、自身のライフスタイルを発信するなど、今も精力的に活動を続ける。働き盛りの40代に東京を離れ、現在は神奈川県横須賀市で1人暮らしをしているが、「この生活が幸せでしょうがない」と語る。歳を重ねても自分らしく快活に暮らす秘けつを聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
1人だからこそ、好きなように暮らせるし、好きなときに旅もできる
――池畑さんは今年70歳を迎えられましたが、1人暮らしで不安を感じることはありますか。
池畑慎之介: 1人暮らしで外に出かけないと2、3日人としゃべらないことはざらですよね。基本、連絡手段はLINEのメッセージ。電話はかけないで、メッセージだけで終わるから、数日、一言も発さないことがよくあります。ちゃんと声出せるかな、これはちょっとヤバいかもって。宅配便も玄関に置いてもらうから、本当に人に会わないですね。だから、お風呂に入ってるときに不安になって「あ、あ、あ」って声が出るかチェックしてしまう(笑)。
ただ、今はリモートワークの人も多いから、年齢問わずこういう経験をしている1人暮らしの人は多いんじゃないでしょうか。
――池畑さんが考える、1人暮らしの良さを教えてください。
池畑慎之介: 他の人に迷惑をかけるようなことをしない限り、自分がやりたいことができるのが一番の良さかなと思いますね。
例えば、誰かが家で待っていたら、気軽に出かけられないし、ご飯を作ってあげないといけない。もちろん、家族と一緒に過ごすことで得られる幸せもあって、それは素晴らしいこと。でも、家族の幸せと1人暮らしの気楽さは両立できないですよね。私はその気楽さを選んだということなんです。
1人でご飯を食べたいときは1人で食べるし、寂しいときは自分から誰かに連絡することもできます。たっぷり寝たければ、誰のことも気にせずにお昼まで寝ても良い。それが楽だし、私にはそのスタイルが合っているんです。16歳からたくさんの人と関わる仕事をしてきたから、人と関わるのが嫌になってしまったのかもしれませんね。良いこともあったけど、悪いこともありましたから。自分が家族団らんというものをあまり味わってこなかったことも、そう考えるようになったきっかけだと思います。
もし、私が温かい家族を求めていたら、すでに結婚していたと思いますよ。でも、私は今、1人でいることが幸せでしょうがないんです。本を読んだり、テレビを見たりしていたら、意外と寂しさは感じないんですよ。
私のような高齢者の1人暮らしはこれから先もっと増えていくと思います。そうなれば、誰にも気づかれないで1人で死んでしまう人も増えていきますよね。周りの人には多少迷惑をかけてしまうかもしれないけど、仕方のないことだと思う。ある程度はご容赦いただきたいなと思いますね。
もし、自分に何かあったときにケアしてくれる誰かがいる生活が良いのなら、医者や看護師が常駐するケアマンションに入居する。これも一つの選択肢だと思います。
――最近はキャンピングカーを購入されて1人旅にも出かけられるそうですね。
池畑慎之介: はい。桜前線を追いかけながらキャンピングカーで2週間ほど旅したり、九州をぐるっと一周したり、深夜にふと思い立って景色のいいところをドライブしたりしています。思い立ったらすぐ出かけられる暮らしが性に合ってるんです。
今度は、高速道路を使わずに海沿いの国道だけを通って旅してみたい。いろいろな名所をのんびり見ながら、下道で果てなき道をドライブしたいんです。北海道一周もしたいですね。ほんと、夢はいっぱいありますよ。
そんなことを友達に話すと「1人だからあんたは良いよね」って言われます(笑)。ただ、それも一長一短で、1人の楽しさは1人の寂しさと引き換えなんですよ。何かを犠牲にすることで、何か良いものが入ってくるのだと思っています。
「引き換え」という考え方は、住むところも同じ。私は都会が嫌いだったから、40歳のとき、東京を離れました。富士山と海が見える景色のいい場所に家を構えて、精神的にもすごく良かったですね。ただ、高台にある家だったので、景色が良い分、家に帰るときは坂道を上らなければいけなかったり、海風が強かったりなど、それなりに不便はありましたね。
でも、まったく後悔はありません。仕事で東京まで1時間半かけて通うのも苦にならないですね。仕事場へ向かうまでの時間は、仕事でエンストしないようにするためのアイドリングの時間になりますし、帰りは、都会の嫌なことや何かイガイガしたものを捨てながら帰ることができる。そうやってクールダウンすれば、家に帰るころには、すっきりキレイに忘れられます。
都会の便利さを捨てれば、毎日海のそばで暮らせる。何を大事に考えているのかを見極めて、家もライフスタイルも全部取ろうと思わないことですね。
「先の不幸は考えないようにしている」マイナス思考に今の楽しみを奪わせない
――70代を迎え、池畑さんは健康維持のために取り組んでいることはあるのでしょうか。
池畑慎之介: 年齢的に無理なことはしたくないですね。月に1日何時間体操してとか、運動を習慣にしてとか、そういうのはいいかな。70年生きて、54年間芸能界で頑張ってきたんだから、もうちょっと好きにさせてよって思うんですよね。
ただ、自然と家の外に出たくなるような工夫はしています。前の家は、家の中にいながら海が見える眺望だったのですが、今の家はどこからでも海が見える間取りにはあえてしませんでした。家から海も見えるんだからどこにも行かなくてもいいやって思ってしまって、家から出なくなってしまう。海を見に行こう、と思ったら外に出かけるようにしたかったんです。それくらいしないと家にこもって外に出なくなりますからね。
――70代を迎えられてもイキイキと生きるための秘けつは何でしょうか。
池畑慎之介: あんまり先の不幸なことを考えないようにしていることかな。未来に不安を抱くことって大事かもしれないけど、何か楽しみが奪われてしまっているように感じてしまうんです。マイナス思考になってしまうし。ああなったらどうしよう、こうなったらどうしようと考えるよりも、なるようになるさって思った方が良い。
私は年齢を背番号だと思っています。私は「今年から10年間、70番台の番号が付けられる」という気持ちです。70代って言っても1人ひとり体力が違えば育ちも違う。その人の趣味嗜好も違うんだから、年齢なんて関係ないですよ。
池畑慎之介
1952年大阪府生まれ。1969年、映画『薔薇の葬列』で俳優デビュー。同年には『夜と朝のあいだに』で歌手デビューを果たし、日本レコード大賞最優秀新人賞、ゴールデンアロー新人賞を受賞。俳優活動のときは「池畑慎之介」、歌手・タレント活動のときは「ピーター」名義を使い分けていたが、2019年から「池畑慎之介」に名義を統一。現在も俳優・歌手・タレントとして芸能活動を続ける。
<Yahooニュース>
「何かを犠牲にすることで、何か良いものが入ってくる」70歳・独身の池畑慎之介が自分らしくイキイキと暮らせる秘けつ